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DATE/ 2023.01.13

話題の「ガチ中華」日本の中華料理との違いは?

 「ガチ中華」という、話題の中華料理ジャンルをご存じですか?

 日本のお店で味わえる中華料理のほとんどは、日本人好みにアレンジされたものです。それに対して「ガチ中華」とは、中国本土の味付けそのままの中華料理のこと。「本場の味が楽しめる」と、今とても人気を集めているんです。

 今回は、そんな「ガチ中華」の人気の秘密について深掘りしていきます。

実は中国にはない“和製中華”

 餃子やエビチリ、天津飯、中華丼に冷やし中華……どれも私たちがよく口にする、なじみ深い中華料理ですよね。しかしこれらは本場中国には存在しないか、味付けや具材がまったく異なる、似て非なるものです。

 たとえば日本で餃子といえば焼き餃子ですが、中国では圧倒的に「水餃子」が主流。中の具材も肉だけでなく魚や貝だったり、野菜もキャベツやナス、トマトだったりと、非常にバラエティに富んでいます。しかも「主食」扱いなので、日本のように餃子をおかずに白ご飯を食べる……という食べ方は、中国人から見るとチグハグに見えるとか。

 日本人が大好きなエビチリ(エビのチリソース煮)は、子どもも食べやすい甘みのあるケチャップ味が一般的ですよね。しかしこれは料理人の陳健民(ちん けんみん)氏が発明したオリジナルレシピ。同じくエビを使った「乾焼蝦仁(カンシャオシャーレン)」という四川料理が原型といわれています。

 ただ「乾焼蝦仁」は甘い味ではなく、豆板醤を使った辛い料理。当時の日本人は豆板醤の辛さに慣れておらず、「乾焼蝦仁」は受けいれられなかったのです。そこで陳健民氏は日本人でも食べやすいよう、まろやかな味のエビチリを考案。これが評判を呼び、全国に定着していきました。
なお陳建民氏は、中国では「汁なし」が当たり前の担々麺を「汁あり」にして出すなど、日本人の口にあった中華料理をいくつも普及させたことでも有名です。

 そして天津飯、中華丼、冷やし中華……これらは中国には存在すらしない、完全なる和製中華。それぞれの料理の起源や名の由来は諸説あるので割愛しますが、中国人は日本に来てこれらの料理を見ると「全然知らない」「なぜ天津なの?」などと、大変驚くそうです。

 こうした和製中華は“逆輸入”されて中国で人気を博すパターンもありますが限定的なもので、ほとんどの中国人は日本の中華料理に対し「全然辛くないし、ちょっと物足りない」と感じることが多いとか。

なぜ今「ガチ中華」が人気?

 本場の「ガチ中華」が注目されるようになったのは、中国と日本、それぞれの国の事情が背景にあると考えられています。

 まず大きな理由として、日本を訪れる若い中国人が増えているということ。激しい競争社会の中に生まれ育った中国の若者にとって、日本企業の手厚い雇用制度は魅力的に映るようで、働き場所を求めて日本にやってくるのです。その数は近年急増。さらにコロナ禍で故郷に帰りづらくなり、日本に滞在する期間が長くなる人が増えました。比例して故郷の味をなつかしむ人が多くなり、中国人向けの飲食店、いわゆる「ガチ中華」が増えていったと考えられています。

 つまり「ガチ中華」は、日本人ではなく完全に中国人のためのお店なので、味だけではなくメニューも中国語、訪れる客層も中国人がほとんどです。
しかしそんなお店の存在が徐々に日本人にも知られてゆき、

「日本にいながらにして、外国に来た感覚になれる」
「今まで知らなかった中国の家庭料理やご当地料理が楽しめる」

 と、このコロナ禍の閉塞的な状況もあいまって、日本人もたくさん訪れるようになりました。

 さらに昨今の日本は空前の“激辛”ブーム。日本の中華料理にはない、本場中国の“ガチな辛さ”を体感したいという人にもマッチしたのです。

 これらいろんな要素が絡んで「ガチ中華」は人気を呼び、店舗が爆発的に増えました。特に在日中国人が多い東京都江東区や江戸川区、埼玉県川口市には「ガチ中華」のお店が集中。留学生の多い高田馬場、池袋も、ディープな「ガチ中華」スポットとして注目されています。

