テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2018.05.01

日本の3つの転換点とグローバリゼーション

 2017年の秋以来、吉野源三郎の『君たちはどう生きるか』がベストセラーを続けています。80年前に出版された児童文学が、いま大人たちに読まれるのは、日中戦争の始まった不安定な時代背景と、現在の不透明な状況が似ているからではないかという意見もあります。「生きる」ことの大半を占める「働く」意味について、日本労働組合総連合会(連合)第6代会長の古賀伸明氏は、グローバリゼーションという見方が欠かせないと言います。

1989年。日本と世界で何が起こったか

 古賀氏が近年の転換点としてあげるのは、1989年、1997年、2008年の三つです。

 新しい順に、リーマンショックとアジア通貨危機の起こった年はご記憶でしょう。そして約30年前の1989年は、昭和から平成へ年号が変わった年であるとともに、天安門事件、ベルリンの壁撤廃という世界史上のマイルストーンでもありました。

 日本の1989年はバブルのピークとしても知られ、12月には日経平均株価3万9,000円弱の記録を残しています(2018年4月現在は2万1,000円程度で推移)。昭和天皇に続いて手塚治虫、松下幸之助、美空ひばりとビッグな有名人の訃報が続き、時代の転換を感じた人も多かったでしょう。

 90年代に入ると、バブルは崩壊し始め、ソビエト連邦が解体されて東側諸国が市場経済に参入するようになります。また、IT革命が進行し、オフィスや家庭にパソコンが浸透するためのソフト開発も行われました。世界が単一市場化し、グローバリゼーションが激化する引き金を引いたのが1989年だと、古賀氏は解説しています。

情報もリスクも一瞬で国境を越えるグローバリゼーション

 グローバリゼーションの激化は、「ヒト、モノ、カネ」と情報が一瞬のうちに国境を越える時代をつくったと言われています。その一方で、宗教・民族の対立、社会・経済的格差も一層際立つようになりました。

 SARSや鳥インフルエンザなどのパンデミックの脅威、オゾン層の破壊など、世界の持続可能性を揺さぶる健康や環境リスクも、瞬時に国境を越えるようになったのです。

 ボーダーがなくなったことで経済は量的・面的に拡大していくものの、「質的豊かさ」はどうすれば得られるのか。また、それを公正に配分できる社会は可能なのだろうか。このような大きな課題が人類に突きつけられたのだと古賀氏は言います。

民主主義、市場経済、大きな問題が問われている

 トルコ出身で米・プリンストン高等研究所に所属する経済学者、ダニ・ロドリック氏は『グローバリゼーション・パラドクス──世界経済の未来を決める三つの道』で、「トリレンマ」という考えを提示しました。グローバリゼーション、国家主義、民主主義の三つは同時に追求することが不可能なので、一つを捨てなければならないというものです。

 トリレンマが示唆するのは、民主主義と国民主権にもとづく国家が、グローバル化をいかにコントロールしていくかということに他ならないのでしょう。一方で大きな壁にぶつかっているように見える民主主義に対する問い直しも、また問われているところです。

 「白熱教室」で知られるハーバード大学のマイケル・サンデル氏は、民主主義と市場経済はもともとトレードオフの関係にあり、どちらかを取るなら片方は捨てなければならないとまで断言しています。

 わたしたち一人ひとりの「働く意味」は、グローバリゼーションによって塗り替えられたことを頭の片隅に置いておくべきなのでしょう。

<参考文献>
グローバリゼーション・パラドクス──世界経済の未来を決める三つの道』(ダニ・ロドリック著、柴山桂太翻訳、大川良文翻訳、白水社)
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
“社会人学習”できていますか? 『テンミニッツTV』 なら手軽に始められます。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

田沼意次とは?再評価で注目の人物像と時代背景に迫る

田沼意次とは?再評価で注目の人物像と時代背景に迫る

田沼意次の革新力~産業・流通・貨幣経済(1)田沼意次の生い立ちとその時代

田沼意次の人物像と政策を通して、江戸時代の転換期を振り返る今シリーズ。農産物・工産物の流通・発展、また貨幣経済の拡大など、田沼時代の特徴を振り返る。まずは、田沼意次の生涯である。田沼意次の父は一説には浪人だった...
収録日:2025/01/28
追加日:2025/05/30
養田功一郎
元三井住友DSアセットマネジメント執行役員
2

あなたは縄文系?弥生系?…弥生時代の実態に迫る

あなたは縄文系?弥生系?…弥生時代の実態に迫る

編集部ラジオ2025(10)弥生人の遺伝子、生活、文化

「自分は縄文系だろうか? それとも弥生系だろうか?」。そんなことを、ふと考えたことはありませんか。

日本は、縄文系の遺伝子や文化がいまなお色濃く残りつつ、そこに弥生系の遺伝子・文化が絶妙に混交して、独...
収録日:2024/04/03
追加日:2025/05/29
テンミニッツTV編集部
教養動画メディア
3

その後の余命が変わる!続けるべき良い生活習慣とは

その後の余命が変わる!続けるべき良い生活習慣とは

健診結果から考える健康管理・新5カ条(7)良い生活習慣が健康寿命を延ばす

健康診断の結果に一喜一憂するだけではなく、そのデータを活用し、生活習慣を見直すことが大切である。今回は、内臓脂肪の管理が健康維持に直結する理由や、体重増加と糖尿病リスクの関係、さらには良い生活習慣が寿命に与える...
収録日:2025/01/10
追加日:2025/05/27
野口緑
大阪大学大学院医学系研究科 公衆衛生学 特任准教授
4

なぜ日本の医療はテロに対応できないのか?三つの理由

なぜ日本の医療はテロに対応できないのか?三つの理由

医療から考える国家安全保障上の脅威(5)日本の医療の問題点と提言

残念なことだが、現在の日本の医療はテロ攻撃には対応できない。その理由として、テロの悪意に対して無防備なこと、時代遅れの教科書的知識しか持っていないこと、テロで想定される健康被害に対応できる医療体制にないこと、が...
収録日:2024/09/20
追加日:2025/05/29
山口芳裕
杏林大学医学部教授
5

人生100年時代の生き方と日本の3つの課題

人生100年時代の生き方と日本の3つの課題

長寿社会の課題と可能性(1)個人・社会・産業の課題

東京大学高齢社会総合研究機構の秋山弘子特任教授が、人生100年時代を迎えた日本の課題について解説する。高齢化が急速に進み、健康で長生きできるようになった現在の日本では、それまでの人生50年時代の生き方やインフラ、産業...
収録日:2017/04/12
追加日:2017/05/01
秋山弘子
東京大学名誉教授