●新興国台頭と情勢不安が原油価格を押し上げた
まず「逆オイルショック」について考えてみたいと思います。逆オイルショックはなぜ起きたか。2000年代初頭にITバブルがありました。原油価格はこの直後、2003年くらいはとても安かったのですが、そこからずっと上昇し始めました。2008年7月はそのピークだったと思いますが、ニューヨークの原油相場、いわゆるウェスト・テキサス・インターミディエイト(WTI)では、145ドルをつけていました。それから、ロンドンの市場では、欧州産ブレンドが146ドル。それからドバイが141ドルということになりました。
この背景は何かというと、BRICsと言われる新興国が目覚ましい発展を遂げていて、長期的には、地球上における先進国のシェアを上回るのではないかという思いが、当時の一般的な考え方だったと思います。2008年にリーマン・ショックがあって、一時どーんと石油価格が落ちたのですが、そういう考えもあるものですから、ほどなく復調しました。
さらに言えば、中国がすごいと思われた。それからブラジルが、リーマン・ショック直後に最も早く回復しているのです。だから、新興国はロバストで、無傷であると思われた。当時「デカップリング論」が流行りました。「先進国が駄目になっても、新興国は別だ」という議論があったのですね。
原油相場がどうやって決まっているか。ここにいる皆さんには釈迦に説法ですが、これは市況ですから、実需、需要供給の人が、将来にヘッジするために先物を買ったり売ったりするわけですね。この実需の人が先物を売り買いするときに、相手方が必要なのですね。売るときは買う人、買うときは売る人が必要ですね。
それを誰がやっているかというと、かなり大規模な機関投機家です。これが参入してやっています。投機筋は、その決済の日の前に、売ったら買う、買ったら売るをしなければいけないのですが、反対取引をして、差額を確定するわけです。上がるときも下がるときも、その差額でもうけたいのです。そこでどうするかというと、この人たちはリスク・テイカーですから、思い切ってオーバー・シュートをするような傾向になった方が、どちらになってももうけを取ることができるのです。ですからどうしてもこの先物取引というのは、上へも下へもオーバー・シュートするという傾向があると思います。
先ほど申し上げた局面では、「新興国がすごいぞ」ということで、着実な分析もあるのですが、「もっと行ったらどうすんだ?」「石油の需要はすごくなるよ」というオーバー・シュートでどーっと上がっていった結果が、140何ドルだったと思います。
このリーマン・ショック後、アメリカは長期金融緩和を始めたので、これも追い風になりました。それから、2010~11年にかけてのアラブの春、2014年にはロシアがクリミア併合しましたし、2014年からISがすごく台頭してきます。これらは皆リスク要因なので、こういうときには原油は上がるわけですね。こうした結果、原油価格はずっと上がっていって、高止まりで100ドル超えるのが今日まで続いたのです。
●サウジアラビアが減産しない理由
ところが、2014年6月、ここが大変クリティカルなポイントなのですが、ここから原油相場が急落を始めました。どんどん下げ続けて、今や「逆オイルショック」とすら言われます。今年1月はどうなったかといえば、ニューヨークのWTIは146ドルから26ドルです。同じ石油ですよ。やはり完全なオーバー・シュートですね。
いったい何が起きたのかというと、背景の一つに、アメリカのシェールガスの生産が本格化したことがあります。2014年11月にOPEC(石油輸出国機構)の総会があったのですが、普通なら減産しているのですね。ところが、サウジアラビアが減産しないと強硬に言ったために、結局減産しないことになった。理由の一つには、アメリカのシェールに市場を取られるのが嫌だというシェアの問題があると思いますが、もう一つは、サウジアラビアの台所がひどいことになっていたことです。つまり、原油価格が下がったので、もう財政がめちゃくちゃなのですね。だからもう藁にもすがる思いで、とにかく生産を続けようという自滅行為に入っているわけです。それもあって、供給が減らない。
需要がどういうことになったかというと、実は新興国は、2011年ごろから軒並み低下を始めたのですね。これが一番大きい理由だと思いますが、そういうことが背景になって、先物相場がこれまでアップ、アップ、アップでいったのが、今度はダウン、ダウン、ダウンとなり、とんでもないオーバー・シューティングで、とうとう1バーレル20何ドルなどという状況が続いています。本来ならば、あり得ない値...
主なシェールガス層の分布図