●世界史は基本的には独裁政の歴史
―― 皆様、こんにちは。本日は本村凌二先生に「独裁の世界史」というテーマで、これからシリーズのお話をいただこうと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。
本村 はい。
―― 今回は「独裁の世界史」という題名のもと、「独裁政」「共和政」「民主政」という観点から、世界史の諸相に迫ろうということですね。特にこのシーズンは、「ギリシアとローマ」にしぼってお話しいただこうと思っています。そもそも「独裁政」「共和政」「民主政」では、どういう違いがあるものなのでしょうか。
本村 そもそものポリス(都市国家)の成り立ちからいくと、独裁政は最初の段階では出てこないことになります。ところが、実際に見ていくと、やはりほとんどの世界史が基本的には独裁政なのです。
ギリシアにおいても、いわゆる「ミケーネ時代」がそれに当たります。ポリスが成立する以前の、紀元前12世紀ぐらいまでの世界です。この時代にはかなりオリエントに近い「独裁政」があって、絶対君主とはいかないまでも非常に強力な国王がいました。国王が民衆(デイモス)を支配する、というスタイルでした。ところが、ギリシアではそれが一旦壊れてしまいます。
―― 壊れてしまう?
本村 はい。世界史的に非常に珍しいことが起こっています。地中海の西側のギリシアだけがそうだったのではなく、この時期、地中海の東側にはアナトリア、トルコ、シリア、パレスチナといった地域がありましたが、いずれも混乱に陥っているのです。
混乱の原因は何なのかというと、一つには集約できません。とにかく、覇権を握った国家というものがどんどん縮小していきます。紀元前1200年から800年ぐらいにかけてのことですが、そこは非常に曖昧模糊としていて、得体の知れない、分かりづらいところです。
●ミケーネの「暗黒」「英雄」時代からポリス形成へ
本村 それは典型的にいうと、文字史料があまり残っていないということです。今後、考古学的な発掘などが進んでいくと、もう少しいろいろなことが確実に分かるでしょうから、そうなると、この400年近い時代の歴史についてはかなり様相が変わってくることが考えられます。ともあれ今の段階では、混乱した「暗黒時代」とか、英雄がたくさん出てくるので「英雄時代」というような言われ方をしています。
この時期のギリシアは...