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DATE/ 2017.01.16

対人関係から健康までを左右する「第二の遺伝子」とは?

愛着とは、人と人の絆を結ぶ能力

 うつ、気分障害、不安障害、依存症、過食症、恋愛や育児の悩み、セックスレスやDV、ひきこもりや非行……これらすべての悩みや症状には、ある共通する原因があります。それが、「愛着」です。

 『愛着障害』(光文社)の著者・岡田尊司氏によると、愛着とは、人と人の絆を結ぶ能力であり、人格の土台を形づくる、その人の生き方や関心、恋愛や子育て、ストレスに対する耐性や健康にも関わってくるため、「第二の遺伝子」と例えられることもあるといいます。

 また、愛着の問題は、決して一部の人だけの特別な問題ではなく、ほとんどの人に広く当てはまる問題だと指摘しています。およそ3人に1人の確率で愛着の傷を抱えているという調査結果があるのです。

愛着の形成――「安全基地」を確保できるか

 岡田氏によると、愛着の形成は、生後直後から半年くらいの間に始まり、生後6カ月から1歳半くらいまでが最も重要な時期あたり、だいたい5歳くらいまで、母親(あるいは保護者)という「安全基地」がきちんと確保されていれば、安定した愛着スタイルを身につけやすくなるとのこと。遺伝的影響も無視はできませんが、養育環境の関与が極めて大きいことが分かります。

 親をはじめ、重要な他者との関係が積み重ねられていくなかで、十代初め頃から固有の愛着のパターンが明確になり、成人する頃には確立されていくそうです。

4つのスタイル――「安定型」「回避型」「不安型」「恐れ・回避型」

 愛着スタイルは、「安定型」「回避型」「不安型」「恐れ・回避型」の大きく4つのタイプに分類されます。

・「安定型」:第一の特徴は、対人関係における絆の安定性。率直さと前向きな姿勢を兼ね備えており、人間関係も情緒も、文字通り安定しています。
・「回避型」:対人関係において親密さより距離を求め、縛られないことを最重視します。俗に言う、草食系男子や引きこもりはその一例といえるでしょう。
・「不安型」:「愛されたい」という気持ちが非常に強く、常に気遣いばかりしているタイプです。恋愛モードになりやすく、べったりとした依存関係を求めます。
・「恐れ・回避型」:対人関係を避ける「回避型」と、他人の反応に過度に敏感な「不安型」の両面を抱えているタイプです。

 詳しくは前述の『愛着障害』(光文社)や『愛着障害の克服 「愛着アプローチ」で、人は変われる』(光文社)をご参照ください。

愛着障害を克服する――良い「安全基地」の5つの条件

 大人になってから愛着障害を克服するのは容易ではありません。そのためには、本来は幼少期に必要だった「安全基地」となる存在を確保しなければならないと岡田氏は言います。良い安全基地には5つの条件があります。

 1つ目は安全感を保証すること。2つ目は共感性。3つ目は応答性。4つ目は安定性。5つ目はなんでも話せること。

 愛着スタイルに最も大きな変化が起きやすいのは、恋愛や結婚によってパートナーとなる存在と親密な関係を結ぶようになってからだそうです。

 しかし、安全基地となる相手と出会えなくても、諦めることはありません。自分自身が安全基地となって回復した例もあるのです。大事なことは、子どもの頃の失われた時間をやり直していくこと。その過程を通して、「幼なごころ」を取り戻すことです。

創造者の原動力――ゴッホも漱石もジョブズもオバマも

 愛着障害は必ずしも悪い面だけではありません。偉人と言われる人たち、たとえばゴッホも漱石もジョブズもオバマもみんな愛着が安定していたわけではなかったそうです。実は、愛着障害は独創性という大きな強みを生む、と岡田氏は指摘しています。創造する者にとって、愛着障害は不可欠な原動力になっていると言っても過言ではありません。

 そう考えると、愛着障害は完全に克服することを目指さなくも良いのかもしれません。なによりも大事なことは、症状を自覚し、いかにして付き合っていくか、模索し続けることだと思います。

<参考文献>
『愛着障害 子ども時代を引きずる人々』(岡田尊司著、光文社)
『愛着障害の克服 「愛着アプローチ」で、人は変われる』(岡田尊司著、光文社)

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