●貝の摂取量が減った日本人の亜鉛不足
前回、食の中の多様性、程よい制限というお話をしましたが、今度は食材の価値について、自分に合った食を選ぶということをお話ししたいと思います。
バランスのとれた食事を摂りましょうとよく言います。厚生労働省も日本人の食事摂取基準ということで、33項目の栄養素を設定しています。カロリーを摂るということは比較的容易なのですが、どの栄養素も過不足なく摂るということはたいへん困難になってきています。そういうことから、普通の健康診断だけではなく、この33項目のみならず、いろいろな栄養素の栄養バランスを自分で管理していくセルフメディケーションが非常に重要になってきています。
以前に、この番組(テンミニッツTV)でもビタミンAの重要性をお話ししましたが、今回は亜鉛についてもお話をしたいと思います。
亜鉛というのは金属です。皆さまの中では、亜鉛というのはむしろ体に有害物質ではないかと思われるかもしれませんが、亜鉛と鉛というのはまったく違います。亜鉛は実は新陳代謝、エネルギー代謝、免疫反応など、体のさまざまな働きをサポートする非常に重要な金属と言っていいと思います。
スライドに書いてありますように、味覚、抗酸化作用、免疫力、からだの成長・発育、そして髪の毛や肌の健康維持、生殖機能、うつ状態の緩和など、さまざまな作用があります。
海外では亜鉛を摂るということはもう非常に常識になっていますが、まだまだ日本の中で、亜鉛は測れるのかとか、亜鉛をどう補うのかということが無自覚な方が多いのではないかと思います。
これは海外の健康サイトに書いてあるものですが、例えば、にきびを減らすとか、目の健康にいいとか、風邪に役立ちます、筋肉の発達に役立ちます、傷が早く治る、心臓の健康にもいい、免疫機能を高める、生殖機能も高める、あるいは認知機能にもいいということで、左側にはお肉とか、鮭、チーズ、えび、カカオ、ひまわりの種、こういったものに亜鉛が含まれるということが描かれているわけです。
ところが、われわれの順天堂(大学)のところで亜鉛の濃度を測ってみました。そうしますと、このブルーが正常の方です。オレンジが減っている方です。緑の方は、これはもう明らかに減っていて、病気といいますか、薬を飲まなければいけないレベルなのです。
ご覧いただくと、50歳以下の方でも半分はもう潜在的に亜鉛が減っています。60代を超えていると、正常な方はむしろもう少なくなっています。70代の7割の方はもう亜鉛が減ってきてしまうという状況があります。また、最近のコンビニ食、これは尿の中に亜鉛がより排出されるような一種の食品添加物も入っていることが多いといわれています。
亜鉛が減ってきますと、活力が低下したり、食欲が低下したり、うつになったり、味覚障害や皮膚の傷が治りにくいといったことがあります。これはしばしば老化現象、年のせいといわれることがあるかもしれませんが、単純に亜鉛がただ欠乏しているだけでこういった症状が出てくるということから、亜鉛を積極的に補う必要があります。
亜鉛を多く含む食品は肉、魚介、大豆製品です。ただ水に溶けてしまうので、調理するときには汁ごと食べないと逃げていってしまいます。
特に日本人は、長い間貝を食べて亜鉛を摂取してきました。
スライドでは貝の漁獲高を年ごとに示していますが、昭和60年、高度成長(期)の最後をピークにして、貝はどんどん漁獲高も減っていますし、消費量も減っているということになります。貝は比較的脂肪分が少なくて、うまみ成分、タンパク質が非常に豊富な非常に優れた食品なのですが、この貝をどうも日本人は食べなくなってきたということも、亜鉛が日本人の半分以上の方ですでに減っているという大変な事態になっている大きな影響かもしれません。
●痩せ型の女性が多い日本と糖尿病の増加
2つ目は筋肉、特に女性と筋肉というお話をしたいと思います。
驚くべきことに、日本というのは痩せている女性が先進国の中で最も多いということが分かっています。これは、OECD加盟国で人口1億人以上の国50カ国を対象にしております。日本人の成人女性の痩せている方は9.3パーセントで、先進国の中では最も多いのです。こういった状況が現在、非常に危惧されていま...