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DATE/ 2018.08.03

なぜ日本で一番暑いのは沖縄ではないのか?

 2018年7月23日は記録的な暑さの日となりました。埼玉県熊谷市が41.1度で国内観測史上最高気温を5年ぶりに塗り替えたほか、東京都青梅市、岐阜県多治見市、山梨県甲府市が40度を超える気温を記録。それにしても、日本の内陸部の夏って、一体なぜ沖縄を上回るほど暑いのでしょうか。

そもそもなぜ夏は暑いのか

 全国的に猛暑の2018年、実は沖縄だけが涼しい顔をしています。そもそも「沖縄が一番暑いはず」と考えるのは、沖縄の緯度が日本国内では最も低く、赤道に近いから。赤道付近は地球の真ん中にあるので、太陽の光を一年中たくさん浴びる。そのために暑いのは頷ける話ですが、夏に限ってはそうでもありません。

 四方を海に囲まれた沖縄では、海風が常に陸地へ吹き込むため、陸地が適度に冷やされます。昼間は日光を受けてギンギンに暑くても、夜になると涼しくなるのは地面の温度がそれほど上がっていないためです。逆に言うと、内陸の平野部では逆の現象がおこっていると考えられます。

 では、そもそもなぜ夏は暑いのでしょうか。太陽との距離が近くなる? いえ、そんなことはありません。『科学の事典』(岩波書店)によると、ある場所の気温は、暖かい空気や冷たい空気が流れてこないかぎり、日射と地球放射のバランスによって決まります。

 正解は、地球が傾いているからです。地球の地軸が公転面に対して23.5度の傾きがあるため、北半球の夏は太陽の光を「まともに」浴びることになり、日射量が増えるのです。

山から熱気が下りてくるフェーン現象

 「暖かい空気や冷たい空気が流れてこないかぎり」と言いましたが、山の上から暖かい空気が流れてきて、平野部の気温を上げるのが「フェーン現象」です。

 1933年に山形県山形市が40.8度を記録した7月25日は、長らく「最高気温記念日」とされていました。1978年にも山形県酒田市で40.1度まで気温が上がりました。今年2018年も、台風12号通過後の7月29日に新潟県三条市と上越市で39.5度を記録したのが、フェーン現象によるものと言われています。

 フェーン現象は、湿った空気が山を越えて、乾いた暖かい風となって吹き下ろす現象です。冬の「からっ風」で有名な地域は、だいたい、このフェーン現象の影響を受けています。

年々過熱する「ヒートアイランド」の影響

 もう一つ、内陸の平野部が暑くなる原因に「ヒートアイランド」現象があります。誰もが感じているように、都会ではエアコン利用による人工排熱が多く、市街化による蒸発減少がおこっています。海から風が吹いてきても、地面や樹木が少ないために冷却効果が低く、逆に密集した建物やアスファルト道路で蓄熱がおきるため、夜の間も十分に気温が下がりません。

 こうして大きな都市の中心部で、郊外よりも気温が高くなる現象を「ヒートアイランド」と呼びます。熊谷市など埼玉県の内陸都市で東京以上の高温が記録されるのは、地域自体にもヒートアイランドが起こっていることに加え、東京のヒートアイランドの余波を温風として受けていることが指摘されます。

 埼玉県の平野部は関東平野の奥まった場所に位置し、南からの海風が届きにくくなっています。さらに、海風が東京という大都市を通る間に温められ、到達する頃には冷却効果のない温風となっているわけです。

2020年東京五輪は大丈夫?

 ご存じのように夜間の気温が25度から下がらない現象を「熱帯夜」と呼びます。しかし、本当の熱帯では、シンガポールでもコンゴでも日較差が大きく、夜は涼しく眠れることが指摘されています。

 それにひきかえ、日本では熱帯夜が増えるのに比例して熱中症が増加します。2018年、熱中症による死者は7月16日~22日の1週間で救急搬送2万2千人以上、うち65人が死亡という記録を立て、「小中学校の教室にエアコン導入」の議論を呼んでいます。

 ヒートアイランドは年間を通しておこる現象ですが、近年急増している「ゲリラ豪雨」の引き金にもなっています。有効な対策は「緑の道」「風の道」を確保するという都市計画上の問題のよう。東京五輪に向けて、ぜひ改善をというのは、みんなの願いです。

<参考文献>
『科学の事典』(岩波書店辞典編集部編集、岩波書店)
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