●ユダヤ神話の「起承転結」
―― 皆様、こんにちは。
鎌田 こんにちは。
―― 本日は鎌田東二先生に、ユダヤ神話のあらましについてお話をお伺いします。どうぞよろしくお願いをいたします。
鎌田 よろしくお願いします。
―― まず、ユダヤ神話のあらすじですけれども、ユダヤ神話はどのような構造になっているのでしょうか。
鎌田 ユダヤ神話を簡単に起承転結で語ると、最初の「起」にあたるのが天地創造です。7日間で神が天地を創造し、6日目に人間の祖先であるアダムとイブをつくります。
「承」にあたるのが、その子孫にあたるアブラハムという人物が、今のイスラエル(聖書ではカナンの地)に入っていく。神の啓示を受けて、「乳と蜜の流れる地」に行く。これが「承」にあたります。
その後、子孫がエジプトで奴隷の境遇になっていて、奴隷の状態から民族移動して脱出させる。これをモーセが率いていく。これが「転」になるわけです。
その後、後継者ヨシュア、士師やサムエル、預言者たちに引き継がれていき、最後の「結」で紀元前597年にバビロニアに捕囚されてしまいます。
―― これは国が敗けたということですか。
鎌田 国が敗れて、バビロニアに囚われ人になるわけですね。捕虜になってしまうわけです。そして故郷を離れて、今のイラクのほうに移住させられてしまう。そこから約60年近くたって、帰還することができたという形で「結」になり、その後、ローマ帝国に支配される。
そのローマ帝国時代に、イエスという人物が登場して、キリスト教徒はイエスを救世主メシア(キリスト)としてあがめた。このような流れになるのがユダヤ教とキリスト教の大きなあらましになります。
●天地創造と牧畜文化の始まり
―― 次にユダヤ神話における世界の始まりについてですが、これは有名な天地創造になるわけですね。
鎌田 神が「光あれ」と言ったら光があった、また夜と昼を作ったなど、神は言葉でこの天地を創造していく。そして、神は唯一なる神である。創造する神であり唯一なる神で、言葉による創造をもたらしていく。これが世界の始まりですね。
―― 人類もその流れの一環で出てくるということですね。
鎌田 はい。6日目に人類の祖先であるアダムとイブが、土(粘土のようなもの)をこねて、神に息を吹き込まれることで生まれてくる。その子孫にあたるのがカインとアベル、あるいは(ノアの方舟の)ノアということになって、さらに時代を降るとアブラハムというイスラエルの地に入っていく人物が出てくるということです。
―― 文化もその流れの中で生まれてくるわけですね。
鎌田 文化をどう捉えるかですけれども、ユダヤ教の文化背景、なりわいは基本的に牧畜文化です。その牧畜はどこから始まっているかを考えると、カインとアベル(つまりアダムとイブの子ども)です。
2人兄弟の兄がカイン、弟がアベルです。兄は農耕者になり、農業を行います。アベルは牧畜者になるわけです。羊飼いですね。それで、神にそれぞれ感謝の捧げ物をするのですが、神は兄・カインのほうの捧げ物を受け取らず、アベルのほうの捧げ物を受け取ったので、非常に嫉妬して、弟を殺してしまう形で神に対する反逆をする。カインの末裔は額に傷(印)をつけられて逃げていくという話になります。
そのアベルによって始まった牧畜を受け継いでいくということになります。
その後、時代を降っていき、モーセの時代になる紀元前12世紀頃にはエジプトの奴隷の境遇になっています。エジプトの奴隷の境遇になっているところから、イスラエルに帰還しようという動きをするわけです。大きな民族移動をして、航海の途中に水(海)が真っ二つに分かれたという有名な奇跡の話がそこで出てくるのですが、そのような中で率いていたイスラエルの部族たちが、バラバラになってしまう。そのバラバラになってしまいそうなところに、神が「十戒」という戒律を与えるわけです。
その戒律とは、「あなたはわたしのほかになにものも神としてはならない」という唯一なる神の信仰、「神の像を作ってはいけない」という偶像崇拝の禁止(エジプトは偶像崇拝ですから、偶像を作ってはいけないよと)、「神の名をみだりに唱えてはならない」(エジプトは神様の名を唱えておりますから)、「安息日を守る」という宗教的な戒律を、10のうちの4つの大事な掟として定める。そのようなことが文化の始まりといえると思います。
そしてモーセは、ユダヤ教徒たちの一番重要な英雄、指導者に位置づけられていき、120歳まで生きたといいます。そのような「モーセ五書」と呼ばれる5つの書を繰り返し、ユダヤ教...