テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2017.07.06

『日本のジェンダーを考える』著者が語る結婚制度の今後

2016年は婚姻件数が戦後最少

 2016年、婚姻件数が戦後最少を記録しました。人口減少に加えて、「晩婚化」「非婚化」をふくめ従来の常識にとらわれない婚姻の多様性が広がったこともあり、この傾向は今後も続くとみられます。

 これにともない、大きく懸念されているのが「少子化」です。日本経済新聞は「少子化が招く人手不足は経済成長の足かせになる。現役世代で支える年金や介護の社会保障制度も危うくする」と危機感を表明しています。

 だだし、世界に目を向けると、以上のように、「婚姻」と「少子化」を関連付けて語ることは、決して常識とはいえないという点には注意を払うべきでしょう。なぜなら、欧米では結婚せずに出産するケースが増えています。『日本のジェンダーを考える』(川口章著、有斐閣)によると、たとえば、フランスやスウェーデンなど7カ国では婚外子が50%を超えており、「結婚している夫婦から生まれる子どもの方が少ない状態」です。

 35カ国の先進国が加盟するOECD(経済協力機構)全体の平均でも婚外子が36.3%となっています。いまや、先進国で生まれる3人に1人が婚外子の子どもなのです。もちろん、婚外子とはいえ、両親は大半が事実婚のカップルです。

なぜ日本は「でき結婚」が多いのか

 『日本のジェンダーを考える』によると、日本では、だいたい4人に1人以上が、いわゆる「できちゃった結婚」だそうです。日本では、フランスなどのように婚外子という選択肢ではなく、出産イコール結婚が常識になっています。

 なぜ、日本はこんなにも「できちゃった結婚」が多いのか。『日本のジェンダーを考える』では、次のように分析しています。

第一に、母子家庭に対する国の経済的支援が小さい
第二に、子育てや教育に関する公的支出が少ない
第三に、婚外子の父親に対して養育費を強制的に出させる制度がない
第四に、仕事と育児の両立が難しい
第五に、いったん仕事を辞めると、いい条件の仕事に再就職することが難しい

 婚外子の多い国ではこれらの事情のいくつかが克服されているそうです。たとえば、第三の事情に関して、フランスでは、婚外子の父親が養育費の支払いから逃れるのは非常に困難になっています。父親が支払いに応じない場合は、父親の雇用者や取引銀行から直接支払ってもらうことができたり、裁判所に申し立てて、賃金や銀行口座を差し押さえることもできます。

なぜ人は結婚するのか

 そもそも、なぜ人は結婚するのでしょうか。結婚の起源をさかのぼれば、結婚は「部族同士の信頼関係を築くこと」が目的でした。大名や貴族たちは、近代にいたるまでその慣習を続けました。ドラマや小説でも描かれる、いわゆる「政略結婚」もその一例です。

 日本の一般庶民にとっての結婚は、「男親を特定する」という機能をもっていました。そのため、江戸時代においても、戦前の民法においても、妻の不倫は厳しく禁止されていました。非常に理不尽なのは、夫は未婚女性との不倫が許されていた点です。

 現在の法律でも、「男親を特定する」という理由で、女性に対してのみ離婚後半年間の結婚禁止期間が設けられています。しかし、かなり正確にDNA鑑定が可能になった現在、「男親を特定する」ための結婚の役割は無効化しているといえるでしょう。

結婚制度は消滅する?

 では、あらためて、なぜ結婚するのか。『日本のジェンダーを考える』には、「人々が結婚するのは、一つは事実婚に対する法的差別があるからであり、もう一つは、安心して出産・育児を行うために、あえて離別のハードルを高くするからである」と書かれています。

 それならば、本書が指摘するリスクが解消されれば、結婚制度はなくなるのでしょうか。同志社大学政策学部教授でジェンダー政策などがご専門の著者・川口章氏は、結婚制度について次のように締めくくっています。

 「フランスやスウェーデンなど婚外子が出生児の過半数を占める国では、結婚制度は消滅しつつあるといえる。まずは、ヨーロッパで、次いでアメリカで、やがてはアジアでも、結婚制度は終焉を迎えるだろう」。

 たしかに、現実的には、事実婚を支える制度さえ整えば、法律婚に過度こだわる意味はあまりないかもしれません。法整備の際には、従来の家族制度を重視する保守層からは強い反発が起こりそうですが、少子化対策としての効果が期待できるとなれば、どうでしょう。

 もしかしたら、近い将来、「できちゃった結婚」という言葉を耳にしなくなる日も来るかもしれません。

~最後までコラムを読んでくれた方へ~
物知りもいいけど知的な教養人も“あり”だと思います。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,100本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

運も実力のうち!?小早川の寝返りを生んだ黒田長政の好運

運も実力のうち!?小早川の寝返りを生んだ黒田長政の好運

運と歴史~人は運で決まるか(2)運に恵まれるにはどうすればいいか

普通の人間の「運」については、どう考えればいいのだろうか。例えば、日本において消費文化が花開いた江戸時代、11代将軍・徳川家斉の治世には、庶民が「運がめぐってこない」ことを皮肉った狂詩があった。運には「めぐりあわ...
収録日:2024/03/06
追加日:2024/04/25
山内昌之
東京大学名誉教授
2

陰の主役はイラン!?イスラエル・ハマス紛争の宗教的背景

陰の主役はイラン!?イスラエル・ハマス紛争の宗教的背景

グローバル・サウスは世界をどう変えるか(4)サウジアラビアとイランの存在感

中東のグローバル・サウスといえば、サウジアラビアとイランである。両国ともに世界的な産油国であり、世界の政治・経済に大きな存在感を示している。ただし、石油を武器にアメリカとの関係を深めてきたのがサウジアラビアであ...
収録日:2024/02/14
追加日:2024/04/24
島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授
3

起業の極意!サム・アルトマンと松下幸之助

起業の極意!サム・アルトマンと松下幸之助

編集部ラジオ2024:4月24日(水)

ChatGPTを開発したことで一躍有名となったOpenAI創業者のサム・アルトマン。AIの発展によって社会は大きく、急速に変化しており、その中心的な人物こそが彼であるといっても過言ではありません。

そんなアルトマンが...
収録日:2024/04/15
追加日:2024/04/24
テンミニッツTV編集部
教養動画メディア
4

権威主義とポピュリズムへの対抗…歴史を学び、連帯しよう

権威主義とポピュリズムへの対抗…歴史を学び、連帯しよう

民主主義の本質(5)民主主義を守り育てるために

ポピュリズムや権威主義的な国家の脅威が迫る現在の国際社会。それに対抗し、民主主義的な社会を堅持するために、国際社会の中で日本はどのように振る舞うべきか。議論を進める前提として大事なのは「歴史から学ぶ」ことである...
収録日:2024/02/05
追加日:2024/04/23
橋爪大三郎
社会学者
5

ルネサンスはどうやって始まった?…美術の時代背景

ルネサンスはどうやって始まった?…美術の時代背景

ルネサンス美術の見方(1)ルネサンス美術とは何か

ルネサンス美術とはいったい何なのか。これを考えるためには、なぜその時代に古代ギリシャ、ローマの文化が復活しなければならなかったのかを考える必要がある。その鍵は、ルネサンス以前のイタリアの分裂した都市国家の状態や...
収録日:2019/09/06
追加日:2019/10/31
池上英洋
東京造形大学教授