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ナノテクノロジーで進化する最先端のがん治療とは?
フリーキャスターの小林麻央さんが進行性の乳がんのため、今年(2017年)の6月22日に亡くなりました。前向きな闘病姿勢に励まされた方も多いでしょう。今や日本人の死因の第一位はがん。確率としては2人に1人が生涯のうちなんらかのがんを発症します。その一方で、早期発見や治療に関する方法もまた日進月歩の進化をとげており、実は今、「こんなことができるのか!」と驚くほどの技術が開発中なのです。
片岡氏が言うところの「スマート・ナノマシン」は、50ナノメートルとウィルスレベルに小さいため、容易に血管を通り、組織の中に入りこんでいくことができます。つまりナノテクノロジーで行う治療は、体内に送りこまれたマシンが異物を探索し、見つけるやいなや攻撃を開始するという、現代版『ミクロの決死圏』のようなものなのです。
ところが、高分子ミセルは大きさを正確にコントロールできるため、30ナノメートルの大きさのミセルにして、がんの中にどんどん入りこませ薬を届けることができるのだそうです。「30ナノメートル」という単位はすぐにイメージできるものではないかもしれませんが、それこそ薬を抱えたミクロの決死隊員が、がん細胞の中に分け入っていく図を想像していただくといいかもしれません。
ですが、ミセルに抗がん剤を封入して投与した場合、副作用が起こらないことがモルモットを使った実験で証明されており、この点でもナノテクノロジーによる治療に期待がかかっているのです。
以前ほど「がん=死病」といったイメージではなくなりましたが、やはりがんが深刻な病であり、患者に肉体的ダメージだけでなく大きな心理的ダメージを与えていることに変わりはありません。ナノテクノロジーを応用した最新医療の開発が日々行われ、成果をあげていることが、もっともっと多くの方に知られることを願ってやみません。
ミセル型高分子による『ミクロの決死圏』
東京大学政策ビジョン研究センター特任教授でナノ医療イノベーションセンター長の片岡一則氏は、現在開発中の「ナノマシン」を使って「体内病院を作る」と表現しています。どういうことかというと、高分子ポリマーを組み上げ、自己組織化を起こすと最終的にそれは高分子ミセルという粒子になります。このミセル型ナノマシンが体内をパトロールして、異質な細胞(がん細胞)を見つけると投薬や手術処置を行うという最先端テクノロジーなのです。片岡氏が言うところの「スマート・ナノマシン」は、50ナノメートルとウィルスレベルに小さいため、容易に血管を通り、組織の中に入りこんでいくことができます。つまりナノテクノロジーで行う治療は、体内に送りこまれたマシンが異物を探索し、見つけるやいなや攻撃を開始するという、現代版『ミクロの決死圏』のようなものなのです。
難治性がんにも効果大
こうしたナノテクノロジーは、転移がんや薬剤耐性がんなどの難治性のがんに効果を発揮します。また、片岡氏によれば、がんの中には薬が届きにくいがんというものがあるそうで、その代表が膵臓がん。膵臓がんは、5年生存率が他の部位のがんと比べて圧倒的に低いのですが、それは膵臓が胃の裏側に位置しており発見が遅れがちということのほかに、繊維質が多い臓器で、薬が中に到達しにくいという理由もあるのです。ところが、高分子ミセルは大きさを正確にコントロールできるため、30ナノメートルの大きさのミセルにして、がんの中にどんどん入りこませ薬を届けることができるのだそうです。「30ナノメートル」という単位はすぐにイメージできるものではないかもしれませんが、それこそ薬を抱えたミクロの決死隊員が、がん細胞の中に分け入っていく図を想像していただくといいかもしれません。
ミセルを使えば副作用も抑えられる
がんの治療法として広く用いられている抗がん剤は、多くの場合副作用を伴います。たとえば、シスプラチンという白金の抗がん剤は、肺がんや膀胱がん、前立腺がんをはじめ、多くのがんに効果があるとして使用されていますが、腎臓障害が現われやすい、耳が聞こえなくなるといった副作用があります。この聴力喪失の副作用はあまり知られていないのですが、一度失われた聴覚はもう元に戻らないので、患者のクオリティオブライフへの影響は計り知れないものがあります。ですが、ミセルに抗がん剤を封入して投与した場合、副作用が起こらないことがモルモットを使った実験で証明されており、この点でもナノテクノロジーによる治療に期待がかかっているのです。
臨床試験は最終段階へ
マウスを使った実験、と聞くと、気になるのが、いつ実際に高分子ミセルを使った治療が行われるようになるのだろう、ということではないでしょうか。現在、いろいろながんに対して、ヒトの患者を対象とした臨床試験が行われており、最も進んでいるものは第3相の試験を行っているところ。この第3相を通過すれば薬の承認がとれるため、順調にいけばあと数年で広く一般に使用可能となる見通しです。以前ほど「がん=死病」といったイメージではなくなりましたが、やはりがんが深刻な病であり、患者に肉体的ダメージだけでなく大きな心理的ダメージを与えていることに変わりはありません。ナノテクノロジーを応用した最新医療の開発が日々行われ、成果をあげていることが、もっともっと多くの方に知られることを願ってやみません。
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