社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2018.09.07

世界で最も平和な国・危険な国はどこなのか?

 日本は世界的にも安全な国だと言われています。たしかに、平和や安全について、日本は長い間、安定した状況を保ってきていると言えるでしょう。ですが、世界規模で見てみるとまた違った状況があるようです。たとえば、戦死者は増加傾向にあり、難民は世界人口の1%近くに達しています。今回はこういったデータをまとめている「世界平和度指数(GPI)」をもとに、世界の平和と危険の現状を見てみましょう。

「世界平和度指数」とは

 世界平和度指数(GPI : Global Peace Index)とは、シドニーに本部を置く国際的独立系シンクタンク「経済平和研究所」(Institute for Economics and Peace)(IEP)が毎年発表しているレポートです。最新版は第12版、対象は世界163の国と地域で、大きく「治安」(犯罪率、暴力犯罪の数、政治テロなど)、「内戦・戦争」(内戦・戦争の有無、隣国関係など)、「軍事化」(軍事支出、核兵器などの武力、軍従事者の割合など)といった3つ分野にまたがる23の指標を作成し、平和の状態を評価しています。

 この評価によると、現在の世界の平和度は、過去10年の内でも低い状況にあります。

「世界平和度指数」ランキング1位はアイスランド

 国別トップはアイスランドで、08年以降11年連続して首位を維持しています。犯罪率が非常に低く、1年に殺人が起こる確率は10万人あたり1.8人で、これはアメリカの3分の1ほどとのこと。

 アイスランドといえば、先のサッカーワールドカップでアルゼンチン代表と引き分けて大いに盛り上がりましたよね。サポーターの繰り出す「バイキング・チャント」にも注目が集まりました。またこのとき、アイスランド国内でテレビを見ていた人の99.6%が試合を観戦していたということも、話題になりました。

 アイスランドはヨーロッパの北方にある島国。面積は北海道よりやや大きく、人口はおよそ35万人。NATO加盟国ですが、自国の軍備はありません。1951年よりアメリカと防衛協定を結び、米軍の駐留を認めていましたが、米国の事情で2006年に撤退しています。現在は、アメリカとの二国間防衛協定に基づき、アメリカによるアイスランド防衛が保証されています。また、水産業が盛んで、日本で流通している「ししゃも」の多くがアイスランド産とのことです。

「世界平和度指数」ランキング最下位はシリア

 最下位である163位はシリアです。シリアでは、アサド政権や化学兵器の問題に対するアメリカとロシアの対立、イスラム教原理主義組織の問題など、あらゆる問題が絡み混沌とした状況が続いています。やはり今回の調査上も厳しい状況を示しています。国連の試算によると、この7年間続いている内戦での、物的損害はおよそ4000億ドル(44兆円)に上るとされています。

 IEPの創始者で会長のスティーブ・キルリー氏は、「平和は破壊するよりも、築き上げる方がずっと難しい、ということが研究の結果、分かっています。指数の底辺にいる国々が長期化する紛争から抜け出せないでいる理由の一つです」と述べています。

「世界平和度指数」ランキング日本は9位

 2018年の日本のランキングは9位です。普段感じている治安や安全の意識では、かなり上位なのではないか、という期待もあったかと思いますが、ぎりぎりのトップ10という感じでしょうか。ちなみに遡ると、2015年は8位、2016年は9位、2017年は10位という推移です。

 以下は2018年のランキングトップ10です。右の数字はスコアで、数字が小さい方がさまざまな不安要素が小さいことを示しています。

1位:アイスランド 1.096
2位:ニュージーランド 1.192
3位:オーストリア 1.274
4位:ポルトガル 1.318
5位:デンマーク 1.353
6位:カナダ 1.372
7位:チェコ 1.381
8位:シンガポール 1.382
9位:日本 1.391
10位:アイルランド 1.393

 ヨーロッパの国々が多い印象はあります。アジアからはシンガポールと日本がランクインしています。しかし、ヨーロッパ諸国を一括りに平和だと考えるのは早計なようです。スペインの順位は10位後退して30位。これは、国内の政治的緊張と、テロの影響の高まりが原因です。また、過去10年間に、政治不安、テロの影響の高まり、犯罪性の認知の高まりなどが原因となって、ヨーロッパの61%を占める各国で平和度は後退しています。

<参考サイト>
・Global Peace Index2018
http://visionofhumanity.org/app/uploads/2018/06/Global-Peace-Index-2018-2.pdf
・Huffpost:W杯アイスランド初戦、テレビ視聴者のうち99.6%が観戦
https://www.huffingtonpost.jp/2018/06/18/iceland-worldcup_a_23462242/
・AFPBBNEWS:シリア内戦の物的損害44兆円相当、国連発表
http://www.afpbb.com/articles/-/3185483
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
雑学から一段上の「大人の教養」はいかがですか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

歴史作家・中村彰彦先生に学ぶ歴史の探り方、活かし方

歴史作家・中村彰彦先生に学ぶ歴史の探り方、活かし方

編集部ラジオ2025(29)歴史作家の舞台裏を学べる

この人生を生きていくうえで、「歴史」をひもとくと貴重なヒントにいくつも出会えます。では、実際にはどのように歴史をひもといていけばいいのか。

今回の編集部ラジオでは、歴史作家の中村彰彦先生がご自身の方法論...
収録日:2025/10/17
追加日:2025/11/27
2

命は光なのだ…曼荼羅を読み解いて見えてくる空海のすごさ

命は光なのだ…曼荼羅を読み解いて見えてくる空海のすごさ

エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(6)曼荼羅の世界と未来のネットワーク

最終話では、金剛界曼荼羅と胎蔵界曼荼羅を読み解いていく。鎌田氏は、この2つの曼荼羅は「粒子性」と「波動性」だという。そして空海は、この2つの曼荼羅や『秘蔵宝鑰』の冒頭の詩を通じて「命は光なのだ」ということを明示し...
収録日:2025/03/03
追加日:2025/11/27
3

日本は素晴らしい歴史史料の宝庫…よい史料の見つけ方とは

日本は素晴らしい歴史史料の宝庫…よい史料の見つけ方とは

歴史の探り方、活かし方(1)歴史小説と史料探索の基本

「歴史を探索していく」とは、どういうことなのだろうか。また、「歴史を活かしていく」とはどういうことなのだろうか。歴史作家の中村彰彦氏に、歴史を探り、活かしていく方法論を、具体的に教えてもらう本講義。第一話は、歴...
収録日:2025/04/26
追加日:2025/11/14
4

日本企業が世界のビジネスに乗り遅れた要因はオウンゴール

日本企業が世界のビジネスに乗り遅れた要因はオウンゴール

内側から見たアメリカと日本(6)日本企業の敗因は二つのオウンゴール

日本企業が世界のビジネスに乗り遅れた主な要因として、二つのオウンゴールを挙げる島田氏。その一つとして台湾のモリス・チャン氏によるTSMC立ち上げの話を取り上げるが、日本はその動きに興味を示さず、かつて世界を席巻して...
収録日:2025/09/02
追加日:2025/11/25
5

習近平への権力集中…習近平思想と中国の夢と強国強軍

習近平への権力集中…習近平思想と中国の夢と強国強軍

習近平―その政治の「核心」とは何か?(1)習近平政権の特徴

国際社会における中国の動きに注目が集まっている。新冷戦ともいわれる米中摩擦が激化する中、2021年7月に中国共産党は創立100周年を迎えた。毛沢東以来、初めて「思想」という言葉を党規約に盛り込んだ習近平。彼が唱える「中...
収録日:2021/07/07
追加日:2021/09/07
小原雅博
東京大学名誉教授