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想定すべきは台湾有事、ウクライナ危機から学ぶべき教訓

ウクライナ戦争に揺らぐ国際秩序(4)ウクライナ戦争の教訓

山内昌之
東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授
情報・テキスト
ロシアのウクライナ侵攻が深刻化する中、アメリカを中心としたNATO(北大西洋条約機構)は、第三次世界大戦へ発展することを恐れて軍事行動を避けている。しかし、ロシア軍の侵略は激しさを増し、民間人も巻き込まれるなど、状況は日々悪化している。こうした事態を前に、私たちは今どうすべきなのか。(全4話中第4話)
時間:12:46
収録日:2022/04/01
追加日:2022/05/20
カテゴリー:
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≪全文≫

●第三次世界大戦を恐れて思考停止に陥ってはいけない


 皆さん、こんにちは。

 とりわけ現代のウクライナ戦争の問題点は、アメリカをはじめとしたNATOの国々が、第三次世界大戦への道を歩まないために、軍事行動は起こさないことを今の段階ではっきりと言い切ったことではないかと思います。

 この理屈、すなわち第三次世界大戦への道は、本当に現実的にあり得るシナリオなのかどうかを考える必要があります。もちろんあらゆる可能性は想定されるべきなので、第三次世界大戦への道を歩むことを全く排除することはできないと思います。あらゆる可能性は当然想定されるべきであり、排除されるべきではありません。

 ロシアがいわば大義無きウクライナ戦争に突き進んでいるのは確かです。他方で、ロシアがこれから訪れる苦難や困難な状況を打開するために、大量破壊兵器を本当に使う場合、使用後の未来を現実に予測することができているのかどうかは、ロシアの国家としての一つの大きな課題になります。つまり、ロシアは未来の自国のあり方や、自国の信頼性や存在感を全く最初から無視して、核の使用や戦争を考えるのかどうかという問題があります。こうしたことについて、ロシアは国家として、理性的あるいは現実的に予測しなければいけません。

 そうでなければ、問題はプーチンの心理と病理に関わるだけになってしまいます。一方的にプーチンがハードルを上げた要求に対して、全て屈しなければならないという理屈になります。私たちはプーチンが上げたハードルに対して、どう対抗していくのかという理屈と構えを、これから考えなければなりません。第三次世界大戦が起こり得るから、あるいは起こるからという理屈の先に来るのは、「だからプーチンの言うことは全部聞かなければならない」という恐ろしい理屈になります。

 第三次世界大戦は世界最終戦争を意味することになります。したがって、ロシアという国家にしても、プーチンの病理的な決断に、専門職としてのロシア軍の合理的な判断がどう関わるのかを問題にしなければなりません。こうした「エスカレーションのジレンマ」に予めはまろうとするのは、多様な選択肢とロシアへの要求を自ら放棄することに同意することになります。これは政治家、職業外交官、あるいは軍人としての職業的な責任や倫理を自ら放棄することにつながらないだろうかと私は考えています。


●NATOに頼るだけではなく、自国での備えも必要


 今回の危機における最大の問題は、アメリカやNATOの合理形成や決断の前に、ロシア、もう少し正確にいえば、プーチンのペースで戦争が始まったことです。この事実が大変重いのは、何回か指摘したように、核を保有し、国連安保理の常任理事国であるロシアが、その周辺国、あるいは隣国に侵攻、侵略したという事実が生じると、そのことが高い確率で別の機会に同じような事態が生じることを示唆しているからに他なりません。

 東アジアや日本の安全保障に関わることとして一番恐れていて、少なくともシナリオとして念頭に置かなければならないのは、台湾有事です。 台湾有事を想定した場合、習近平主席は大変大きな関心をもって、プーチンの打ったボール、いわばバッティングの軌跡がどう通っていくのか、どこで曲がり、どこで真っ直ぐいくのかという曲折のラインを注意深く、厳密に、そして多面的・多角的な分析を経て見ていくことが大事で、今現実にそうしていると思われます。

 域外であることから、アメリカをはじめNATO諸国が、広い意味でウクライナを守っていないのが現実です。ウクライナは加盟国ではないということで、直接に関与していません。もちろん軍事援助等を可能な限りしているという誠実さや誠意を見せていることは認めなければいけません。しかし、ロシア、特にプーチンという人物はそのいろいろな限界、あるいはその境をよく見ています。

 そうすると、結局のところ、防御力や信頼感への懐疑心が他の国にも浮かんできます。バルト三国やポーランドなどの国々は、アメリカやイギリスをはじめNATOの国々がエスカレーションのジレンマに陥った場合、加盟国への攻撃を自らのものと見なして、集団的に防衛権を行使するというNATOの第五条が発動されるのかどうかに関して、疑問あるいは懐疑心が浮かんでこざるを得ないような面が、現在の状況にあるのではないかと思います。

 この防衛力と信頼感への懐疑は、日本などにとっても同じだと思います。つまり、日本としても、ヨーロッパの秩序と国際秩序の劇的な転換点に取るべき立場を考える必要があります。例えば、前に紹介したレインが「前方防御(forward defence)」といった言葉を使っています。こういう前方防御、あるいは敵基地攻撃能力などと日本などでは語られている問題について、戦略的な概念をきちんと...
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