戦後、情報機関に対してネガティブなイメージを抱く日本人は少なくない。しかし、日露戦争を勝利に導いた明石元二郎の謀略戦に見られるように、本来の情報工作とは相手との間に情を通わせ、信頼関係を築くことで成り立つものである。こうした情報畑の系譜にある人々の「情の厚さ」や固い絆は、のちに根本博が私費を投じて台湾へ渡り、恩義に報いるために命懸けで戦った行動の底流にも通じている。(全5話中第2話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツ・アカデミー編集長)
≪全文≫
●情報工作は「情が厚い」…信頼されなければ情報は取れない
―― 先ほどの話だと、鈕先銘自身は日本の陸軍士官学校を出ているわけですし、これは樋口(季一郎)もそうだと思うのですけれど、情報工作をやっていたりすると、そういう人は腹黒いというか、汚い人が多いのではないかと思っている人がいまは多いと思います。(でも、先ほどの)エピソードのように、非常に情が厚いというか、情が通じないとそういうことはできるわけもないですね。
早坂 戦後日本の一つのアレルギーですね。情報機関というと、その言葉の語感から非常にネガティブなものとして受けとられてしまいます。
―― 暗殺したりとか、裏で手を回したりというようなイメージですね。
早坂 そういうイメージになってしまいがちなのですけれど、日本は実際に確固たる情報機関はないといっていいような状況です。世界のどの先進国でも情報機関は持っていて、それがあってこそ外交が成り立つのです。それがないことが、今の日本人の情報に対する軽視というか、非常にいびつなことです。
今、お話の中でお名前が出ましたが、明石元二郎は台湾にいたわけですけれど、その前の日露戦争の時、「明石機関」といわれるように、まさに情報機関の先駆けとなるような場所で中心にいた方です。
門田 日本陸軍史上、最大の謀略戦をヨーロッパで展開していました。
―― フィンランドがロシアから独立する運動を掻き立てていく。
早坂 そうです。それがあって、日露戦争に勝利したという意見もあるほどの方ですから、それぐらい情報機関は大事なことです。
―― しかも、そういうことをやる人は、当たり前なのですけれど、情報は信頼されないと取れないですから、お互い情を通わせないといけないと。
早坂 ええ。別に冷徹なスパイのような人たちではないわけですね、決して。
●明石元二郎の情報工作のエピソードが伝えること
門田 だから、明石元二郎に関しては、いろんなエピソードが伝わっているではないですか。陸軍中野学校は明石工作を勉強するための学校ですから。どのような明石工作があったのか、そのことを陸軍中野学校でその後もずっと伝えられるほどの人です。
日露戦争ですが、普通、日本とロシアが戦争をしたら、それは大国ロシアに勝つわけがないのだけれど、向こうの国が動乱に陥れば勝てるわけじゃないですか。要するに大...