●アメリカとサウジアラビアの「古き良き時代」はもう戻らない
皆さん、こんにちは。
イスラムとアメリカの関係を、国際関係、あるいは外交、グローバル経済といった文脈で語るときに重要なのは、やはりサウジアラビアとアメリカの関係かと思います。ところがこのアメリカとサウジアラビアの関係は、今、多くの点においてぎくしゃくしており、大変悪い関係にあることはよく知られているところです。
昔サウジアラビアの諜報機関、総合情報庁の長官であったトゥルキー・アル・ファイサル氏は亡くなったファイサル国王の王子ですが、そのトゥルキー王子は両国の関係についてこういうことを述べました。“The good days have gone and never tо return.”、すなわち「古き良き時代は去りて再び帰らず」という意味です。両者の間の良き時代はすでに去り、そして元に戻ることはないだろうということを、4月20日のCNNとのインタビューで、この元諜報機関の長官にしてサウジアラビア王室の最実力者の一人が語ったのです。つまり、今のサウジアラビアとアメリカはもはや、かつてのような関係にはない。そして、それが刷新され新しくなる“anew”という状態に戻ることは期待できない。自分たちもここで変わった。しかし、アメリカも変わった、という非常に見事な表現を使っています。確かにアメリカは変わった、しかし、自分たちも変わった、ということです。
これは、こういう変化がある、そして、その変化に直面して自分たちも変わらなければならないし、だからアメリカも変わったのだろうということですが、この背後にあるのは現在のサルマン国王(サルマン・ビン・アブドルアジーズ・アール・サウード国王)とバラク・オバマ大統領の非常に冷たい関係、それからアブドッラー前国王とオバマ大統領の神話化されたような敵対、あるいは対立する関係というものでした。
●歴史的なオバマ・サルマン会談-最大の関心事
4月にオバマ大統領はリヤド(サウジアラビアの首都)を訪れ、サルマン国王と会見しました。この会談はヒストリカル(歴史的なもの、アラビア語では「ターリヒー」)であったといわれています。もちろん、その詳細について今、私たちは全てを知ることはできません。しかし、サウジアラビア・リヤドの新聞『アルヤウム』などを通していろいろと伝わっているところでは、その兄であるアブドッラー前国王がオバマ大統領と会った時には、テーブルをたたいて激昂しオバマ大統領に詰め寄ったことが知られています。そういったことが今回、起きたのか起きなかったのかというのが、今の私たちの関心事です。
●デッドライン発言を反故にしたオバマにサウジが激昂
アブドッラー前国王は、「もはや、君のいうデッドラインというものを私は当てにしない」と言いました。これは何を意味したかというと、オバマ大統領は以前に「アサド政権が一般のシリア国民に対して化学兵器を使ったら、それはデッドラインを越えたことになる。その場合は、アメリカはシリアに軍事干渉し、アサド政権を許容しない」と語ったのでした。ですが、アサド側が化学兵器を使っても、オバマ大統領は干渉しませんでした。その時、アサド政権をなんとかして倒してシリアの民主化、反アサド運動を支えようとしていたアブドッラー前国王、すなわちサウジアラビアをはじめとする湾岸諸国は、そのことに怒りを爆発させたわけです。
それどころかアメリカは、アサド政権の意を受け、それを庇護したロシアとともに、アサド政権が化学兵器(ケミカル・ウェポン)を海外に持ち出すからそれによってアサド政権がした行為を清算する、つまりチャラにするという方向に持っていったわけです。やった行為は現実としてあり、化学兵器をシリアの国民に使ったのに、その行為については忘れて、使った化学兵器を外に引き渡すからもはやなかったことにしてくれ、というのは理屈ではなかなか通りません。
似たようなことは、最近日本の東京を中心とした政治の構図にも見られ、リーダーたるべき者がその種のことに通ずるような理屈を語っています。「あったことはもう忘れてくれ。これから自分は生まれ変わってちゃんとやるから、そういうことは繰り返しません」というようなことを発言し、慰留を求める日本のリーダーもいました。言ってしまうと、オバマ、プーチン、アサド各大統領がそこである意味で手を打ったということなのです。「やったことは忘れろ。これから、われわれは気を付けるようにするから」と。
しかし、そういった約束は守られたためしがありません。政治はそういうものです。したがって、こうしたことにアブドッラー前国王は激昂したわけです。
●両国の戦略的同盟の清算を示唆する状況的データ
今回、リヤドで...