●ウクライナ侵攻の動向を中国がどう見ているかを考える
―― 翻って考えた場合に、われわれの身近な東アジアがどうなるかという問題もあります。特に最近、台湾危機などもかなり危険なのではないかという情報も出たりしております。このウクライナの侵攻があった後で、台湾問題(台湾海峡の問題)がどうなったかという部分についてはどういう変化が起きたと思われますか。
小原 世界的にいろいろな影響があったと思うのです。皆さんもご承知の通り、この戦争を止められなかったと。なぜ止められなかったのかと。これは戦争の前から想定はされていたことなのですけれども、国連が機能しなかったのです。国連安保理ではロシアは常任理事国ですから、拒否権を使えば決議は通らないわけです。もちろん総会で決議は通りましたけれども、総会には強制力はないわけです。
要するに、国連が動かない。ではどうするのだと、例えば経済制裁をします。しかし、その経済制裁というのは、今、世界の相互依存が高まってくる中で、諸刃の剣のようなことになるわけです。
つまり、ヨーロッパがロシアからのエネルギーの輸入を止めてしまうことによって、その収入が戦争に使われることを防ごうとします。しかし、その結果、エネルギー危機がヨーロッパに起こるわけです。よく、両者の相互依存はwin-winだから戦争を防げるというのですけども、一旦こういう状態になるとlose-loseになるわけです。
他方でロシアの場合には、中国やインド(との関係がポイント)です。特にインドもQUADの一員なのですけれども、どうしても国益というものを皆、考えます。成熟していない国際社会の中では、例えばインドは安い石油が入るのであれば、それを買いましょうとなる。もともと伝統的には、インドとロシアは非常に深い関係があります。
このように、ヨーロッパではエネルギー危機に陥ってでも(ロシアの)制裁をしないといけない、(ロシアからの)エネルギーの輸入をできる限り止めるということをやっている、その他方で、国やインド、あるいはそれ以外の途上国では、(石油が)安くなったからどんどん買おうということになってきています。よって、経済制裁もなかなか当初の効果は上がらないのです。
片やアメリカは、ウクライナに対して、NATOに入っていないわけですから軍の派遣はしないということを前々から言っていたわけです。こういったことが重なって、戦争を止められなかったし、今も止められていないという状況が続いているのです。
そういった状況を、習近平氏がどのように見るか、ここからどういう教訓を得ているだろうかということを考えないといけないわけです。おそらくプラス・マイナスあると思います。
短期決戦と思っていた戦争がこれだけ長引いて、ロシア軍にも相当な犠牲が出ています。こういった状況を見た場合に、戦争はそう簡単ではないということは当然ながら習近平氏も考えます。
かつ、陸続きのウクライナ戦争とは違って、(台湾には)130、140キロメートルという海峡を渡らないといけないわけです。これはもう大変なオペレーションになってくるわけです。渡る間に、台湾も黙っては見ていませんから、相当な犠牲が出ると思うのです。
前回ジャベリン(対戦車ミサイル)の話をしましたけれども、いわゆる「非対称戦争」、つまり台湾がハリネズミのようになるゲリラ戦を展開すれば、数日でかたをつけるのはかなり難しい。そこにアメリカが介入してきたらどうなるのかと。
他方で、今回アメリカは、軍事支援はしつつ軍事的には介入していないわけです。バイデン大統領が戦前から言っていたように、ロシアと直接戦争になれば核戦争になるかもしれないので、それを避けないといけない。バイデン氏はそう公言しているわけです。こういうことを例えば習近平氏が耳にしたとき、習近平氏が何を考えるでしょうか。つまり、核の恫喝とは効くではないかと。実際、プーチン大統領は核の恫喝をしているわけです。したがって、台湾に対しても、そうした核の恫喝が効くのであれば、アメリカは出てこないかもしれない。そうした計算を今、しているのだろうと思います。
●戦わずして統一するか、武力統一に走るのか
―― 台湾危機というと軍事的な衝突というものが大きく意識されるところであります。そのような状況で軍事的に制圧するのはどうかという問題もあって、直近の話題ですと、台湾の地方選挙で民進党が敗北をしたという状況がありました。そのように、例えば中国本土から台湾政治に手を突っ込むことによって、自分に望ましい状況をどうつくるかということも当然大陸としては考えると思いますが、このあたりはどう思われますか。
小原 「孫子の兵法」という言葉がありますね。習近平氏は、そうしたいろいろな歴史に学ぶというこ...