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皇道派の多くは精神主義ではなく、開明的な情報将校だった

戦前、陸軍は歴史をどう動かしたか(4)皇道派の人物列伝

中西輝政
京都大学名誉教授/歴史学者/国際政治学者
情報・テキスト
皇道派は精神主義のようにいわれるがそれは誤解であり、実は開明的で知的な人々が多く、欧米列挙の情報や文化に親しんだ。例えば、知的な軍人だった小畑敏四郎、戦後に吉田茂のブレーンも務めた辰巳栄一やユダヤ人を保護した樋口季一郎、あるいは小野寺信といった人が挙げられる。(全7話中第4話)
時間:07:20
収録日:2018/12/25
追加日:2022/09/02
≪全文≫

●皇道派は実は最も開明的な情報将校だった


 皇道派はよく皇(すめらぎ)の道の派閥、何か神がかりの天皇崇拝一点張りで、精神性ばかりで中身がないという、精神主義、内面主義のようにいわれるのですが、実はそうではありません。最も開明的な情報将校たちです。ヨーロッパの状況、あるいはアメリカをはじめとする列強の軍事情報、あるいは各国の文化、社会の思想、主張に対して非常に敏感に、問題関心を持っていました。知的な少壮軍人(もちろん情報将校は知的でなくてはいけませんが)は統制派よりは皇道派に集結していくわけです。

 昭和史において人脈的な説明をすれば、上原勇作という明治・大正の大物軍人がいるのですが、そうした宮崎系の薩摩閥の人たちがいて、そこに佐賀閥、要するに長州閥に入れない軍人たちが集まってきたのが反長州派で、それに対して、統制派は長州閥が多い。バーデン=バーデンの盟約においても、陸軍の人事で藩閥人事をやめようという問題意識から将来的には長州閥を排斥していこうということで彼らは表向き盟約を結んでいるわけですが、それは少し違うと思います。

 私の昭和史理解では、明らかに皇道派の方が知的な人が多く、典型的には先ほど出てきた3人からいえば、小畑敏四郎です。彼はものすごく知的な軍人であり、ロシア武官で、ロシア語もドイツ語も完璧にできたそうです。それから、作戦の神様といわれるほど、あるいは現在のクラウゼヴィッツといわれるほどの軍事理論の体現者でもあったわけですが、それ以外にも、各国についての知識が非常に優れた人が多いのです。


●吉田茂のブレーンも務めた在英武官の辰巳栄一


 私の知るところでいえば、現実に例えば戦後でも長い間、吉田内閣のブレーンとして活躍して自衛隊の創設にも貢献した辰巳栄一という軍人がいます。この人は終戦時の陸軍中将でしたが、佐賀閥で佐賀県の出身でした。当然人脈的にも皇道派に属するわけですが、イギリスの在英武官を何度も務めています。

 吉田茂とは昭和10(1935)年前後に特にロンドンでの知己で、駐英武官と大使というつながりで親しくなって、戦後、吉田内閣のブレーンになる人です。アメリカ占領軍からも非常に信頼されていた、開明派の軍人です。


●ユダヤ人を保護した樋口季一郎


 その他にも、例えば有名なところでいえば、ドイツの迫害から逃れてきたユダヤ人を満洲国の関東軍が受け入れたのですが、満洲で保護した樋口季一郎がいます。樋口季一郎は、終戦時には中将で北方軍総司令官ですけれども、明らかに知性に勝った軍人です。もちろん三国同盟にも反対したし、「対米開戦もってのほか」ということで、山本五十六とほぼ同じような政治意識を持った人です。

 そういう人は陸軍にもいて、しかもこの人は昭和の初めから桜会などに属して、「この国の形を変えなければ」ということで、昭和の国家主義運動に携わったことがあるほどの人でした。ヨーロッパ駐在が長く、ポーランド武官や、あるいはオーストリア武官をやっていますので、当然ながら、一番飛び切りのインテリの情報将校でもあったわけです。社交ダンスが非常にうまく、当時、本物の外交官よりも外交官らしいといわれたほどのスマートな軍人だったわけです。こういう人が皇道派の典型的なタイプなのです。

 情報将校で一番有名な人に、近年、いろいろ話題になっているスウェーデン武官の小野寺信がいますが、この人も戦争には反対でした。ヨーロッパをよく知っていて、戦時中もストックホルムでスウェーデン駐在武官として、連合国がいかに対日の準備をしているかということで、あるいはヤルタ会談が開かれそうな時、日本はすぐに和平に動かないと大変不利なことになるということを言っていました。

 ですから、辰巳栄一にしろ、樋口季一郎にしろ、小野寺信にしろ、当時の日本の中枢部には受け入れられないような、しかし後世から見ると実に的確に世界の歴史の趨勢を見抜いていたような人たちが、ほとんど例外なく皇道派に集中していたということです。
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