テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2017.06.09

世界最古の木造建築「法隆寺」その最大の謎とは?

 7世紀に創建された法隆寺の西院伽藍は、現存する世界最古の木造建築物群として、古代寺院の姿を今に伝えてくれます。1993年、姫路城とともに日本で最初に世界遺産に登録された寺院には、いくつもの謎があることでも有名。なかでも最大のミステリーとは?

 聖徳宗第6代管長である大野玄妙氏が現代人に分かりやすくレクチャーされています。

「七不思議」を超える最大のミステリーとは

 奈良のガイドブックには、「法隆寺の七不思議」に触れているものがたくさんみられます。「クモが巣をかけない」「因可池(よるかのいけ)のカエルは片目がない」など、江戸時代に広められたらしい罪のないミステリーです。

 しかし、このお寺をつくったのは誰、と問われると、誰もが聖徳太子と答えるでしょう。最初に建立を思い立ったのは、自らの病気平癒を願った用明天皇。彼の遺志を継ぐかたちで607年、推古天皇聖徳太子が広大な伽藍を完成させたと伝わります。

 ところが太子が没して48年後、彼の子孫である上宮王家の人々が滅びてからでも27年経った670年、この寺院が全焼したとの記録が「日本書紀」には残されています。つまり現在最も古いと言われる西院伽藍の建物は、その火災の後に再建されたということです。

 では一体誰が、再建したのでしょうか。それが最大のミステリーだと、大野氏は言います。

私寺から聖徳太子尊崇の寺院へ

 この謎は、しかし「何のために」を考えると、ほぐれてきます。今ある金堂や夢殿が、どのように扱われているか。また、江戸時代の廃仏毀釈の時代にも参詣人を集めていたのはなぜかをみればよいのです。

 広さ約18万7千平米の境内には、飛鳥時代を始めとする各時代の粋を集めた建築物が軒を連ね、目に付くほとんどのものが国宝や重要文化財と言えるほどです。なかでも、フェノロサが開かせたことで有名な夢殿の救世観音や金堂の釈迦三尊像は、太子をモデルにしたものと伝えられます。

 つまり、焼失する前は上宮王家の「私寺」であったものが、再建されてからはその性格を変え、「聖徳太子をおまつりし、供養して、その思想や理想を世の中に広める」ことが目的となったのです。気になる点はもう一つあって、火災のときにご本尊たちはどこへ行っていたのだろう、と大野氏は首をひねっています。

思想と産業のインフラ整備を果たした聖徳太子

 再建された目的を「聖徳太子をまつるため」と考えれば、「誰が?」の正体には複数のパトロンが存在したと考えられます。例えば、当時の貴族の女性たち、各地の寺院、そして職人集団です。

 貴族の女性たちは上宮王家が存在した頃からの援助を続行したものと考えられますが、各地の寺院や職人集団にとって、「太子をまつる寺」はどうしても必要でした。

 それは、現代流にいえば、聖徳太子が産業と思想のインフラ整備を果たした人だったからです。

仏教寺院は新しい思想と技術を持つ最先端集団だった

 太子の仏教上の功績として筆頭に挙げられるのが『三経義疏』の執筆。それに先立って推古天皇に勝鬘経と法華経を講義したときのお布施として、太子は播磨国の100町の水田を寄進されたと記録されています。こうした土地を、太子は自分のものとせず、関わりのある寺院に寄進していきました。現代のビジネスでいえば、地方支社への投資といえるでしょう(当時、仏教はまだ日本に根付くかどうかの瀬戸際だったことをお忘れなく)。支社はもちろん太子の思想を広める役割を担います。

 寺院を建立する際、当時の人々は「租庸調」の「庸」に従って全国から駆り集められ、労働力を供出しました。労働力として奉仕する一方で、彼らは当時では最先端の建築技術などに触れ、それを故郷へ持ち帰ることができました。太子は技芸の祖として尊崇され、中世以降さまざまな職人集団によって「太子講」などの太子信仰が営まれます。

 真偽は定かではありませんが、太子が相模や伊豆などの東国にも多くの所領を持っていたとする説があります。造船技術によって栄えた相模や伊豆が、遣隋使を始めた聖徳太子を祖と仰ぐ気持ちにうそはなかったでしょう。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
物知りもいいけど知的な教養人も“あり”だと思います。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,100本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

急成長するインドネシアとトルコ、その理由と歴史的背景

急成長するインドネシアとトルコ、その理由と歴史的背景

グローバル・サウスは世界をどう変えるか(3)インドネシアの成長とトルコの外交力

グローバル・サウスの中でも高度経済成長を遂げているのがインドネシアだ。長期のスカルノ時代とスハルト時代を経てその後に民主化が進んだ、東南アジアで最大のイスラム教国である。また、トルコは多国間に接する地理的特性と...
収録日:2024/02/14
追加日:2024/04/17
島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授
2

多神教の日本と民主主義…議論の強化と予備選挙の導入を

多神教の日本と民主主義…議論の強化と予備選挙の導入を

民主主義の本質(4)日本の民主主義をいかに強化するか

民主主義の発展において、キリスト教のような一神教的な宗教の営みがその礎にあった。では、そうした宗教的背景をもたない日本で、民主主義を育てるにはどうしたらいいのか。人数が多ければ正しいというのは「ポピュリズム」の...
収録日:2024/02/05
追加日:2024/04/16
橋爪大三郎
社会学者
3

26歳で老中首座…阿部正弘が幕末の動乱期に担った使命とは

26歳で老中首座…阿部正弘が幕末の動乱期に担った使命とは

徳川将軍と江戸幕府~阿部正弘編(1)若き老中首座・阿部正弘の使命

阿部正弘は幕末の若き老中首座として、徳川家斉・徳川家慶・徳川家定の時代を支えた。黒船で泰平を揺るがしたペリーが再来し、日米和親条約が結ばれ、鎖国政策は終わりを告げる。近代日本への舵取りを果たしたと評価される阿部...
収録日:2021/03/29
追加日:2024/03/09
4

きわめて特異的な「ウイルスと宿主の関係」

きわめて特異的な「ウイルスと宿主の関係」

ウイルスの話~その本質と特性(1)生物なのか、そうではないのか

ウイルスとはいったい何なのか。彼らは生物とは異なり、自分でエネルギーを生み出して生存するわけではなく、遺伝情報のみを持ち、他の生物の機能を利用して自らを複製している。そうした「ウイルスと宿主の関係」はきわめて特...
収録日:2020/02/17
追加日:2020/03/12
長谷川眞理子
日本芸術文化振興会理事長
5

なぜ今「心理的安全性」なのか、注目を集める背景に迫る

なぜ今「心理的安全性」なのか、注目を集める背景に迫る

チームパフォーマンスを高める心理的安全性(1)心理的安全性が注目される理由

「心理的安全性」は近年もっとも注目されるビジネスバズワードの一つともいわれている。その背景には、コロナ禍におけるリモートワークの増大、社会全体が未来予測の難しい「VUCAの時代」に入ったことがある。職場環境が多様に...
収録日:2022/04/26
追加日:2022/07/23
青島未佳
一般社団法人チーム力開発研究所 理事