社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2021.02.26

「妄想」をエンジンにした思考法とは?

 仕事でもプライベートでも「こうなったらいいなぁ」「こんなことができたらいいのに」ともらすと、「それって単なる妄想だよね」と即座に切り捨てられてしまう。そんな経験は誰しもが持っているのではないでしょうか。ですが、その「妄想」をエンジンにした思考法が最近、話題になっているのです。

自分のなかから生まれる「妄想」を出発点にする

 佐宗邦威氏は著書『直観と論理をつなぐ思考法-VISION DRIVEN-』(ダイヤモンド社)のなかで、人それぞれの「妄想」を出発点に具体的で明確なビジョンを手にする思考法「ビジョンドリブン(妄想駆動)」について論じています。

 「妄想」と聞くと単なる大風呂敷、夢物語のイメージがありますが、どんな大きなビジョンも最初は自分のなかからわき上がってくる「こういう世界をつくりたい」「世の中がこんな方向に向かえばいいのに」という気持ちから出発するものだ、と佐宗氏は言います。しかし、自分一人の頭でもやもや考えているうちは、それはいわば北極星のようなもの。「こっちだよ」と空の高いところで方向を指し示してはいるものの、まださほど明確には見えませんし、ましてや手に取ることもできません。

 では、このいささか遠い存在の北極星を、自身にもあるいは他の人にももっとクリアに見えるようにするためにはどうしたらいいのでしょう。

「妄想・知覚・組替・表現」のステップを踏んで実現に向かう

 佐宗氏はこう言います。

 まず、自分のなかからわいてくる「妄想」、たとえば「なんとなくこういう世の中は嫌だなぁ」「こういうふうになったらいいな」という曖昧模糊としたイメージを少し発展させ、「こういう状態になったらいいんじゃないか」「こういうものがあると便利なんじゃないか」と具体的に「知覚」する。

 それが第一段階で、「知覚」したら今度はその新たなイメージを「一言で表すとこういうことだ。それは既存のものとこういう点で違っている、あるいは優れている」と、自分なりの言葉に「組替」をしてみる。次にそれを具体的に「表現」して、他人に伝えていく。

 このような「妄想・知覚・組替・表現」のステップを踏んで、自身の内面でうごめいていた妄想を、世間に向けたビジョンに発展させていきます。妄想レベルから可能性の芽を引き出して形にし、論理的に他者に伝えることで、「実現に向かって一緒にやっていこう」と第三者を巻き込みやすくなるのです。

ドラえもんに学ぶ「もしも○○だったら」の妄想力

 このように「妄想」のタネをビジョンに育てて発動させる際に、一つ気をつけなければいけないのは、「現実性」を障壁にしないということです。「それはこういう理由でできない」とか「この点がネックだよね」と課題のみ先に抽出してしまうと、せっかくのビジョンがそこで頓挫してしまいます。

 こうした障壁を取り除くためにも佐宗氏は、「どうしたらこの問題を解決できるか」というマイナスをゼロにする思考法(ISSUE-DRIVEN)ではなく、「これをどう実現するといいか」と考える、ゼロとプラスのギャップを埋める思考法(VISION-DRIVEN)を推奨しているのです。

 それは、端的にいえば「もしも○○だったら」という問いや願いを常に頭のなかに置き、考え続けることでもあるのですが、佐宗氏はそのお手本が、実はドラえもんにあると言います。たとえば、「翻訳こんにゃく」は「世界中の人ともっと自由に話せたり、理解し合えたらいいのに」という思いが、自動翻訳機になったと見ることができます。「もしもボックス」の場合、「もしも世界中のいろいろな世界を体感できたら」という妄想は、今のVRヘッドセットになったともいえます。

 考えてみれば、ビジネス化している代行サービスの多くは「もしそばにドラえもんがいて、こんなことをしてくれたらいいのに」の発想から出発しているのかもしれません。

 コロナの影響で多くの方がテレワークとなるなど、仕事の環境変化を余儀なくされている現在ですが、そうしたなかで新しく生まれた時間をポジティブな「妄想」に活用してみてはいかがでしょう。頭のなかで眠っていたひみつ道具が、むくむくと動きだすかも。

~最後までコラムを読んでくれた方へ~
雑学から一段上の「大人の教養」はいかがですか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

ケルト神話とは…ダーナ神族、アルスター神話、フィアナ神話

ケルト神話とは…ダーナ神族、アルスター神話、フィアナ神話

ケルト神話の基本を知る(1)ケルト地域と3つの神話群

ケルト神話とは何か。ケルトという地域は広範囲にわたっており、一般的にアイルランドを中心にした「島のケルト」と、フランスやスペインの西北部などに広がった「大陸のケルト」があるが、神話が濃厚に残っているのはアイルラ...
収録日:2022/04/12
追加日:2023/07/23
鎌田東二
京都大学名誉教授
2

なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み

なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み

何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み

なぜ「何回説明しても伝わらない」という現象は起こるのか。対人コミュニケーションにおいて誰もが経験する理解や認識の行き違いだが、私たちは同じ言語を使っているのになぜすれ違うのか。この謎について、ベストセラー『「何...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/11/02
今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授
3

横井小楠が説く「世界の幸せのお世話係」こそ日本の使命

横井小楠が説く「世界の幸せのお世話係」こそ日本の使命

徳と仏教の人生論(4)克己と天壌無窮

西郷隆盛が悟った「克己」、『日本書紀』に出てくる「天壌無窮」、これらの重要性をはじめ、東洋思想における欲望と肉体の関係については、まさに宇宙との対話につながる論理である。また、儒・仏・道・禅・神道の5つの東洋思想...
収録日:2025/05/21
追加日:2025/11/01
4

なぜ子どもは教えられても理解できないのか?鍵はスキーマ

なぜ子どもは教えられても理解できないのか?鍵はスキーマ

学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(2)言葉を理解するプロセスとスキーマ

算数が苦手な子どもが多く、特に分数でつまずいてしまう子どもが非常に多いというのは世界的な問題になっているという。いったいどういうことなのか。そこで今回は、私たちが言語習得の鍵となる「スキーマ」という概念を取り上...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/10/06
今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授
5

忠犬ハチ公で哲学する…人と犬の関係から見えてくる道徳論

忠犬ハチ公で哲学する…人と犬の関係から見えてくる道徳論

東大ハチ公物語―人と犬の関係(1)上野英三郎博士とハチ

東京大学大学院人文社会系研究科教授・一ノ瀬正樹氏が、海外でも有名な「ハチ公」の逸話を例に、人と犬の関係について考察する。第一回目は、ハチの飼い主・上野英三郎博士について触れ、東大とハチ公の結びつきや、東大駒場キ...
収録日:2017/04/04
追加日:2017/06/13
一ノ瀬正樹
東京大学名誉教授 武蔵野大学人間科学部人間科学科教授