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南シナ海への攻勢はリーマンショック以前から始まっていた

「TPP」か「一帯一路」か(3)サメの群れと化す中国

白石隆
公立大学法人熊本県立大学 理事長
情報・テキスト
南シナ海
政策研究大学院大学(GRIPS)学長・白石隆氏は、「中国とはクジラではなく、数百頭のサメだ」と表現する。中国の南シナ海進出が、極めて官僚的なプロセスで開始されたように、統率された意思よりも、成り行きとシステムが中国の政策を左右している。だからこそ、その進出に対して重要なことは抵抗し続けることだと、白石氏は述べる。(全5話中第3話)
時間:07:19
収録日:2016/03/09
追加日:2016/05/23
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≪全文≫

●南シナ海への攻勢は、リーマンショック以前から始まっていた


 少し話はずれますが、例えば、南シナ海の問題にしても、あれは実は2007年から始まっています。ベトナムやフィリピンの漁船を拿捕して、漁具などを全部破壊し、場合によっては漁船の乗組員を勾留し、1カ月ほどで放り出すといったことは、2007年から始まっているのです。

 2008年にリーマンショックがありました。中国は、リーマンショックを見て、「もうアメリカの覇権は衰退する。これからは自分たちの時代だ」ということで、かなりアグレッシブになってきたと、一般的にはよく言われています。おそらく一般論としてはその通りなのでしょうが、南シナ海問題については、その1年以上前から始まっていたのです。2006年後半ぐらいから徐々に始まるのです。

 どうしてなのかということで、最近私がその理由としてはっきりと思い始めたのは、「能力ができたからやり始めた」ということです。要するに、大型の漁業監視船や海洋監視船ができたからです。今までは大仰でやるといってもその能力がないからできなかったことが、できるようになったわけです。だからやり始めたのです。まさに官僚的な組織のプロセスとして始まったわけです。ところが、やっているうちに、これがどんどん政治的に大きな問題になってきて、引っ込みがつかなくなってしまいました。そういう気がして、しょうがないのです。


●中国という国は、数百頭のサメの群れと考えた方がいい


 「一帯一路」も似たような話です。私は、あれは最初から地政学的な戦略だったとは全く思っていません。最初は、いわば中国の国内政治・政策で、どうやって国有企業改革をやるのかという話でした。国内の投資効率が悪いのであれば、外でやればいいではないかというところから話が始まり、そこに戦略的な議論が加わってきました。だから、一見すると極めて戦略的に見えますが、実際には相当短期間に、政府全体ではなく、それぞれの組織のロジックで政策がつくられているという気がしてしょうがないですね。

 ですから私が最近特に言うのは、中国という国は、一つの大きなクジラではないということです。数百頭のサメの群れだと考えた方がいい。そのように言ったら、国際的なビジネスを行っているある人が、「私は、最近は新宿駅だと言っている」と話していました。つまり、中央口に出たいと思っても、ラッシュアワーで皆が同じ方向へ流れていると、もう結局そこに行くしかない。中国もそういうところだということで、私もそちらの方がふさわしい表現かなと思っています。イメージとしてはそういったところです。

 そういう国が、果たしてこれから10年、15年どういう動きをするのか。これを見極めるのはなかなか難しいところがあります。鶴の一声であちらに行ったりこちらに行ったりしたら大変なことになるのですが、どうもそうなりつつあるからです。


●抵抗勢力のあるところにまでは進出しない


 また「一帯一路」の話に戻りますと、大国が台頭してくるときに、対外的にどういった進出の仕方をするのかということを、過去100年くらいのスパンでいろいろな事例を見ていき、ほぼ確実に言えることの一つは、抵抗がたくさんあるところよりも、抵抗のないところに出て行くということです。当たり前ですけどね。

 日本もそうだったわけです。かつて1920~30年代も抵抗のないところに出て行きました。ということは逆に申しますと、中国は「一帯一路」といってあらゆるところに出ようとしているわけですが、抵抗したところにはおそらく出て行かなくなるだろうと思います。だからこそ、やはり抵抗しなければいけません。

 要するに、東から南の海の方へ出るのではなく、むしろ西の方に行ってくれれば、それはもう日本の問題ではなくなります。それは、ロシアやカザフスタンの問題になり、「そちらで頑張ってください」で済んでしまうのです。そのために、こちらの方の抵抗をどうやってつくっていくのかが重要ではないかと思います。


●今後が懸念されるミャンマーの民主化


 ミャンマーは中国との関係においてやややり過ぎている感じがあり、実は現時点で中国のプレゼンスはものすごく大きいのです。中国との貿易で申しますと、今30~40パーセント近いのではないでしょうか。非常に中国のプレゼンスが大きいので、あるところでやはり妥協せざるを得ないと思います。

 正直言って、今度の選挙はアウン・サン・スー・チーの国民民主連盟が勝ち過ぎています。これからの5年間は、非常に注意して見なければいけませんし、1~2年は混乱するかもしれません。

 私は、経済成長率次第だと思っています。テイン・セイン大統領の下で8.3パーセントほどの経済成長率(2013年)だったはずで...
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