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9.11問題でアメリカを挑発したサウジアラビアの失策

アメリカとサウジ同盟関係の終焉(3)二つの深刻な問題

山内昌之
東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授
概要・テキスト
9.11(世界貿易センタービルの崩壊直後)
歴史学者・山内昌之氏がアメリカとサウジアラビアの関係変化の背景とプロセスについて解説するシリーズ講話。現在、両国間にはとりわけ深刻な問題が二つある。サウジアラビアによる米国債の売却脅迫問題と、9.11(アメリカ同時多発テロ事件)の被害者によるサウジアラビアに対する賠償請求問題だ。結果的に、アメリカはサウジアラビアの保有する米国債総額の公開に踏み切ったのだが、それはなぜか。見えてくるのは、両国の戦略的同盟関係の大きな変質である。(全7話中第3話)
時間:11:30
収録日:2016/07/26
追加日:2016/09/03
カテゴリー:
≪全文≫

●アメリカとサウジ間の二つの深刻な問題


 皆さん、こんにちは。前回は、アメリカ大使を務め、かつ総合情報庁長官を務めたトゥルキー・イブン・ファイサル王子が「アメリカは友人を裏切り、軸足をイランに移した」と厳しく批判したことについて、触れました。

 今、アメリカとサウジアラビア両国間には多くの問題がありますが、中でもサウジアラビアのアメリカ国債のいわゆる売却脅迫問題、それから9.11(アメリカ同時多発テロ事件)の被害者に対するサウジアラビアの国家としての賠償問題、この二つが大変深刻な問題となっています。バラク・オバマ大統領は、9.11の被害者家族がサウジアラビア政府に賠償を求める法案がアメリカ議会に上程された際、さすがにその法案の議会における討論と採決には消極的でした。被害者家族たちは、9.11の首謀者がサウジアラビア人のウサマ・ビン・ラディンを中心とする人たちであり、サウジアラビア人が一番多数の実行犯を出した以上、サウジアラビア政府がその事実に基づき、謝罪と賠償に応じるべきだと主張しました。


●サウジの対米投資総額2000億ドル減少の謎


 これに対して、サウジアラビアのアーデル・ジュバイル外相は、サウジアラビアに9.11の賠償を求める法案を、もしアメリカ議会が承認するならば、アメリカにあるサウジアラビアの資産と投資を引き上げると、アメリカを恫喝しました。アメリカの金融機関や金融アナリストたちは、早速サウジアラビアのアメリカに対する投資総額について、現状を調べました。そして、米国経済の被るリスクについて算定を試みたのです。

 その数字については意見が分かれています。今年の3月、『ニューヨーク・タイムズ』は、サウジアラビアの投資総額は全体として7500億ドルと算定しました。一方、アメリカ財務省は40年間で初めて、サウジアラビアの保有する米国債総額について公開に踏み切りました。その米国債総額は1168億ドル、日本円でおよそ12兆7400億円と見積もりました。他方、ブルームバーグが開示したアメリカ政府筋の情報によれば、サウジアラビアの保有国債は、5870億ドルに下がったと伝えられています。つまり、『ニューヨーク・タイムズ』が伝えた7500億ドルから、わずか2年で2000億ドルも減少したということに、数字上はなるわけです。

 この謎は、サウジアラビアが最...
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