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「正」とは「この線で止まれ」という字―規範の重要性

『大学』に学ぶ江戸の人間教育(3)組織論としての『大学』と「脩身」

田口佳史
東洋思想研究家
情報・テキスト
老荘思想研究者・田口佳史氏の解説とともに『大学』を組織論、社会論として読み進めていく今回。天下泰平という大きな目標を達成するために、『大学』が説く人の道とは何なのか? 現代の為政者、経営者、全てのリーダー必見の、中国古典思想の真髄に迫る。(全5話中第3話目)
時間:15:53
収録日:2014/12/17
追加日:2015/08/03
≪全文≫

●個人の人生論のみならず、組織論、社会論にも通じる儒家思想


 儒家の思想のすごさは、個人の人生論においてもすこぶる発揮されているのですが、もっとすごいのは、この個人論がやがて組織論や社会論になっていくことです。要するに、「個人の幸せ=より良い社会、より良い組織」になっていくのです。

 つまり、組織、社会と言っても、それは人間の集団です。したがって、一人一人が徳の精神をしっかりと持ち、そういう人間が集合することのすごさを次に組織論として説いているのです。では、次を読んでみましょう。


●国家の基本として考えなければいけないのは健全な家庭のあり方


 「古の明徳を天下に明かにせんと欲せし者は、先づ其の國を治めたり。」

 つまり、天下泰平という社会をつくるにあたって、いきなり天下泰平を目指しても駄目で、まず、国が治まっていないと駄目なのです。国が治まってもいないのに、健全な社会はあり得ないと言っているのです。

 「其の國を治めんと欲せし者は、先づ其の家を齊(ととの)へたり。」

 国もいきなりは治まらない。国とは家庭の集合体だから、家庭が治まっていなければならない。家庭がととのっていなければいけない。つまり、あちこちで家庭崩壊のようなことが頻発している国が治まっていることなどあり得ないと言っているのです。

 ですから、まず国家の基本として考えていただかなければいけないのは、健全な家庭のあり方です。家庭がしっかり営まれていることが、「家を齊へたり」なのです。


●健全な家庭をつくるためには、一人一人の「脩身」が必要である


 しかし、それもまだ半ばです。その基本となるのは何か。

 「其の家を齊へんと欲せし者は、先づ其の身を脩めたり。」

 「身を脩(おさ)める」とは、家庭の構成メンバーであるお父さん、お母さん、子ども一人一人の身がおさまっていること。身がおさまらないところ、つまり、自分勝手で、自分のことしか考えず、自分のやりたい放題をやっているお父さん、お母さん、子どもがいる家庭は健全になっていくことはない。したがって、家族一人一人の身がおさまるという「脩身(修身)」が大切なのだと言っているのです。


●「脩身」とは、心を正しくして、しっかりとした規範を持つこと


 「脩身」が大切だと分かったところで、止まることなく、「脩身とは何か」という問いに対してもしっかりと答えてくれています。そこは実に懇切丁寧な説明だと言えます。

 「其の身を脩めんと欲せし者は、先づ其の心を正しくせり。」

 これはまた、さまざまな解釈がありますが、「正」とは、この線(一)で「止」まれという字なのです。「止」は足の象形文字ですから、要するに「その線(一)でぴたっと止まる心を持つように」という意味です。

 これは、行動基準や発言の基準などの基準、つまり、規範の重要性を言っているのです。ですから、ここでは、まず規範にかなうよう心掛けてくださいと言っているのです。人間として何が正しいのかをよく知り、それを保つためには、行動基準、発言の基準がしっかりしていなければいけないということです。


●心を正しくする、すなわち真心を込めて誠心誠意を尽くすことが重要


 「其の心を正しくせんと欲せし者は、先づ其の意を誠にせり。」

 「意を誠に」の「意」は、「心の音」という字からできています。「心の音」とは何のことか。今、私は口の音で皆さまにお話していますが、これは、私の心が「これを言え、これを言え」と言っていて、それを聞いて、私は口の音に直しているのです。ですが、その全てが表現されているかと言うと、そうでもありません。

 「上司の意を酌んで」や「あの人の意を察して」など、「意」という言葉をよく使いますが、それは「心の音をよく聞いてあげなさい」「口の音以外に、心の音も聞いてあげなさい」ということで、つまり、心の奥底という意味なのです。心の奥底を「誠にせり」とは、「真心を込めて」「真心が込められたものにする」という意味で、「誠心誠意」という言葉にもなっているのです。


●「致知」と「格物」-万物の世話をする知恵を授けられている人間の役割


 「其の意を誠にせんと欲せし者は、まず其の知を致せり。知を致すは物を格すに在りき。」

 ここに「致知」と「格物」を説いています。「致知」とは、人間ならではの知恵、つまり、われわれ人間は、万物の霊長と言われるように他の動物よりも数段上回る優秀な知恵を得ているということです。それは何のために得たものかと言えば、他の生きとし生けるもののことをしっかりと思いやり、隣近所の人間や動物、植物の世話をするためであり、そのためにあなたには特別の知恵を授けます、ということなのです。つまり、そういう大人になりなさい、と言っているの...
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