テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2018.02.21

「エラーを減らす」より「良い仕事をする」べき

「エラーを減らす」より「良い仕事をする」

 鉄道、バス、飛行機などの事故や情報漏えいによるトラブルなど、その多くはヒューマンエラー、つまり人為的ミス、過失が原因となっているようです。ヒューマンエラーによる事故が起きた場合、会社としては社員に対する厳重注意、現場での徹底指導に動き、そのためには完璧なチェックリストやマニュアルが必要だと考えるのが一般的でしょう。

 しかし、これが企業が陥る落とし穴なのだと慶應義塾大学理工学部管理工学科教授・岡田有策氏は言います。岡田氏によれば、ヒューマンエラー防止対応策の本質は、「エラーを減らす」ではなく「いかに良い仕事をするか。仕事の質を上げるか」にあるとのこと。つまり、それはれっきとした成長戦略の一部になり得るのです。

100点の仕事ができたなどと勘違いしないこと

 生じた事故に対して、一つ一つ絆創膏を貼るように対処しても、根本解決にはならないのは自明のこと。まず手をつけるべきなのは、それぞれがどのように行動するべきだったのかを洗いだし、現場の作業や指示系統のあり方を改善していくことだと心得なければなりません。

 そのためには、常に「自分の仕事はよくてせいぜい95点。100点ということはあり得ない」という意識を持つことだと岡田氏は言います。そもそも、マニュアル通りに行動しても、100点の仕事にはなりません。マニュアルを信奉し、「この通りにやっているから自分の仕事は100点だ」という勘違いがエラーの元凶。このような考えでは、同僚や上司の意見も耳に入ってきません。

 頑張ってせいぜい70点、80点、すべてうまくいっても95点。この足りない部分をどう埋められるかを分析し、自分の仕事を少しずつでも改善しようとする。そして、その結果をきちんと周りに評価してもらう。改善点をクリアしたら今度はそのレベルを「95点」とみなして、さらに良い仕事に高めようとする。この姿勢がヒューマンエラー防止の本質です。仕事する人の努力とそれを適正に見る管理職の評価能力が、企業の仕事の質を上げていくことで、企業全体の成長を促すのです。

「安全とは何か」を明確に定義する

 このような企業体質にするためには、会社として「安全とは何か」をきちんと定義することも重要になってくる、と岡田氏は続けます。いくら過去の失敗例、事故の事例を参照して対応策を練っても、それだけでは前例のない、あるいは前例を超える「想定外」の事態になった場合、無策になってしまう危険がつきまといます。

 そこで、前提条件として、自社にとっての安全とは何かをきちんと定義することが求められるのですが、それはすなわちお客さまに安心をもたらすことにつながります。ここで気をつけなければいけないのは、「お客さまに安心をもたらす」ということは、お客さまの「利用したい、買いたい」という顧客満足度を上げるのとは、別物だということ。「利用したくない、買いたくない、二度と行きたくない」といった不安要素、その原因を解明し、徹底して取り除く。これが第一なのです。

 鉄道のような公共サービス、病院などを思い浮かべれば分かりやすいかもしれません。あの電車が定刻通りに目的地に着いた、あるいはあの病院で病気が治ったからといって、その時点では有難いと感じても、理由もなくまた「あの電車に乗りたい」「あの病院に行きたい」ということにはならないでしょう。重要なのは、利用してもらうときにいかに不安な思いをさせないかであり、それが利用者の信頼に結実していくのです。

 「エラー error」とは、「さまよう、放浪する」を意味するラテン語errareが語源だといいます。会社がどのような安心をどれほど顧客にもたらすことができるのか。そのためにはどのように仕事の質を上げていけばよいのかをきちんと分析し定義するのが肝要。膨大なマニュアルやチェックリスト項目の間をさまよっているようでは、ヒューマンエラーには対応できず、企業の成長もあり得ないということなのです。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
“社会人学習”できていますか? 『テンミニッツTV』 なら手軽に始められます。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,100本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

繁華街・新宿のルーツ、江戸時代の遊女が働く飯盛旅籠とは

繁華街・新宿のルーツ、江戸時代の遊女が働く飯盛旅籠とは

『江戸名所図会』で歩く東京~内藤新宿(2)「夜の街」新宿の原点

歌舞伎町を筆頭に、東京でも有数の繁華街を持つ新宿だが、その礎は江戸時代の内藤新宿にあった。遊女が働く飯盛旅籠(めしもりはたご)によって、安価に遊興できる庶民の「夜の街」として栄えた内藤新宿の様子を、『江戸名所図...
収録日:2024/02/19
追加日:2024/04/28
堀口茉純
歴史作家
2

なぜ民主主義が「最善」か…法の支配とキリスト教的背景

なぜ民主主義が「最善」か…法の支配とキリスト教的背景

民主主義の本質(1)近代民主主義とキリスト教

ロシアや中華人民共和国など、自由と民主主義を否定する権威主義国の脅威の増大。一方、日本、アメリカ、西欧など自由主義諸国における政治の劣化とポピュリズム……。いま、自由と民主主義は大きな試練の時を迎えている。このよ...
収録日:2024/02/05
追加日:2024/03/26
橋爪大三郎
社会学者
3

日本は再エネが難しい!?再エネ比率が高い国との相違点

日本は再エネが難しい!?再エネ比率が高い国との相違点

日本のエネルギー&デジタル戦略の未来像(3)電力の部分最適と全体最適

サステナブルな電力の供給と消費が求められる現代社会。太陽光発電のように電力の生産拠点が多元化する中で、それぞれの電力需給と国全体の電力需給のバランス調整が喫緊の課題となっている。実はヨーロッパなどの「再エネ比率...
収録日:2024/02/07
追加日:2024/04/27
岡本浩
東京電力パワーグリッド株式会社取締役副社長執行役員最高技術責任者
4

陰の主役はイラン!?イスラエル・ハマス紛争の宗教的背景

陰の主役はイラン!?イスラエル・ハマス紛争の宗教的背景

グローバル・サウスは世界をどう変えるか(4)サウジアラビアとイランの存在感

中東のグローバル・サウスといえば、サウジアラビアとイランである。両国ともに世界的な産油国であり、世界の政治・経済に大きな存在感を示している。ただし、石油を武器にアメリカとの関係を深めてきたのがサウジアラビアであ...
収録日:2024/02/14
追加日:2024/04/24
島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授
5

重要思考とは?「一瞬で大切なことを伝える技術」を学ぶ

重要思考とは?「一瞬で大切なことを伝える技術」を学ぶ

「重要思考」で考え、伝え、聴き、議論する(1)「重要思考」のエッセンス

「重要思考」で考え、伝え、聴き、そして会話・議論する――三谷宏治氏が著書『一瞬で大切なことを伝える技術』の中で提唱した「重要思考」は、大事な論理思考の一つである。近年、「ロジカルシンキング」の重要性が叫ばれるよう...
収録日:2023/10/06
追加日:2024/01/24
三谷宏治
KIT(金沢工業大学)虎ノ門大学院 教授