●「初心」や「原点」を知ることが勇気の根源になる
田村 自分の感じとしては、「自信」というより「あ、自分はこれなんだ」という感じです。「この道を行くのが自分なんだ」という腹の落ち方です。
執行 それは「道」だからです。
田村 「自信」かどうかはわかりません。「自信」というよりも、「うまくいくかわからないけれど、これなんだ」という感覚です。
執行 だから、それは「自信」ではないのです。それは良いのです。道の途中で煩悶しているのです。煩悶しているけれど、とりあえずこれを行くしかない。「これをやってみよう」と。それが先ほど言った「体当たり」です。それは当然、一生です。
私は今71歳ですが、もちろん今日やっていることも、今月やっている経営も全部、自問自答です。正しいことも一つもないし、間違いの連続ですが、これは仕方ありません。体当たりするしかない。
田村 理想に向かわないと、体当たりできないですから。
執行 そこなのです。理想がない人はできません。
田村 企業では「理念」ですし。それができないのは、がんじがらめになっているからです。「企業の一つの歯車として言われたことを正確にやる」ということに。
執行 それは企業を安く見ているからです。自分の心が悪いのです。
田村 それを乗り越えるのはやはり、自問自答ですよね。企業の存在理由を、自分が行動することで、いかに実現するかという。
執行 これはいつも言っていることですが、存在理由を知りたかったら「初心」を知ることです。どの会社でも、どの国でも、どの家庭でもそうです。その企業ができたときの創業者の志です。国だと、建国の理想です。何千年経っても国家は、建国の理想がその国家の本質です。日本なら、神武天皇の詔です。あとは神武天皇の詔でできた憲法十七条とか。それが日本の初心です。
企業にも全部あります。松下幸之助の初心もあるし、出光佐三の初心もある。出光佐三なら出光佐三の初心を忘れたときが、その企業がある意味では死ぬときです。
田村 そうですね。
執行 私がよく「歴史」と言っているのは、要するに「初心の歴史」なのです。この歴史とは、中間のいろいろな出来事ではありません。すべて物事は初心の歴史。初心を知らなければダメです。それを知ると勇気の根源になってきます。
田村 そうです。その作業だったのです。キリンも一時、大変な危機に陥り、こうなると何をやっていいか分からなくなってしまう。軸が分からなくなる。ライバルメーカーが調子よかったから、ライバルメーカーの真似をするのが、自分たちのアイデンティティのようになってしまう。
そのときにやった作業がやはり「原点が何か」なのです。土台です。立ち上がろうと思っても立ち上がれるものではないから。その土台とは何かというと、やはり「歴史」なのです。創業以来、ひたすらお客さんのことを考えて、おいしいビールを作り続けてきた。利益などを乗り越えて大事なものがある。その「精神」を引き継ぐことだったのです。
だから企業で一番大事なのは、やはりその「精神」です。やり方はどんどん変わっていきます。大事なのは創業者がいい時代の、その企業の持っている「精神」を正しく引き継ぐこと。これが成長発展の基本的な考え方です。これ以外はありません。
その精神は当然「善なるもの」です。「世の中に必要とされるもの」をひたすら打ち込んで作っていくとか、サービスを作るとか。そこへ向かって「挑戦」をしていく。大事なのは、社会のために挑戦する思想を今の人が、きちんとそれぞれの会社で受け継いでいくことです。
執行 これをしないのが今です。
田村 そう。それをさせようというか、しようというか……(笑)。
●西田幾多郎の本は何を読んでも「自信」も「知識」もつかない
執行 これはだから大変なことです。今、話題にしている「自信」ということ自体もそうです。今は自信を持たせようとする教育をしています。しかし、自信を持ってしまえば、もう求めなくなります、人間というのは。でも魂とは求めるものです。私は「憧れ」といいましたが、理念にしても、求め続けるものです。ある意味では死ぬまでです。一つの恋心ですから。
田村 そのほうが生命は燃えます。命というのは燃えるわけです。だから冒頭に言った日本人の社員のやる気の低さは、燃えていないからなのです。
執行 日本国家は日本人に「憧れ」を与えないで、「自信」を与えようとしている。だから間違いなのです。これを今日、(テンミニッツTVを)見ている人には知ってほしい。僕はそれを『生くる』(講談社) という本にも書いています。自信を持とうとしたら、必ず本人がダメになる。持ったときに。歴史的には、さっき言ったように、豊臣秀吉ですら、ただの傲慢なじ...