社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
「エラーを減らす」より「良い仕事をする」べき
「エラーを減らす」より「良い仕事をする」
鉄道、バス、飛行機などの事故や情報漏えいによるトラブルなど、その多くはヒューマンエラー、つまり人為的ミス、過失が原因となっているようです。ヒューマンエラーによる事故が起きた場合、会社としては社員に対する厳重注意、現場での徹底指導に動き、そのためには完璧なチェックリストやマニュアルが必要だと考えるのが一般的でしょう。しかし、これが企業が陥る落とし穴なのだと慶應義塾大学理工学部管理工学科教授・岡田有策氏は言います。岡田氏によれば、ヒューマンエラー防止対応策の本質は、「エラーを減らす」ではなく「いかに良い仕事をするか。仕事の質を上げるか」にあるとのこと。つまり、それはれっきとした成長戦略の一部になり得るのです。
100点の仕事ができたなどと勘違いしないこと
生じた事故に対して、一つ一つ絆創膏を貼るように対処しても、根本解決にはならないのは自明のこと。まず手をつけるべきなのは、それぞれがどのように行動するべきだったのかを洗いだし、現場の作業や指示系統のあり方を改善していくことだと心得なければなりません。そのためには、常に「自分の仕事はよくてせいぜい95点。100点ということはあり得ない」という意識を持つことだと岡田氏は言います。そもそも、マニュアル通りに行動しても、100点の仕事にはなりません。マニュアルを信奉し、「この通りにやっているから自分の仕事は100点だ」という勘違いがエラーの元凶。このような考えでは、同僚や上司の意見も耳に入ってきません。
頑張ってせいぜい70点、80点、すべてうまくいっても95点。この足りない部分をどう埋められるかを分析し、自分の仕事を少しずつでも改善しようとする。そして、その結果をきちんと周りに評価してもらう。改善点をクリアしたら今度はそのレベルを「95点」とみなして、さらに良い仕事に高めようとする。この姿勢がヒューマンエラー防止の本質です。仕事する人の努力とそれを適正に見る管理職の評価能力が、企業の仕事の質を上げていくことで、企業全体の成長を促すのです。
「安全とは何か」を明確に定義する
このような企業体質にするためには、会社として「安全とは何か」をきちんと定義することも重要になってくる、と岡田氏は続けます。いくら過去の失敗例、事故の事例を参照して対応策を練っても、それだけでは前例のない、あるいは前例を超える「想定外」の事態になった場合、無策になってしまう危険がつきまといます。そこで、前提条件として、自社にとっての安全とは何かをきちんと定義することが求められるのですが、それはすなわちお客さまに安心をもたらすことにつながります。ここで気をつけなければいけないのは、「お客さまに安心をもたらす」ということは、お客さまの「利用したい、買いたい」という顧客満足度を上げるのとは、別物だということ。「利用したくない、買いたくない、二度と行きたくない」といった不安要素、その原因を解明し、徹底して取り除く。これが第一なのです。
鉄道のような公共サービス、病院などを思い浮かべれば分かりやすいかもしれません。あの電車が定刻通りに目的地に着いた、あるいはあの病院で病気が治ったからといって、その時点では有難いと感じても、理由もなくまた「あの電車に乗りたい」「あの病院に行きたい」ということにはならないでしょう。重要なのは、利用してもらうときにいかに不安な思いをさせないかであり、それが利用者の信頼に結実していくのです。
「エラー error」とは、「さまよう、放浪する」を意味するラテン語errareが語源だといいます。会社がどのような安心をどれほど顧客にもたらすことができるのか。そのためにはどのように仕事の質を上げていけばよいのかをきちんと分析し定義するのが肝要。膨大なマニュアルやチェックリスト項目の間をさまよっているようでは、ヒューマンエラーには対応できず、企業の成長もあり得ないということなのです。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
物知りもいいけど知的な教養人も“あり”だと思います。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。
『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
葛飾北斎と応為…画狂の親娘はいかに傑作へと進化したか
葛飾北斎と応為~その生涯と作品(1)北斎の画狂人生と名作への進化
浮世絵を中心に日本画においてさまざまな絵画表現の礎を築いた葛飾北斎。『富嶽三十六景』の「神奈川沖浪裏」が特に有名だが、それを描いた70代に至るまでの変遷が実に興味深い。北斎とその娘・応為の作品そして彼らの生涯を深...
収録日:2025/10/29
追加日:2025/12/05
夜まとめて寝なくてもいい!?「分割睡眠」という方法とは
熟睡できる環境・習慣とは(4)起きているときを充実させるために
「腸脳相関」という言葉がある。健康には腸内環境が大切といわれるが、腸で重要な役割をしている物質が脳にも存在することが分かっている。「バランスの良い食事」が健康ひいては睡眠にも大切なのは、このためだ。人生は寝るた...
収録日:2025/03/05
追加日:2025/12/14
平和の実現を哲学的に追求する…どんな平和でもいいのか?
平和の追求~哲学者たちの構想(1)強力な世界政府?ホッブズの思想
平和は、いかにすれば実現できるのか――古今東西さまざまに議論されてきた。リアリズム、強力な世界政府、国家連合・連邦制、国連主義……。さまざまな構想が生み出されてきたが、ここで考えなければならないのは「平和」だけで良...
収録日:2025/08/02
追加日:2025/12/08
PDCAサイクルを回すための5つのプロセスとそのすすめ方
プロジェクトマネジメントの基本(3)プロジェクトのすすめ方
プロジェクトを進める際にPDCAサイクルの概念は欠かせない。国際標準PMBOKでは、PDCAを応用した「立上げ」「計画」「実行」「監視コントロール」「終結」の5段階をプロジェクトに有用とし、複数フェーズでそれを回す。ステーク...
収録日:2025/09/10
追加日:2025/12/10
脳内の量子的効果――ペンローズ=ハメロフ仮説とは
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(2)量子論と空海密教の本質
「ワット・ビット連携」の概念がある。これは神経と血管の関係にも似ており、両者が密接に関係するところから、それをもとに人間の本質について考察していくことになる。また、中村天風の思想から着想を得て、人間の心には霊性...
収録日:2025/03/03
追加日:2025/11/13


