テンミニッツ・アカデミー|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツ・アカデミーとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2024.08.13

50代で考える「親の介護」…課題と準備とは

 日本が長寿大国であるというのは良いことではあるのですが、一方で気になるのが「親の介護」という問題です。

 親が100歳なら子ども世代は70代、80代ということも大いにあり得ます。老老介護は切実、かつ現実的な問題として現役世代の皆さん、特に50代の方の肩にのしかかってくるのも、そう遠い将来のことではありません。今回は、親の介護をどのように考え、備えていけばいいのかについて基本的なことを、介護・暮らしジャーナリストとして執筆・講演活動も豊富な太田差惠子氏に伺いました。

介護はプロジェクト、介護者はプロジェクトリーダー

 親の介護は多くの場合、ある日突然に始まります。親が急な病気やケガで入院したとします。幸い大事には至らなかったものの、ある程度回復に向かえば退院することになります。そうなると、退院後の親の生活支援・サポートの必要に迫られる、というパターンが多いのです。

 このようなとき注意すべきは、介護者はとにかくあわてず、「施設入所か、介護離職か」などと極端な二択に走らないこと。太田氏は「介護はプロジェクトと捉えましょう」とアドバイスをしています。子ども世代は自分をそのプロジェクトリーダーと考え、ことにあたるのが肝要だということです。

直接介護はプロに任せて、マネジメントに徹する

 また、プロジェクトリーダーがすべての直接介護に関わる必要はありません。介護イコール「入浴、排泄、食事の介助」などと考えがちですが、いわゆるこうした直接介護はプロの手に任せて、自分はマネジメント面を担当することを勧めています。

 そして、マネジメントの第一歩は状況把握です。親は何ができて、何ができないのか。そのできないことは自分や家族でサポートできることなのか。サポートしきれない部分は介護保険をはじめとする公的制度やサービスを利用して、解決の糸口にしましょうというのです。

 ただ、そうした公的制度やサービスを利用するには契約行為を伴うことがほとんどで、もろもろの支払いも生じてきます。そうしたとき、その契約のことやお金の管理などが必要になってきます。実際の費用は親の年金や貯蓄などでやりくりすることを前提として考えることがポイントとなりますが、そうしたさまざまなことの相談、判断がマネジメントの役割となってきます。

公的機関や介護保険を積極活用する

 そこで、マネジメントとして大事なことに情報収集があります。今、早急に解決すべき課題は何なのか。これを見極め、そのための情報収集です。太田氏も「介護は情報戦」と話しています。現在、各地域に「地域包括支援センター」があるので、これを活用すること。この地域包括支援センターを情報戦のハブと捉えて、さまざまな相談を持ちかけてみるといいでしょう。介護者がひとりでネットなどで調べるより、はるかに効率的です。

 ところで、介護のスタートにあたっては積極的に介護保険を利用したほうがよいのですが、親世代のなかには「介護サービスの世話にはなりたくない」と言う人も少なくないといいます。たとえば「ヘルパーなど他人が家に入るのはいやだ」とか「他の年寄りと一緒のデイサービスなど行きたくない」など。このような言葉が親の口からよく聞かれます。

 もし、ご両親が「他人の世話になりたくない」というタイプならば、普段お世話になっている主治医の先生にひとこと話をしてもらうのも手、というのが太田氏のアドバイスです。子どもの言うことはなかなか聞かなくても、「先生」という肩書きを持つ人の話なら素直に聞いてくれるのではないかということです。

 また、介護保険は室内に手すりをつけるなどの改修工事、歩行器や杖などのレンタルといったことにも活用できるので、そのことを伝えて「利用してよかったね。費用も安く収まったし、助かったね」と心理的なバリアを取り除いていくことも大事でしょう。

 「介護」は人生後半にやってくる一大プロジェクトだと考えると、「なんとかなるだろう」「まだ大丈夫だろう」ではなく、「いつ来ても大丈夫なように」と備えておく。先述しましたが、「介護は突然に始まる」ということを頭に入れて、思い立ったときに進めておきたいですね。“備えあれば憂いなし”です。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
「学ぶことが楽しい」方には 『テンミニッツTV』 がオススメです。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

百年後の日本人のために、共に玉砕する仲間たちのために

百年後の日本人のために、共に玉砕する仲間たちのために

大統領に告ぐ…硫黄島からの手紙の真実(4)百年後の日本人のために

硫黄島の戦いでの奇跡的な物語を深く探究したノンフィクション『大統領に告ぐ』。著者の門田隆将氏は、「読者の皆さんには、その場に身を置いて読んでほしい」と語る。硫黄島の洞窟の中で、自分が死ぬ意味を考えていた日本人将...
収録日:2025-07-09
追加日:2025/08/15
門田隆将
作家 ジャーナリスト
2

なぜウェルビーイングが大事?DEIとの関係と価値の多様化

なぜウェルビーイングが大事?DEIとの関係と価値の多様化

DEIの重要性と企業経営(2)人的資本経営とウェルビーイング経営

今、企業の中に「人的資本経営」が急速に浸透している。経産省の定義によると、人的資本経営とは、人材を資本と捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方のこと。類似する概念と...
収録日:2025-05-22
追加日:2025/08/15
山本勲
慶應義塾大学商学部教授
3

全ては経済?…米中対立の現状とリスクが高まる台湾危機

全ては経済?…米中対立の現状とリスクが高まる台湾危機

トランプ政権と「一寸先は闇」の国際秩序(2)米中対立の現在地

世界第一、第二の経済力を誇る米中の対立は由々しい問題である。第1次トランプ政権下で始まった対立はバイデン政権に継承されてきたが、トランプ第2次政権では主題はもっぱら経済に集中している。われわれも米中協議の行方を注...
収録日:2025-06-23
追加日:2025/08/14
佐橋亮
東京大学東洋文化研究所教授
4

日英同盟の廃棄、総力戦…世界秩序の激変に翻弄された日本

日英同盟の廃棄、総力戦…世界秩序の激変に翻弄された日本

戦前、陸軍は歴史をどう動かしたか(1)総力戦時代の到来

日本陸軍は戦前の歴史をどう動かしたのか。シリーズでは陸軍の皇道派と統制派がどのような考えのもとに動いたかを論じる。第1話の今回はまず、第一次大戦が世界史的にいかなる意味を持ったかについて解説する。(全7話中第1話)
収録日:2018-12-25
追加日:2022/08/12
中西輝政
京都大学名誉教授 歴史学者 国際政治学者
5

なぜ社会的時差ボケになる?若者の夜型傾向とうつの関係

なぜ社会的時差ボケになる?若者の夜型傾向とうつの関係

睡眠から考える健康リスクと社会的時差ボケ(3)夜型人間と社会的時差ボケの関係

「夜型人間ほど社会的時差ボケは大きい」――つまり社会的時差ボケには、いわゆる夜型の生活習慣が大きく関わっているということだ。また、実はそうした睡眠のリズムは、持って生まれた遺伝子の影響も無視できないという。クロノ...
収録日:2025-01-17
追加日:2025/08/16
西多昌規
早稲田大学スポーツ科学学術院教授 早稲田大学睡眠研究所所長