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「独裁政から始まる」という世界史の諸相に迫る

独裁の世界史~ギリシア編(1)世界史の始まり

本村凌二
東京大学名誉教授/文学博士
情報・テキスト
「独裁の世界史」というテーマのもと、「独裁政」「共和政」「民主政」という観点から世界史の諸相に迫るシリーズ講義。世界政治が混迷を極める今、理想とすべきはどの国家なのか、それとも…。これは議論のたえない問題である。歴史を大きくさかのぼり、まずはギリシア時代に、その範となる例を求めてみてはいかがだろうか。(全11話中第1話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:10:10
収録日:2019/12/03
追加日:2020/03/06
カテゴリー:
≪全文≫

●世界史は基本的には独裁政の歴史


―― 皆様、こんにちは。本日は本村凌二先生に「独裁の世界史」というテーマで、これからシリーズのお話をいただこうと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。

本村 はい。

―― 今回は「独裁の世界史」という題名のもと、「独裁政」「共和政」「民主政」という観点から、世界史の諸相に迫ろうということですね。特にこのシーズンは、「ギリシアとローマ」にしぼってお話しいただこうと思っています。そもそも「独裁政」「共和政」「民主政」では、どういう違いがあるものなのでしょうか。

本村 そもそものポリス(都市国家)の成り立ちからいくと、独裁政は最初の段階では出てこないことになります。ところが、実際に見ていくと、やはりほとんどの世界史が基本的には独裁政なのです。

 ギリシアにおいても、いわゆる「ミケーネ時代」がそれに当たります。ポリスが成立する以前の、紀元前12世紀ぐらいまでの世界です。この時代にはかなりオリエントに近い「独裁政」があって、絶対君主とはいかないまでも非常に強力な国王がいました。国王が民衆(デイモス)を支配する、というスタイルでした。ところが、ギリシアではそれが一旦壊れてしまいます。

―― 壊れてしまう?

本村 はい。世界史的に非常に珍しいことが起こっています。地中海の西側のギリシアだけがそうだったのではなく、この時期、地中海の東側にはアナトリア、トルコ、シリア、パレスチナといった地域がありましたが、いずれも混乱に陥っているのです。

 混乱の原因は何なのかというと、一つには集約できません。とにかく、覇権を握った国家というものがどんどん縮小していきます。紀元前1200年から800年ぐらいにかけてのことですが、そこは非常に曖昧模糊としていて、得体の知れない、分かりづらいところです。


●ミケーネの「暗黒」「英雄」時代からポリス形成へ


本村 それは典型的にいうと、文字史料があまり残っていないということです。今後、考古学的な発掘などが進んでいくと、もう少しいろいろなことが確実に分かるでしょうから、そうなると、この400年近い時代の歴史についてはかなり様相が変わってくることが考えられます。ともあれ今の段階では、混乱した「暗黒時代」とか、英雄がたくさん出てくるので「英雄時代」というような言われ方をしています。

 この時期のギリシアは、先述したようにかつてのミケーネ時代の強大な王権が壊れてしまった状態で、その数百年間を過ごします。ミケーネ王国や、それに類するその時代の王国が壊れたということは、はっきりいえば、それを統制するような組織がなくなったために王権が壊れたということです。

 それがいくつにも分裂して各地域に分かれますが、民衆が皆、平等に和気あいあいとやっていたわけではありません。部落や部族のような小さな単位で見ても、そこには富豪や部族長のような者たちがいるわけです。彼らは、紀元前800年頃まで続いた混乱の時代が過ぎると、新しくできていく集団の中心になっていきます。これが、「ポリスの形成」といわれているものです。

―― なるほど。ミケーネ時代は全ギリシアがある程度まとまったものが、やがて分権といいますか、ばらばらになっていって、ポリスが出来上がってくるという状況になるわけですね。

本村 強力で絶対君主的な王を「バシレウス」と呼びます。その存在がなくなった後、別の形で各部落の有力者を中心にポリスが形成されていく。それがギリシアのポリスの出発点に当たります。

 かつての絶大的な王はかなり強力な王権を持っていましたが、新しく出発するポリスでは、部族長や富豪のような者たちを中心に出来上がっていくので、かつてより比較的上下の格差が小さい。それが、後々のデモクラシー(民主政)をつくっていく一つの原因ではないかと言われています。


●アナーキーの語源はアテネでの「アルコン」が選べない状態


―― 民主政の歴史を見ていく上では、アテネ(アテナイ)を見ていくのがよろしいかと思います。アテネもそういう形として、まずはポリスが出来上がったということでしょうか。

本村 最初の段階では民衆が有力者の周りに集まり、やがて有力者が「王」を名乗るようになります。王といっても、かつてのミケーネ時代の王とはまた違う王です。有力者たちがいて、民衆がいる。そのなかでは王以外にも、その周りに有力者や富豪たちがたくさんいます。そのため、最初の段階では一種の貴族制のようなものができていくわけです。

 ところが、当然ながら、こうした有力者たちの間でまた権力争いがあったり、お互いに自分たちの勢力を伸ばそうとする動きが出てきたりします。アテネなどでは典型的に混乱した状態が起こりますが、アテネの場合はこれを「スタシス(党争)」と呼んでいま...
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