社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
対人関係から健康までを左右する「第二の遺伝子」とは?
愛着とは、人と人の絆を結ぶ能力
うつ、気分障害、不安障害、依存症、過食症、恋愛や育児の悩み、セックスレスやDV、ひきこもりや非行……これらすべての悩みや症状には、ある共通する原因があります。それが、「愛着」です。『愛着障害』(光文社)の著者・岡田尊司氏によると、愛着とは、人と人の絆を結ぶ能力であり、人格の土台を形づくる、その人の生き方や関心、恋愛や子育て、ストレスに対する耐性や健康にも関わってくるため、「第二の遺伝子」と例えられることもあるといいます。
また、愛着の問題は、決して一部の人だけの特別な問題ではなく、ほとんどの人に広く当てはまる問題だと指摘しています。およそ3人に1人の確率で愛着の傷を抱えているという調査結果があるのです。
愛着の形成――「安全基地」を確保できるか
岡田氏によると、愛着の形成は、生後直後から半年くらいの間に始まり、生後6カ月から1歳半くらいまでが最も重要な時期あたり、だいたい5歳くらいまで、母親(あるいは保護者)という「安全基地」がきちんと確保されていれば、安定した愛着スタイルを身につけやすくなるとのこと。遺伝的影響も無視はできませんが、養育環境の関与が極めて大きいことが分かります。親をはじめ、重要な他者との関係が積み重ねられていくなかで、十代初め頃から固有の愛着のパターンが明確になり、成人する頃には確立されていくそうです。
4つのスタイル――「安定型」「回避型」「不安型」「恐れ・回避型」
愛着スタイルは、「安定型」「回避型」「不安型」「恐れ・回避型」の大きく4つのタイプに分類されます。・「安定型」:第一の特徴は、対人関係における絆の安定性。率直さと前向きな姿勢を兼ね備えており、人間関係も情緒も、文字通り安定しています。
・「回避型」:対人関係において親密さより距離を求め、縛られないことを最重視します。俗に言う、草食系男子や引きこもりはその一例といえるでしょう。
・「不安型」:「愛されたい」という気持ちが非常に強く、常に気遣いばかりしているタイプです。恋愛モードになりやすく、べったりとした依存関係を求めます。
・「恐れ・回避型」:対人関係を避ける「回避型」と、他人の反応に過度に敏感な「不安型」の両面を抱えているタイプです。
詳しくは前述の『愛着障害』(光文社)や『愛着障害の克服 「愛着アプローチ」で、人は変われる』(光文社)をご参照ください。
愛着障害を克服する――良い「安全基地」の5つの条件
大人になってから愛着障害を克服するのは容易ではありません。そのためには、本来は幼少期に必要だった「安全基地」となる存在を確保しなければならないと岡田氏は言います。良い安全基地には5つの条件があります。1つ目は安全感を保証すること。2つ目は共感性。3つ目は応答性。4つ目は安定性。5つ目はなんでも話せること。
愛着スタイルに最も大きな変化が起きやすいのは、恋愛や結婚によってパートナーとなる存在と親密な関係を結ぶようになってからだそうです。
しかし、安全基地となる相手と出会えなくても、諦めることはありません。自分自身が安全基地となって回復した例もあるのです。大事なことは、子どもの頃の失われた時間をやり直していくこと。その過程を通して、「幼なごころ」を取り戻すことです。
創造者の原動力――ゴッホも漱石もジョブズもオバマも
愛着障害は必ずしも悪い面だけではありません。偉人と言われる人たち、たとえばゴッホも漱石もジョブズもオバマもみんな愛着が安定していたわけではなかったそうです。実は、愛着障害は独創性という大きな強みを生む、と岡田氏は指摘しています。創造する者にとって、愛着障害は不可欠な原動力になっていると言っても過言ではありません。そう考えると、愛着障害は完全に克服することを目指さなくも良いのかもしれません。なによりも大事なことは、症状を自覚し、いかにして付き合っていくか、模索し続けることだと思います。
<参考文献>
『愛着障害 子ども時代を引きずる人々』(岡田尊司著、光文社)
『愛着障害の克服 「愛着アプローチ」で、人は変われる』(岡田尊司著、光文社)
『愛着障害 子ども時代を引きずる人々』(岡田尊司著、光文社)
『愛着障害の克服 「愛着アプローチ」で、人は変われる』(岡田尊司著、光文社)
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
雑学から一段上の「大人の教養」はいかがですか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。
『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
ソ連と西欧を隔てた「鉄のカーテン」と冷戦後の地政学
地政学入門 ヨーロッパ編(3)「鉄のカーテン」と冷戦後の変動
ウクライナへの侵攻を行ったロシアの振る舞いは、ヨーロッパの歴史を地政学的な観点から見ることなしに理解することはできない。ソ連の崩壊前後を中心に、現在のロシア、プーチン政権のあり方につながる歴史を振り返る。(全8話...
収録日:2025/02/28
追加日:2025/05/19
トランプ関税はアダム・スミス以前の重商主義より原始的
第2次トランプ政権の危険性と本質(2)トランプ関税のおかしな発想
「トランプ関税」といわれる関税政策を積極的に行う第二次トランプ政権だが、この政策によるショックから株価が乱高下している。この政策は二国間の貿易収支を問題視し、それを「損得」で判断してのものだが、そもそもその考え...
収録日:2025/04/07
追加日:2025/05/17
千手千眼観音のサポートとは?菩薩たちのビッグバンとは?
おもしろき『法華経』の世界(3)止観と菩薩による救済
最澄の瞑想図は非常に美しいが、彼は何を瞑想していたのだろうか。答えは無、心の動きを止めるのが「止観」だからだ。また、『法華経』全巻の構成を見ると、弥勒、観音、普賢の三菩薩が衆生を導き救済する中心的存在であること...
収録日:2025/01/27
追加日:2025/05/18
聖徳太子と日本人…「実在しなかった」説の真相とは?
「万葉集」の聖徳太子――語りかける人(1)日本人の憧れ
2021年は聖徳太子の1400回忌にあたる。彼が創建したとされる法隆寺では100年に一度の法要が営まれ、夢殿本尊救世観音像などの特別開扉も始まっている。彼はなぜ千年の時を超えた強い憧れや尊敬の的なのか。また、「実在しなかっ...
収録日:2021/06/04
追加日:2021/07/16
相互関税の影響は?…トランプが築く現代版の万里の長城
世界を混乱させるトランプ関税攻勢の狙い(1)「相互関税」とは何か?
トランプ大統領は、2025年4月2日(アメリカ時間)に貿易相手国に「相互関税」を課すと発表し、「解放の日」だと唱えた。しかし、「相互関税」の考え方は、まったくよくわからないのが実状だ。はたして、トランプ大統領がめざす...
収録日:2025/04/04
追加日:2025/04/10