テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2017.08.23

クジャクの雄の羽はなぜゴージャスなのか?

違って当たり前だけど違い方はさまざまな雄と雌

 最近は、サラサラのロングヘアーをなびかせるしなやかな後ろ姿に見とれた直後、振り返ったその顔をみて「あ、男の人だったんだ…」と気づくこともしばしば。見事に分割した腹筋をもつ女性、白魚のような手指の男性など、皆さんの周りにもいるでしょう。ことヒトに関しては、見た目だけで性差を区別するのは、年々難しくなってくるように思います。

 しかし、生物界全体で見れば、たとえば一方が派手な色の羽を持っていたり、立派な角やたてがみを持っていたりと、やはり雄と雌には目に見えるはっきりした違いがあるのが普通です。

 こうした違いは、子孫を残すため、種を絶やさないための生き残りをかけた戦略であることが多いのですが、行動生態学、進化生物学を専門とする総合研究大学院大学学長・長谷川眞理子氏によれば、その雌雄の違い、性差のパターンは実にさまざまなのです。

ダーウィンの自然淘汰説と性淘汰説

 まず、性差は目で見てはっきり分かる場合と見た目ではなかなか分からない場合があります。雄が色鮮やかな羽を広げるクジャクのような鳥もいれば、スズメのようにぱっと見ただけでは雄か雌か分からない鳥もいます。また、一般的な「雄が強くて雌が弱い」イメージとは逆に、雌の方が大きかったり派手で強かったりして、雄の方が小さめで地味、という種も多くあります。

 なぜ、このようなさまざまなパターンが生じるのか、その疑問から探求を重ね、性淘汰(セクシャル・セレクション)の理論を打ちだしたのがチャールズ・ダーウィンでした。ダーウィンはご存じのように進化論の理論に基づき、「生物は常に物理的な環境に適応するように変化する」という自然淘汰説(ナチュラル・セレクション)を提唱しました。よく例に出されるのが、キリンは高いところの葉を食べやすいように、首の長い個体が生き残って今のような形態になった、というものです。

 しかし、この自然淘汰だけでは、同じ自然環境の条件下にある同一の種の雄と雌に違い、性差が生じることの説明がつきません。そこで、ダーウィンが打ちだした新たな理論が性淘汰説だったのです。

理論1-雄同士の戦いは厳しい

 この理論のポイントは2つあります。まず、ダーウィンはさまざまな動物の生態を観察して、「繁殖競争においては雄同士の競争の方が雌同士のそれよりも厳しい」ということに気づきました。だから、戦いに有利なように雄はより大きく、角や牙も発達させ、「立派」な外見を手に入れるようになったのだ、という考え方です。

 威風堂々たるたてがみを持つ雄ライオン、立派な角が自慢の雄のヘラジカ。いずれも雌の外見のおとなしさとは大きな違いがありますね。ゾウの中には、雄は牙が口の外に露出しているのに、雌は牙はあっても外からは見えないという種類もあるそうです。また、雄の方が雌の何倍もの大きさである動物も。ゾウアザラシは、雄の体重が平均1800キロであるのに対して雌の平均は650キロと、3倍弱の差があるとか。

理論2-雌はえり好みをする

 2番目のポイントは、「雌はえり好みをする」ということです。厳しい選択眼を持った雌に気に入ったもらうために、クジャクの雄はあの見事な羽をまとうようになったというわけです。ほかにも、カメレオンは色を変えながら、なかなかユニークな求愛ダンスを披露するらしく、必死な雄の様子がほほえましいやら、涙ぐましいやら。また、アカショウビンというカワセミの仲間は、まず雄がその美しいさえずりで求愛行動をしてカップルになった後、さらに雄の巣作りを雌が点検して気に入ったら巣に入って卵を産むそうで、えり好みもこのくらい徹底すればご立派というもの。

 特に、雄の持つ特徴が強さや大きさに特化していなくても、そこには雌の好みに応えるために色や声の美しさ、ダンスや巣作りのテクニックなど何らかの工夫がされている、というわけです。

 ちなみに長谷川氏によれば、この性淘汰説は、人間にも基本的には当てはまるとのこと。ただし、社会が複雑でその中での人間の活動も多彩なので、一概に理論通りとはいかないそうですが、雄同士の雌をめぐる激しい戦い、雌のえり好みという説を聞くと、「基本的には当てはまる」という意見に、大きくうなずいてしまいます。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
物知りもいいけど知的な教養人も“あり”だと思います。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,100本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

繁華街・新宿のルーツ、江戸時代の遊女が働く飯盛旅籠とは

繁華街・新宿のルーツ、江戸時代の遊女が働く飯盛旅籠とは

『江戸名所図会』で歩く東京~内藤新宿(2)「夜の街」新宿の原点

歌舞伎町を筆頭に、東京でも有数の繁華街を持つ新宿だが、その礎は江戸時代の内藤新宿にあった。遊女が働く飯盛旅籠(めしもりはたご)によって、安価に遊興できる庶民の「夜の街」として栄えた内藤新宿の様子を、『江戸名所図...
収録日:2024/02/19
追加日:2024/04/28
堀口茉純
歴史作家
2

なぜ民主主義が「最善」か…法の支配とキリスト教的背景

なぜ民主主義が「最善」か…法の支配とキリスト教的背景

民主主義の本質(1)近代民主主義とキリスト教

ロシアや中華人民共和国など、自由と民主主義を否定する権威主義国の脅威の増大。一方、日本、アメリカ、西欧など自由主義諸国における政治の劣化とポピュリズム……。いま、自由と民主主義は大きな試練の時を迎えている。このよ...
収録日:2024/02/05
追加日:2024/03/26
橋爪大三郎
社会学者
3

日本は再エネが難しい!?再エネ比率が高い国との相違点

日本は再エネが難しい!?再エネ比率が高い国との相違点

日本のエネルギー&デジタル戦略の未来像(3)電力の部分最適と全体最適

サステナブルな電力の供給と消費が求められる現代社会。太陽光発電のように電力の生産拠点が多元化する中で、それぞれの電力需給と国全体の電力需給のバランス調整が喫緊の課題となっている。実はヨーロッパなどの「再エネ比率...
収録日:2024/02/07
追加日:2024/04/27
岡本浩
東京電力パワーグリッド株式会社取締役副社長執行役員最高技術責任者
4

陰の主役はイラン!?イスラエル・ハマス紛争の宗教的背景

陰の主役はイラン!?イスラエル・ハマス紛争の宗教的背景

グローバル・サウスは世界をどう変えるか(4)サウジアラビアとイランの存在感

中東のグローバル・サウスといえば、サウジアラビアとイランである。両国ともに世界的な産油国であり、世界の政治・経済に大きな存在感を示している。ただし、石油を武器にアメリカとの関係を深めてきたのがサウジアラビアであ...
収録日:2024/02/14
追加日:2024/04/24
島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授
5

重要思考とは?「一瞬で大切なことを伝える技術」を学ぶ

重要思考とは?「一瞬で大切なことを伝える技術」を学ぶ

「重要思考」で考え、伝え、聴き、議論する(1)「重要思考」のエッセンス

「重要思考」で考え、伝え、聴き、そして会話・議論する――三谷宏治氏が著書『一瞬で大切なことを伝える技術』の中で提唱した「重要思考」は、大事な論理思考の一つである。近年、「ロジカルシンキング」の重要性が叫ばれるよう...
収録日:2023/10/06
追加日:2024/01/24
三谷宏治
KIT(金沢工業大学)虎ノ門大学院 教授