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ストーリーで考えるコンプライアンスの本質
コンプライアンスは成長戦略と一体であるべき
2017年後半では、神戸製鋼、日産など日本を代表する企業の不正というショッキングなニュースが続きました。企業の不祥事というと必ず出てくるのが、経営トップが深々と頭を下げる姿と「今後はコンプライアンスの徹底を…」というお決まりの言葉。コンプライアンスは一般的には「法令遵守」と訳されることが多く、あれこれと細かなルールを設けて、社員に守らせるというイメージがほとんどでしょう。しかし、国広総合法律事務所の弁護士・國廣正氏は、専門家の立場から、そのような社員をやみくもにルールで縛る「やらされ感」満載、企業の活力をそいでしまうようなものがコンプライアンスではないと言います。コンプライアンスとは、本来は企業が持続的に成長していくためのリスク管理論であり、それは成長戦略と一体でなければならないもの。いわば「元気の出る」コンプライアンスがその本来だ、とさえ國廣氏は断言しています。
コンプライアンス失敗例-NHKのインサイダー取引事件
さて、「元気の出るコンプライアンス」とは、いかなることを意味するのでしょうか?このことを理解するために、國廣氏はコンプライアンスの失敗例としてある一つの事例を取り上げて説明してくれました。それは、2007年のNHK記者によるインサイダー取引事件です。
NHKでは全国の記者が取材して書いた原稿を、報道情報システムでつながっているパソコンを使って本部に送信します。ある日、外食産業のゼンショーとカッパ・クリエイトの資本提携を含めた業務提携という情報を1人の記者が入手。取材で裏をとり、いざニュース原稿へ。業界大手2社に関する重大スクープということで、書き上げられた原稿には二重のパスワードがかけられていました。しかし、題名にはパスワードがかけられていなかったため、見出しの部分はどの記者も読める状態であったのです。
見出しからその内容にあたりをつけた記者3名が、すぐさまゼンショーとカッパ・クリエイトの株を注文し、結果として1人数十万の利益を上げました。
「モグラたたき」方式では不正は防げない
事件発覚後、國廣氏を含めた第三者委員会が調査をしたところ、NHKではコンプライアンスが緩かったどころか、徹底して行っていたことが判明したのだそうです。問題はそのやり方です。30,000件にもおよぶ膨大なリストをチェックする方法で、そのリスト管理に忙しく、誰もインサイダー取引が起こる可能性を想定できなかったのだそうです。國廣氏はこの事例から、膨大なリストを細かくチェックする「モグラたたき」的なやり方では、不正を防ぐことはできない。大事なのは、コンプライアンスを上から押し付けられた条文としてのみとらえるのではなく、そこにあるストーリーを理解することだ、と力説します。ストーリーとしての文脈を考える、つまり、なぜこのコンプライアンスが必要なのか、なぜこの会社で仕事をしているのか、そこで何がしたいのか。これらのことを考えれば、企業とそこに働く人の成長とリスク管理のためにコンプライアンスがあることは、容易に理解できるはずです。
NHKの場合も、記者が国民の知る権利に貢献するというその仕事の本質を理解し、プライドをもって仕事をしていれば、インサイダー取引などは起こらなかったはずなのです。
コンプライアンスの本質とは?
コンプライアンスを「法令遵守」と訳してしまうと、何が何でも守るべきルールと捉えてしまいがちですが、本来は企業の成長のために必要な指針です。親は子どもをしつける時に、頭ごなしに「あれは駄目、これは駄目」とは言わずに、きちんと世の中の理や道徳という文脈を通して、「だから、あなたは人としてこうあるべき。こうした方が皆と仲良く、気持ちよく暮らしていける」とさとしていきます。コンプライアンスは、その本質において親のしつけと似通っているものなのかもしれません。~最後までコラムを読んでくれた方へ~
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