●情報のカテゴリー化を支える「概念」の機能
こんにちは。鈴木宏昭と申します。今日は「認知バイアス」という話をしますが、認知バイアスの話はすでに2つのトピックについて収録されております。今日は認知バイアスの中でも「概念」というものに焦点を当ててお話を進めていこうと思います。
これは認知の図式というものです。詳しいお話は左下の「誰もが陥る認知バイアスとは何か」ということで、前回の「認知バイアス入門」という意味でのシリーズ講義である程度詳しくお話ししています。ですので、今回は軽くお話をしていきます。
まず世界から情報が入ってきます。そうすると私たちはその中の一部に注意を向けて、それを知覚します。そのうちの一部が記憶というところ、記憶といっても、いわゆる思い出という意味での記憶ではなくて、頭の中の作業場なのです。これを専門用語では「ワーキング・メモリー」というのですが、そこに伝わります。そこに伝わった情報がどういう情報なのかということを判断するプロセスがあります。これが「カテゴリー化」です。このカテゴリー化を支えているのが「概念」です。目の前のものがどういうものかということが分かると、そこから自分は何をしようかとか、プランを練ったりとか、何かこれからこういうことが起きるのではないかというような予測をしたりとか、そういう思考のプロセスが入ってきます。そして、あるときにはその内容を他者に言語的なコミュニケーションを通して伝えて、他者と共同するというような流れがあると思います。
この全てのプロセスに、有名な認知バイアスが関与しているのですが、今日はその中でも、概念・カテゴリー化における認知バイアスである「代表性ヒューリスティック」に焦点を当ててお話をしていこうと思います。
●非合理的なのに誰もが陥る「連言錯誤」
最初に問題を解いていただきます。こういう問題です。「リンダは独身で31歳の率直な女性である。彼女は大学で哲学を専攻して、社会正義の問題に関心がある」。こういう記述が与えられます。その後に、実験に参加した人たちは、リンダが銀行員である確率、それからリンダがフェミニストの銀行員である確率の2つを書いてくださいというようなことを言われます。この問題は非常に有名な問題で、ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンという大変に有名な心理学者であり、かつ経済学者でもある彼たちが作った問題なのです。
さあ、どうでしょうか。皆さんの答えはどうなったでしょうか。
大学などでこれを学生たちに解いてもらったりすると、ほとんどの場合、こういう回答が出てきます。もちろんこれは正確に0.38とか、0.57などという値はもちろん出せるはずはなく、具体的な値はどうでもいいのです。ポイントは何かというと、1と2で、どちらのほうが多いと言ったかということなのです。ほとんどの人は2のほうの確率が高いと判断をします。しかし、残念ながらそれは間違いなのです。
もう1つ問題をやってみましょう。これは、現在東京大学の名誉教授である市川伸一先生が、ある本の中で作っていた問題です。「田中さんは高校時代から数学に抜群の成績を収めていた。彼はやや冷たい感じの男性で、論理的、合理的な思考をもっとも得意とした。そしてこの田中さんは20年後に大学の教員になっていた」。さて、ここで3つのものが出てきます。文学部教授、コンピュータに関する著作もある文学部教授、理学部教授。これらを(田中さんが)なっていそうな順番に並べてくださいという問題です。これも皆さん、どのようにお考えでしょうか。
皆さんの考えを私が直接知ることはできないのですが、大学などで大勢の学生に解いてもらうと、だいたい3、2、1の順になります。理学部教授が一番なっていそう。そうでない場合は、おそらくコンピュータに関する著作もある文学部教授なのではないか。そして一番なっていそうもないのが文学部教授なのではないか。このように考える人たちが大多数なのです。
これも正解はなく、厳密に1つの答えが正しいということはないのですが、やってはいけないことが1つだけあるのです。それは1と2の順番です。2のほうが1よりもなっていそうだと考えるのはダメなのです。先ほどのリンダの問題にしても教授の問題にしても、どうして皆さんの多くが考えそうなことが間違いとなってしまうのかを解説します。
先ほどの問題に連言錯誤と書いてありましたが、連言というのは何かというと、これは...