●実現すべきは、日々の暮らしの省エネ
では、エネルギーを今どうすべきか。日本は一度、エネルギー危機を克服した経験を持っています。私の世代はものすごく思いが深いのですが、いわゆるオイルショックがありました。1973年に第1次オイルショック、1979年に第2次オイルショックが起こりました。2回のオイルショックで、1970年代に石油の値段は10倍から20倍に跳ね上がり、世界の経済に激震を与えたのです。
しかし、それを日本は見事に乗り切ったのです。なぜ乗り切れたかといえば、技術屋が企業で必死に省エネを行ったからです。セメントの例でいえば、1トンのセメントをつくるために使うエネルギーを、日本の技術屋は30年で半分に減らしました。2000年頃、アメリカやデンマークなどは、セメント生産に日本の1.5倍程度のエネルギーを使っていました。日本はセメントの他に、鉄も、化学も、紙パルプも製造過程の省エネを進めていきました。そして日本は、世界一エネルギー効率の良いものづくり環境を実現したのです。これが、私たちにとって一つの誇りです。
この時は、企業の省エネに経済的な合理性がありました。その頃の企業のエネルギー消費量は、まだ理論値と大きなギャップがあり、省エネしやすかったのです。また、以前はエネルギーの3分の2を工業が消費していました。省エネできる量が多く、ポテンシャルが大きいという二つの意味で、経済合理性があったのです。
しかし、いまは、家庭、病院なども含んだ業務、輸送(運輸)といった日々の暮らしと呼ぶもので6割近いエネルギーを消費しており、輸送の半分は自家用車です。一人一人の日々の暮らしの中にこそ、省エネのチャンスがあるのです。しかも、全てのエネルギーには理論値がありますが、家庭や輸送のエネルギー消費の理論値はゼロ。省エネのポテンシャルが大きいのです。ですから、私たちが実現すべきは、日々の暮らしの省エネ世界一です。省エネは小さなことの積み重ねですから、ボトムアップである地域での活動が重要になってくるでしょう。
●自動車のエネルギー消費を80%減らせる
それから、省エネは、エネルギーの理論値ゼロと申し上げましたけども、これは自動車のエネルギーを示したグラフです。このような方法は私しか使っていないようですが、これが自動車エネルギーの正しいプロットの仕方です。まず横軸に車の重さを取ります。縦軸には燃費の逆数を取ります。1リットルで10キロ走るなら、1キロ走るのに必要なガソリンは0.1リットルです。その逆数を取ると、技術が同じであれば、理論的に原点を通る直線に並びます。これは「車体の重さがゼロならエネルギー消費はゼロになる」という原理に従ったグラフです。ですから、どのメーカーも自動車を一生懸命軽くしようとしているのです。
赤い線がフォルクスワーゲン、GMなど欧米の自動車、青い線がトヨタ、ホンダといった日本製の自動車で、全てカタログからデータを取ってプロットしています。日本の自動車の燃費が良いのは、軽く小さいからではなく、同じ重さでも15パーセントほどエネルギー消費量が違うからです。日本の自動車メーカーは、それだけ技術が高いのです。さらに言えば、ハイブリッドカーになると半分です。電気自動車、燃料電池車は、前提があって多少面倒な説明が必要ですが、ざっと言えばハイブリッドカーの半分になります。ですから、今の自動車が電気自動車に置き換わると、エネルギー消費は4分の1になるわけです。
さらに、重さはどんどん軽くなります。カーボンファイバーの車などが出てきますから。重さが半分になり、電気自動車になれば、エネルギー消費は8分の1になります。極めて大きいことです。省エネというと、エネルギー消費を頑張って5パーセント、あるいは10パーセント減らすのが一般的なイメージですが、そうではないのです。80数パーセント減らせるのです。ここに省エネの大きなポテンシャルがあります。
これは私の「小宮山エコハウス」で、13年前に建てた古いものですが、最近の家庭はゼロエネルギーが基本で、ハウスメーカーなどが売る家では、太陽電池で発電するエネルギーを、家庭の消費量全体より大きくすることができます。私の家は、高断熱、給湯器、冷蔵庫、LED、ゴーヤカーテン、太陽電池でエネルギー消費が81パーセント減っています。厳密に言うと、本当の意味で減ったエネルギー消費量は58パーセントで、残りの23パーセントは太陽電池で供給している分です。
逆に言えば、あと19パーセント残っています。これがゼロになり、マイナスになっているのが最近のハウスメーカーの家なのです。何しろ、13年前の二重ガラスと今のエコガラスでは、断熱効果が倍程度違います。今の材料でつくっただけで、...