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自分のためだけの自己実現の「強烈な虚しさ」は何か?

自信について(8)自分の「道」はどうすれば見つかるか

対談 | 執行草舟田村潤
情報・テキスト
自分の「道」はどうすれば見つかるのだろうか。自分本位の「自己実現」を果たしたところで、「強烈な虚しさ」を感じるだけになりかねない。「量の追求」を求める現代社会では、「道」を見つけるのは難しい。だが、キリンビールでは全員が「道」を見つけたという。それは一番高いレベルに向かったからであった。向かっているあいだに「これが自分だ」と感じる瞬間がある。それが「道」なのだ。あるコーヒーチェーンではアルバイトが「どうしたら幸せになれるか」という議論をしている。多い回答は「お客さんに喜んでもらいたい」で、「いきいき生きる」と「誰かのために尽くしたい」は、じつは「道」に近いものがある。(全12話中第8話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:10:27
収録日:2022/01/25
追加日:2022/05/13
カテゴリー:
≪全文≫

●「すべてを手に入れた」ときに感じる強烈な虚しさ


執行 戦後の日本人は、真実を知ることが重要です。自信をつけられない社会で自信を持とうとすると、本当におかしくなってしまいます。そこを今回の対談を見ている人には、注意してほしいです。

田村 やはり、松下幸之助さんや出光佐三さんの精神を引き継いでいく。それが日本人の生き方です。

執行 その一例として、先ほど、出光が出ました。

田村 そこから真のやる気が出てくるのです。

執行 真のやる気や自信が出てくる。だから自信とは、出たときは自信ではないのです。

田村 そうですよね。「無我夢中」という感じです。「そこへ向かうんだ」「それ以外やらない」という。

執行 かえって、先ほどから言っているように、苦悩や枯渇感です。自分の足らないところをもっと求める。求めるものが大きくなるわけですから、出てくるのは枯渇感です。それが真の自信です。だから自信が出たら、枯渇感が出てきて、苦悩が始まると思えばいいのです。

―― 傍からはすごく自信満々に見えるけれども、自分自身の中では……。

執行 枯渇感だということです。

―― 常にそういうものだ、ということですね。

執行 もっと上をめざすわけですから。

田村 「今のままではいけない」という前提ですね。「これをなんとかする」と思うのは枯渇感です。「それを埋める」という。

執行 今の若い人で、「いろいろと自信を失った」とか「自信を持ちたい」と言っている人に私はごまんと会いました。この時代ですから。でも、みんな、「いばりたい人」だけです。「自信を得たい」と言っている人は、いばりたい、格好つけたい。それで他人評価を気にしていて、人よりもいい思いしたい。そういう「くだらない思い」です。

 そういう、くだらない思いを捨てたら、自信を持とうなんて思いません。自信なんて「バカ」が持つものです、歴史的には。だって、豊臣秀吉だってダメになったのです。そうでしょう?

田村 そうです(笑)。

執行 おかしいですか?

田村 全然、おかしくありません。

―― おっしゃるとおりだと思います。さらにもう一つ別のことをお聞きします。田村先生のお話で、「大義に向かって行動する精神が根付くと、そこからは大丈夫だ」というお話がありました。今までの話のなかでは、自分の道を見つけるということがありました。お蕎麦屋さんなら「自分はこの蕎麦屋で行く」という精神が確立すれば、「理想の蕎麦をどう追求するか」というところに行く。大義に向かって行動するというのも、キリンビールであれば、その大義が「おいしいビールをどう届けるか」になるのでしょうが、そもそも道が見つかっていない人が多い気がします。何が道なのかわからない。

執行 それは量の追求をするからです。

―― そこをどうすると自分自身の覚悟が固まるのか。道が見つかるのか。

執行 「量の追求」という間違いに入ってしまうのは、今の時代の価値観が「量」だからです。アメリカン・グローバリズムです。だから人から褒められたい人です。私の人生でもわかります。量の追求をして勝ち抜く人が、先生にも上役にも社会の人たちにも一番褒められる。

 だから「量」が間違いだということに気づく以外ないです。これはアメリカ思想であり、アメリカン・グローバリズムです。アメリカ人がこれで成功できたときは、先ほど言ったようにアメリカにキリスト教があった。だからアメリカも良かった。でもそれがなければ、単なる「量の無間地獄」です。仏教でいう際限のない地獄に入っていく。

田村 だから今は、「道を見つけよう」と思って見つかるものではないのです。キリンもそうでした。では、なぜ全員が見つけられたかというと、一番高いレベルのところに向かったからです。理念に向かったから、向かっているあいだに「自分はこんなに素晴らしいものなのか」「これが自分だ」と感じた。「これが本当の自分だ」と感じる瞬間は、そういうときにけっこうあります。それが「道」なのです。

 だからやはり目の前のことを、一生懸命やる。最初は単なるサラリーマン的な一生懸命さですが、何かに向かっているうちに道が見つかる。必ず見つかってくるのだと思います。

 先日、有名な女性の文学者が書いた、以前ベストセラーになった面白い自己実現の本を読みました。最後のページで女主人公は「すべてを手に入れた」と書いてあるのです。名誉、ポジション、お金、格好いい男性、すべて手に入れた。「でも、この強烈な虚しさは何だろうか」というのが最後の結びなんです。

 これって、けっこうわかるのです。 自分がやりたいことを一生懸命やっても、全然、自己実現になっていないのです。むしろ虚しさがある。本当の自己実現というのは、やはり他者のため、社会のため、誰...
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