戦前、陸軍は歴史をどう動かしたか
この講義シリーズは第2話まで
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
ソ連を軽視し中国の資源確保を狙った統制派の戦略的な失敗
戦前、陸軍は歴史をどう動かしたか(5)戦略論の違い
歴史と社会
中西輝政(京都大学名誉教授/歴史学者/国際政治学者)
皇道派と統制派の決定的な違いは戦略論で、対外戦略や軍の将来ビジョンにその違いが見て取れたという。満洲事変以後、両派が分かれていくその戦略には、いったいどのような違いがあったのか。(全7話中第5話)
時間:9分34秒
収録日:2018年12月25日
追加日:2022年9月9日
≪全文≫

●「二・二六事件は皇道派が起こした」という理解はアンフェア


 日本の昭和史に非常にアンフェアな歴史の書き方をする人たちがある時期に出ています。彼らは「皇道派」という名前の付け方もそうですし、「二・二六事件を起こしたのは皇道派の青年将校たちだった」という理解をしている人が多いのですが、二・二六事件を起こした青年将校は、いわばワンランク格下といいますか、尉官(大尉・中尉・少尉)クラスの人たちです。彼らは皆、救国の非常に強い使命感を持っていたことは確かですが、ただ、いかんせん未熟で、国のありようをいう前に精神主義に走ってしまいましたし、むしろ、彼らと近かった皇道派の主要な軍人は、数える方が難しいほど少なかったのです。個々人の系譜を見ていくと、おそらく統制派の方に入れ込んでいた青年将校が多かったように思います。

 そのような話として最も利用されるのが、眞崎甚三郎という大物軍人です。陸軍大将で軍事参議官という、トップのトップにいた軍人です。これは戦前日本の社会では皆、「俺んところ来て、若いもんは元気じゃないといかん」「酒の1升も飲めんといかん」ということで、若い士官たちを非常にもてなして、幕末の志士気取りの雰囲気をあえて養ってあげるような文化が残っていました。眞崎甚三郎は特にそれを目指してやろうとしたわけではありません。

 ただ、一方で人気取りをしようとする軍人も多々いました。例えば、荒木貞夫には確かにそういう傾向がありました。風呂敷を広げて、若者を集めて、洗脳して、そして自分の人気を高めて陸軍内の人事で有利な立場を占めようとする野心家もいたということですが、眞崎甚三郎はそういう人ではなかったと思います。

 しかし、こういう当時の社会から見て、この人たちは一時代古い人たちです。それから、陸軍の中に共産主義、社会主義の影響が入ってきたらいけないから、それに対する特効薬というか、antidote(防御・対抗手段)として、日本は天皇を中心とした神国だと、そういう精神的な天皇国家という、日本のアイデンティティをしっかり教え込みました。今の言い方をすれば、そういう言い方になります。

 そして、社会主義に簡単に染まらないような教育も若者には必要だというので、天皇がどうしたとか、あるいは国体の本義はどうだとか、そちらの方向に進んでいったのです。これにはやはり共産主義への脅威感が...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「歴史と社会」でまず見るべき講義シリーズ
『三国志』から見た卑弥呼(1)『魏志倭人伝』の邪馬台国
異民族の記述としては異例な『魏志倭人伝』と邪馬台国
渡邉義浩
モンゴル帝国の世界史(1)日本の世界史教育の大問題
なぜ日本の「世界史」はいびつなのか…東洋史と西洋史の違い
宮脇淳子
核DNAからさぐる日本のルーツ(1)人類の起源と広がり
人類の祖先たちの「出アフリカ」…その時期はいつ頃?
斎藤成也
「集権と分権」から考える日本の核心(1)日本の国家モデルと公の概念
日本は集権的か分権的か…地理と歴史が作る人間の性質とは
片山杜秀
概説・縄文時代~その最新常識(1)縄文時代のイメージと新たな発見
高校日本史で学んだ縄文時代のイメージが最新の研究で変化
山田康弘
寛政の改革・学問吟味と現代の教育改革(1)学問吟味の導入と正統性の問題
松平定信のもう一つの功績「学問吟味」の画期性に注目
中島隆博

人気の講義ランキングTOP10
海底の仕組みと地球のメカニズム(1)海底の生まれるところ
地球上の火山活動の8割を占める「中央海嶺」とは何か
沖野郷子
経験学習を促すリーダーシップ(2)経験から学ぶ力
米長邦雄のアンラーニング、弟子の弟子になってV字成長
松尾睦
続・日本人の「所得の謎」徹底分析(1)各国の財政と国民負担
日本と各国の比較…税負担は低いが社会保障の負担は高い
養田功一郎
未来を知るための宇宙開発の歴史(9)宇宙開発を継続するための国際月探査
「国際月探査」とは?アルテミス合意と月探査の意味
川口淳一郎
大統領に告ぐ…硫黄島からの手紙の真実(4)百年後の日本人のために
百年後の日本人のために、共に玉砕する仲間たちのために
門田隆将
第2の人生を明るくする労働市場改革(1)日本の労働市場が抱える問題
シニアの雇用、正規・非正規の格差…日本の労働市場の問題
宮本弘曉
外交とは何か~不戦不敗の要諦を問う(1)著書『外交とは何か』に込めた思い
外交とは何か…いかに軍事・内政と連動し国益を最大化するか
小原雅博
数学と音楽の不思議な関係(1)だれもがみんな数学者で音楽家
世界は音楽と数学であふれている…歴史が物語る密接な関係
中島さち子
「集権と分権」から考える日本の核心(5)島国という地理的条件と高い森林率
各々の地でそれぞれ勝手に…森林率が高い島国・日本の特徴
片山杜秀
「アカデメイア」から考える学びの意義(1)学びを巡る3つの危機
「学びの危機」こそが現代社会と次世代への大きな危機
納富信留