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DATE/ 2017.06.12

AIに「仕事を奪われない」ためにはどうするか?

 プロ棋士との対決で人工知能(AI)が連勝するなど、AIの進化にはめざましいものがあります。それに伴い、「AIが人間の仕事を奪ってしまう」という事態になればことは深刻ですが、東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授の柳川範之氏によれば、「人工知能の普及は、決して人間の仕事がなくなることを意味するわけではない」ということです。もっとも、そこはいかにAIを使いこなせるかが問われるのですから、要は人間の能力の問題。さらに、経営においても人間の有利性を伸ばすようなAIの活用の仕方を考えていかないといけない、と柳川氏は言います。

AIによって格差が広がる!?

 柳川氏は人工知能の普及で多くの人の仕事が奪われるのではなく、AIはあくまでも道具、その道具を使う側の人間の問題なのだと言います。どんなにAIが進化しても、当然、AIではカバーできない領域に従事したり、AIを使いこなす人材が必要となります。AIに代替できない仕事に関わる人が、キーマンとなり生き残っていくわけですね。

 ただ、ここで意識すべきは、格差の問題です。AIを使いこなせる人に仕事が集中して、使いこなせない人の仕事を結果的に奪っていく。所得分配の二極化、歪みが生じる、と柳川氏は予測します。既にこの現象がかなり進んでいるアメリカでは、外国人労働者に仕事を奪われることを格差の要因とする見方が強いのですが、柳川氏は、これは実はAIを駆使する人とそうでない人との差が広がって、中間層が消えた結果だと分析しています。

AIの最も効率のよい利用法

 もう一点、柳川氏が問題点として挙げるのが、大規模な省力化によるホワイトカラーへの影響です。AI研究者は、AIが完全に人間の仕事を代替できることをめざして、日々研究しているのですが、現実に則してみれば、一番効率がいいのはAI、ロボットに全とっかえするより、ロボットを使いながら少人数の人で作業することなのだそうです。そうなると、そのことによる人員削減が非常に気になるところですが、実際には、このレベルのAI化はすでに実現段階に入っているのです。

 たとえば、ネット通販大手のアマゾンでは、無理して物流の全自動化を図ることはせず、多くの作業をロボットにやらせながら、要所要所に人を配置。「少人数プラスロボット」の組み合わせで、最も効率のよい作業形態をすでに実現しているのです。こうした現実を考えると、やはり、AIの普及による雇用面での不安は大きく、働き手としてはいかに「少人数」の枠に入れるかがポイントということになります。

AI時代に経営者に求められること-事業の再編成

 経営側の視点から考えれば、AIをどうやって効果的にビジネスに生かすかも重要なポイントです。仕事のどの部分を人に任せて、どこをAIに任せるのか。この仕事の割り振り、人の配置が重要なのは言うまでもありません。

 さらに言えば、経営者は人とAIの仕事の分担を決めた後の、業務の総合的な再編成を考えなければいけない、と柳川氏は言います。つまり、それぞれの部門が「ここはロボット、コンピューターにやらせて、ここは人が担当する」と、縦割りで作業分担を決めて実施していたのでは、全体の作業効率はたいして上がりません。必要なのは、会社全体で業務の再編成を行い、共通して行えるAI、コンピューターでの作業の効率化をはかり、残りの部分は、各部門の専門知識のある人が担うようにする。このように会社全体の仕事を俯瞰的に捉え、再編成していくことが、経営者には求められているのです。

スピードをもって変化に対応すべし

 もう一点、経営者に求められるのは、変化のスピードに対応する能力です。IT業界の変化のスピードが速いのは周知のことですが、今やそのスピード感はさまざまな業界に波及しています。日進月歩のAIの技術、知識に見合った必要な能力をどうスタッフに身につけさせるか。スピード感をもって戦略を練っていくことも、これからの経営者の必須条件となります。

 AIをつくるのも人間、使うのも人間。どんなにAIが進化して広まっても、要は人間の使い方次第ということですね。
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今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授