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DATE/ 2016.02.20

「働きやすさ」でなく「働きがい」で測るホワイト企業の評価基準

 「ホワイト企業」と耳にして、どんな職場を想像するだろうか。ブラック企業の逆と考えれば、残業が少なく、給料も休みもたっぷりもらえ、パワハラもない環境でみな楽に働ける、離職率の低い企業、といったイメージかもしれない。

 ある意味で、このイメージは正しい。しかし、就業時間や給与などが満足のゆくものであっても、離職率が高い企業は存在する。そういった企業では「労働の質」が落ちているのかもしれない。ここでの「労働の質」は、労働環境を意味している。

「働きやすさ」と「働きがい」はどちらが大事か

 良い労働環境には、「働きやすさ」と「働きがい」という2つの大きな要素がある。どちらもホワイト企業には必要な要素だろう。では、この2つのうち、どちらがより大切かといえば、「働きがい」の方ではないだろうか。もちろんライフステージの変化(子育てや介護)があれば、「働きやすさ」の方が大事になる場面もある。しかし「働きやすい」だけでは、人は飽きてしまう。

 厚労省が2015年に発表した統計によると、宿泊業・飲食サービス業における、大卒3年後の離職率は53.2%となっている。つまり半数が3年以内に辞めているということになる。これは労働環境の過酷さや給与などにも問題があるかもしれないが、果たしてそれだけだろうか。

 居酒屋のアルバイト店員に労働環境についてインタビューをすると、「仲間も社員もお客さんもいい人たちで満足です」という答えがよく返ってくるという。アルバイトの場合、比較的流動性が高いため、時給や職場の雰囲気など「働きやすさ」が重視されると考えられる。しかし、そのままそこに就職となると、「働きがい」が欠けているなら、長く継続して働こうとは思わない、ということかもしれない。

 つまり、ホワイト企業とは、仕事を通じて自分が人間的に成長していける企業といえるだろう。

ホワイト企業の評価基準

 ホワイト企業と呼ばれるには世界的にいくつかの基準がある。日本に導入されているものとしては、GPTW(Great Place to Work)があり、「働きがいのある会社ランキング」と訳されている。これは企業が認定を申請するもので、社員アンケートや経営者インタビューなどを基に集計され、結果の上位企業のみが公表される。会社がお金を払って審査してもらうものだが、上位に入れば企業側にも広報活動に活用できるメリットがある。

 社員への質問項目は、「信用」「尊敬」「公正」「誇り」「連帯感」という5点に分類できる。中でも「信用」「尊敬」「公正」の3点は、組織としてのパフォーマンスを高める上で不可欠の要素「信頼」に関わるものとして重要視されている。また、会社側の取り組みへの評価は、社員への「触発」「語りかけ」「傾聴」「育成」「感謝」「配慮」「分かち合い」「祝い」「歓迎」といった観点が重視されている。

 ここでもやはり、人材育成の具体的な施策以上に、その企業が単に「働きやすい」場所であるだけではなく、「働きがい」のある場所であるかどうか、が問われている。もっと言えば、人を尊重し成長できる企業風土が備わっているかどうかが重視されているのだ。

 ちなみに2015年公開のランキングで、従業員1000人以上の規模の会社におけるトップ3は以下のとおりとなっている。

 1位:グーグル
 2位:日本マイクロソフト
 3位:アメリカン・エキスプレス

 一度自らの就業環境、働き方、働きがいについて見直してみるのもいいかもしれない。

<参考文献・参考サイト>
・『ホワイト企業 サービス業化する日本の人材育成戦略』(高橋俊介著 PHP新書)
・厚生労働省 新規学卒者の離職状況(平成24年3月卒業者の状況)
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000101670.html
・Great Place To Work Institute Japan
http://www.hatarakigai.info/index.html
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今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授