これを読めば安心!「ガチ中華」の代表メニュー

 「ガチ中華」とは、具体的にどんな料理なのでしょうか。

 都内の「ガチ中華」を取材し情報発信をしている『東京ディープチャイナ研究会』の代表・中村正人氏の記事によると、「ガチ中華」とは、

【1】麻辣(マーラー)系
【2】羊料理
【3】ご当地麺
【4】小吃(シャオチー)

の4ジャンル、そして日本にはあまり知られていない地方料理に分かれるといいます。

 それでは、4ジャンルそれぞれの特徴について見ていきましょう。

【1】麻辣系

 麻辣(マーラー)とは“しびれる辛さ”のこと。今日本でもっとも多い「ガチ中華」がこの麻辣系で、辛い味付けでよく知られる四川省発祥の料理がメインです。

 そんな麻辣系の代表的なメニューは「四川火鍋」。豆板醤や乾燥トウガラシ、そして最近日本でもよく見かけるようになった花椒(ホワジャオ)をたっぷり入れて具材を煮込む鍋料理です。

 ぐつぐつと煮えたぎる真っ赤なスープは、見ているだけで汗が出てきます。なんの手加減もない、“ガチ”で痺れる辛さですが、これがやみつきになるとして激辛ファンが殺到。東京・新宿には中国の有名火鍋チェーンが続々と出店しており、四川火鍋の激戦区となっています。

【2】羊料理

 日本ではあまりなじみがありませんが、中国で羊肉は牛肉や豚肉と同じく、非常にポピュラーな食材。特に中国の東北、華北・西北、内モンゴルでは盛んに食されており、調理法も地域によってさまざまです。

 そんな数多ある羊料理の中でも代表的なものといえば「羊肉串(ヤンロウツァン)」。読んで字のごとく羊肉の串焼きで、見た目は焼き鳥そのままです。カリカリとした歯ごたえのもの、しっとりジューシーなものなど、お店によって個性があるのが特徴。その昔の中国では、あちこちで羊肉串の屋台が軒を連ね、おやつ感覚で食べられていたとか。

【3】ご当地麺

 多民族国家の中国は、麺料理も実に多様です。麺は北の地方では小麦麺、南は米麺が主流で、甘粛省の「蘭州(らんしゅう)牛肉麺」、雲南省の「米線(ミーシェン)」、陝西省西安の「ビャンビャン麺」がよく知られています。

 「ビャンビャン麺」は、日本のコンビニでも商品化されるほど今静かなブームとなっている小麦麺で、幅広でモチモチとした食感が特徴。黒酢ベースのタレで食べたり、ジャージャー麺風に肉そぼろをかけて食べたりします。

【4】小吃(シャオチー)

 小吃とは昼食や夕食の合間に食べる小皿料理のことで、点心の一種(同義語とも)です。日本でいう軽食やおやつにあたります。

 特に粉でつくった小吃が注目されており、中国式クレープと呼ばれる「煎餅果子(ジェンビングオズ)」や、焼き小籠包である「生煎包(ションチェンパオ)」、モチモチ&つるんとしたのど越しがやみつきになる麺「涼皮(リャンピー)」などが人気です。

 いかがでしたか。中国伝統の味をダイレクトに味わえる「ガチ中華」。異国情緒あふれるディープな魅力に、あなたもハマってみては。

<参考サイト>
・なぜ急増?“ガチ中華”新時代の日中関係に迫る(NHK)
https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4715/
・東京“ガチ中華”エリアマップ  ~バラエティー豊かな味に迫る~(NHK)
https://www.nhk.or.jp/gendai/comment/0018/topic061.html
・日中国交正常化50年、脚光浴びる「ガチ中華」の現在地(ForbsJAPAN)
https://forbesjapan.com/articles/detail/51102
・「ガチ中華」の誕生とブームの背景【中編】どんな料理? 特徴は?(東京ディープチャイナ研究会)
https://deep-china.tokyo/trend/13134/
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