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「水道哲学」は貧乏克服、「産業報国」は商人の誇り

松下幸之助の経営理念(2)創業から戦後への歩み

佐野尚見
元・松下電器産業株式会社(現・パナソニック株式会社)代表取締役副社長
情報・テキスト
パナソニック株式会社の「信条・綱領・七精神」をはじめ、松下幸之助は数多くの理念を文章化している。もちろん企業としての経営理念が中心だが、個人・社会人として見ても人生哲学に通じるものがある。今回は、「経営の神様」の教えを身近で聞いてきた公益財団法人松下政経塾理事長・佐野尚見氏に、創業時から戦時中にかけての松下幸之助の歴史と言葉を振り返っていただく。(2016年2月18日開催日本ビジネス協会JBCインタラクティブセミナー佐野尚見氏講演「松下幸之助の経営理念」より、全6話中第2話)
時間:16:51
収録日:2016/02/18
追加日:2016/06/06
≪全文≫

●幸之助の生涯と創業当時の雰囲気


 今回は、「松下幸之助の経営理念」をお伝えしていきます。私が50年ほど「松下」と名前のつくところで働いてきたことを前回お伝えしましたが、自分の分かる範囲で、創業者の考えを多少なりとも皆さんにご説明できればと思っています。

 この資料は、松下幸之助創業者の生涯とその事業です。幸之助創業者という人は、1894(明治27)年に和歌山で生まれ、1989(平成元)年に94歳で亡くなられています。平成は元年だけとはいえ、明治、大正、昭和、平成と激動の時代を生き抜いてこられた。松下電器の創業者ではありますが、日本の先哲、先覚者と呼べるのではないかと思います。

 次の資料は、創業当時の雰囲気を伝えるものです。左上が最初の工場で、大阪にあるしもたやです。真ん中の写真の後ろに立つ丸囲みの三人で起業しました。左が幸之助創業者、右が奥さまのむめのさん。真ん中にいるのは、むめのさんの弟の井植歳男さんで、三洋電機の創業者となりました。

 下段右側にあるのが、最初の商品である「二股ソケット」です。余談にはなりますが、テレビからの受け売りですが、「大正の三大発明」を紹介しています。地下足袋はブリヂストンの発明で、ゴム一体型の商品をつくりました。「亀の子たわし」の方は今でも伝統を守っています。


●幸之助94年の三大生涯事業と経営理念


 松下幸之助創業者は、その94年の生涯の中で実にいろいろなことに携わりましたが、大きな生涯事業として、三つご紹介したいと思います。

 まず、1918(大正7)年、23歳の時に松下電気器具製作所(現パナソニック株式会社)をつくりました。それから約30年後、1946(昭和21)年には、51歳で株式会社PHP研究所をつくっています。たまたまですが、さらに約30年後の1979(昭和54)年、84歳の時に松下政経塾をつくりました。ちなみに、この30年後に誕生したのが松下政経塾1期生の野田内閣です。短命だったので残念でしたが。

 幸之助創業者は、事業を興すとき、あるいは事業をしながらも、この事業は何のためにするのかということを、いつも必ず考える人でした。それを、松下電器では「綱領・信条・七精神」、PHPでは「綱領・信条」、政経塾では「塾是・塾訓・五誓」というかたちで、文言化しています。

 それぞれに表現は違いますが、内容をよく読むと、いずれも「人類の繁栄・平和・幸福」を追求しています。“Peace,Happiness,and Prosperity”で、“PHP”です。松下電器はものづくり、PHP研究所は理念づくり、政経塾は人づくりというかたちになっているのですが、やはり最後は「人づくり」に向かったのではないかと考えています。

 「綱領・信条・七精神」は、パナソニックにもPHP研究所にも政経塾にもあります。この三つの事業体では、いずれも毎朝、社員がこれを大きな声で唱和しています。政経塾では塾生一同が唱和します。社員にとっては会社のあるべき姿を示すものですが、一社会人として見ても、一つの人生哲学であり、非常に奥の深い内容を持っています。

 次の資料は「経営理念の体系」としました。私なりの整理なので、少し違っているところがあるかもしれませんが、幸之助創業者が自分の考えを固められたのは、34歳から44歳までの10年間だったのではないかと思います。これらは大学で学んだり経営学の本を読んで得たものではなく、ご自分の実体験の中から生まれたものですので、非常に自然で、優しく素直です。

 1から8までの体系に分けましたが、今日は1、3、4、6、7の五つについて紹介させていただきたいと思います。多少細かい話にわたりますが、ご辛抱ください。


●34歳で築いた経営理念と、創業当時の商品


 そもそも経営理念とは何かを考えてみましょう。これは非常に精神性の高いものではありますが、シンプルに言えば「会社・組織の存在意義」だと私は考えています。自分たちの会社組織は何のためにあるのか? これがポイントだと思うのです。

 しかも、幸之助創業者の言葉によれば、それは「汗を流した現場体験と懸命な思索により創られるもの」であり、「正しいものの見方や考え方(世界観・社会観・人間観)に根差したもの」でなくてはなりません。事業を通じて自分の人生観を表現したのではありません。経営に理念があってこそ、経営資源の「ヒト・モノ・カネ」が生きると同時に、力強い経営ができるということを言われています。

 では、その頃、昭和の前後にはどんな商品をつくっていたのかを見る商品写真を集めました。アイロン、ストーブ、砲弾型ランプ、角型ナショナルランプなどが1913(大正2)年から1927(昭和2)年に発売されています。1927年発売の角形...
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