●「米イールドカーブ逆転時」の日銀の利上げは正しいか?
では、2023年から2024年、それ以降にむけ、今後、金融経済はどうなるのでしょうか。この資料をご覧ください。
上段はアメリカの10年、2年の金利動向で、青い線が10年金利、オレンジの線が2年金利です。中段は10年と2年金利の差を表しています。縦にシャドーが入っているところは、イールドカーブの逆転現象、つまり、10年と2年金利の逆転現象が起きている部分です。
こうして見ると、現在は、ここ30年位で3回目ですが、前回2回はITバブル崩壊とリーマンショックであり、いずれもその後、景気後退、金利低下が発生しています。
通常、金利は期間が長いほうが高くなるものですが、このように時々逆転現象が発生します。これは短期の政策金利を中央銀行が上昇させながら景気刺激やインフレを抑制的にする中、徐々にその効果が現れ、長期金利は先を見て低下に向かうためです。
それに加えて、もう一つ奇妙な一致についてお話しします。実は米イールドカーブ逆転時と日銀の金融引き締めの時期が重なっているのです。
2000年以降、日銀の利上げ局面は2回ですが、いずれもシャドーのかかった米金利逆イールド期に利上げしています。このようにタイミングが重なるのは、決して偶然ではないと思います。
これは、日本は経済のダイナミズムが対地域より弱く、米経済がピークを打つ頃、ようやく利上げの環境が整うからであるとみています。(2022年)12月の出来事は将来に向けた利上げの布石だったかもしれず、さらに今、日銀がどう動くか注目されています。目下、注目される日銀の政策変更も、このような中長期の文脈の中で見ていくと、また違った意味合いを持ってきます。
●日本の投資家が米国債を購入・運用する場合に起きること
ちなみに、現在日本の機関投資家が米国債を購入し、運用する場合、どのようなことが起きるでしょうか。為替ヘッジをする場合としない場合では大きな違いが生じます。
為替ヘッジを行うことは、米ドルを調達してその資金で運用することと同義です。これを債券貸借取引(レポ取引)で行うか、通貨スワップを使って行うか、いろいろ方法はありますが、基本的には同じです。
かかる中、ドルを短期で調達し、長期債を買って運用するとどうなるでしょうか。逆ザヤになります。仮に長期で調達しようとすると、追加でプレミアムを支払う必要があり、かなりコストがかかります。
よって、今、日本人が米国債券の運用を、為替ヘッジを行いながら行うと逆ザヤになって損するのです。社債など利回りの高い債券を対象にすれば利ザヤは改善しますが、クレジットリスクが発生します。クレジットリスクとは、発行体の財務悪化により社債価格が下落するリスクです。
だからといって、日本国債の運用で良いかといえば、今の低金利で運用するのも、将来の金利上昇リスクを考慮すると、割に合いません。結果として、高金利を享受しようとすれば、為替リスクという別のリスクを取ることになります。
こうして考えると、日本の機関投資家にとって、現在、債券運用を行うのは相当難しい環境だということが分かるかと思います。
そうすると、話は戻りますが、日本の投資家の中には、日銀がYCCを解除し、金利が上がることを望んでいる人々がいることが予想されます。
さて、このように金利市場からみると、今後は景気減速が予想されます。
ただ、仮に景気悪化しても、リーマンショックの時とは違うと思います。なぜなら、リーマンショック後、グローバルな大銀行には資本規制がかかり、銀行を通じた過度なレバレッジはかかっていないからです。よって、破綻が連鎖的に起こる可能性は低く、これまで発生しているような破綻やイベントが散発的に発生することが考えられます。
●中長期的な為替の動向…ついに1971年当時と同じレベルの円安に
最後に、中長期的な為替の需給構造について見ていきたいと思います。こちらの資料をご覧ください。
この資料では日本の為替の長期の動向を表していますが、一般的にいわれる日米金利差動向だけではない、需給構造の変化なども含めてご覧ください。
左側のグラフは、いくつかの日本の為替のレートを示しています。青い線は貿易の比重などを加味した名目実行為替レート、オレンジ色は物価動向も加味した実質実効為替レート、青い点線はドル円の名目為替レートです。いずれも上に行くと円高です。
これを時系列でみていくと、一番左、1971年のニクソンショック以降、プラザ合意などを経て名目、実質為替レートともに円高が進み、1995年についにピークを迎えます。この間の特徴は右の表にも...