●山に自生するいろいろな木を使う
これまでの木造建築では、山で木を伐り出して丸太にし、柱や板に加工して住宅を造ってきましたが、あまり大した技術はありませんでした。ローテクの世界で、なんとなく造ってきたのです。
伝統的な木造では山に行って木を選んでいたかもしれませんが、都市木造は規格材を前提にしますから、木を選ばない。林業では、真っすぐ育てようとか節を減らそうという努力はしますが、遺伝子操作をして強い木をつくろうというようなことは、やっていません。成果が出るのが50年後になるからだと聞きました。
栽培植物は翌年に結果が出るからすぐに改良できるけれど、樹木はそうはいかない。現状はこういうことになっているわけです。今の世の中は、「山に行けば、こういう木があるだろう」という想定で規格材をつくっていく文化ですが、実際の山の中はこういう状態なので、いろいろな木があるわけです。
山は、木をつくるためにあるわけではない。山を元気にするために木を植えているのだとすると、生えている全ての木を使うための仕組みもつくらなければいけないわけです。つまり、多様な木を多様な用途に使うということです。
●「間伐材」というブーム
「山のために木を使う」というと、「間伐材」という言葉が連想されます。間伐材は専門用語ですから、本当は専門家しか知らないはずなのに、どこからかブームになってしまいました。「山には間伐材というのがあって、捨てられているから使ってあげると環境にいい」というのですが、それはうそです。
間伐材とは、「主伐材」を高く売るために、周りで間引かれた木のことです。木を高くするために頑張っている木ですから、別に細い木や小さい木というわけではない。いくら太く育っていても、こちらを大事にするためにそちらを伐るというだけです。
また、主伐材を高く売るために間伐しているわけですから、世の中の誰もが皆、間伐材ばかりを使っても困ります。しかし、まずは間伐材の使い道を考えようというので、細い木や短い木をどうやって使うかという話になっているのです。
●細い木、短い木を生かして使う
通常、10.5センチから12センチあれば木造住宅ができます。それより細いものは住宅には使えないが、工事現場にある「現場小屋」ならいいのではないか。現場小屋を木造でできないかというので、7.5センチの「75角」と呼ばれる材で造ると、こんな風になります。これならば、現場小屋でなくても、オフィスの中にあってもいいでしょう。オフィスのパーティションや会議室なども、この方式でできます。
こちらは住宅です。9センチ以上が住宅に使えるのですが、90角より小さい材なら、こうして使えばいいという提案ができてきました。
今、提案もしていますが、オリンピック用の仮設スタンドも、75角あればできるのです。鉄の単管で造ってきましたが、木で造れば、こんな風にできるということがあります。
また、ブロックにする手法もあります。もう壊してしまったのですが、生研(生産技術研究所)前の敷地に、小さい材をブロックにして積んだ建物を造りました。ただ積むだけではつまらないので、穴を開けてみています。このような空間も、小さいブロックでできるわけです。
●太い木、高い木に新たな出番を考える
しかし、やはり主伐材の方の使い道についても、前半で言った「流通規格」の中で一生懸命やる方法を考えなければなりません。
今の世の中では流通規格材は安く出回っています。学校建築などは、流通規格材を組み合わせることで、こんな楽しい空間ができます。こちらは先ほど言った悪い方、というと叱られますが、「屋根の建築」になっているものです。
だけど、本当はもっと太い木を使った太い空間をつくりたい。これは秋田県にある日本一高い木です。あるいは、こんなに太い木もある。これらは伐採されないでしょうけれど、山では主伐材になります。
昔は、これらを大黒柱や曲がり梁に用いて、小屋組みをしていたのです。しかし、もはやそういう出番はない。「農家型の民家を造りたい」という要望はないわけなので、こういうものこそ、都市部に大きな建築を造るときに生かしたい。例えばこういう建築ですが、「でんと柱を造りましょうよ」という文化が必要になってくると思います。
先ほどまでのような、安い細い材をたくさん使うことも山のためになりますが、山にあるいい木、太い木に少し付加価値をつけて高く使ってあげるのが本来の道でしょう。
これまでは小屋組みなどに重宝されてきた材ですが、こうした住宅を建てる人はもはやいなくなっています。そこで、非住宅の分野でそれに代わるものをつくらなければいけない、という話になってくるわけです。