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サウジアラビア元将軍のイスラエル訪問は関係変化の予兆か

アメリカとサウジ同盟関係の終焉(7)敵の敵は敵かつ味方

山内昌之
東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授
概要・テキスト
イスラエル(エルサレム)
中東では「敵の敵は味方」と言われてきたが、現在の中東情勢はさらに複雑さを増し、「敵の敵」は「敵」にもなれば、「敵であり、かつ味方である」ことも珍しくない。激変する中東の最新情勢について、歴史学者・山内昌之氏に、サウジアラビアとイスラエルの関係を軸にして解説いただく。(全7話中第7話)
時間:11:47
収録日:2016/08/02
追加日:2016/09/19
カテゴリー:
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≪全文≫

●アメリカとイスラエルとサウジの関係はイスラエルとサウジの関係といえる


 皆さん、こんにちは。中東では「敵の敵は味方」とよくいわれると、かつてお話しした記憶があります。しかし「敵の敵は敵である」こともあれば、「敵の敵は敵にして味方である」ということも普通に生じているのが、今の中東です。本当に中東情勢は複雑にして、奇々怪々ともいえると思います。

 特にアメリカとイスラエルの関係が片方にあり、他方エジプトとイスラエル、エジプトとサウジアラビアあるいはイラン、これらがそれぞれ対立しているために「三すくみ」の印象を与えますが、そういうことではありません。

 アメリカとイスラエルとサウジアラビアの関係は、とりもなおさずイスラエルとサウジアラビアの関係ということになります。この関係はなかなかに複雑ですが、今日は別の角度から考えてみたいと思います。


●ヒズボラ司令官を暗殺した「タクフィール派」


 2016年5月13日、ムスタファー・バドル・アッディーンという人物が暗殺される事件が起こりました。これは、レバノンを支配するシーア派の軍事政治組織ヒズボラの軍事部門長にして在シリア軍団長であり、シリアに派遣されたレバノン軍団の指揮官であった人物です。

 誰が彼を暗殺したのかというと、一番可能性が高いのは、サウジアラビアの援助するスンナ派軍事組織の「タクフィールダン(タクフィール派)」と呼ばれる組織だといわれています。

 「タクフィール」とは、敵を「カーフィル」あるいは「クッファール」(複数形。いずれも不信心者)であると宣言して殺害する行為です。信仰を持っていない者を殺害するのは合法的な行為だと正当化することを「タクフィール」というのです。そういう名を持つ組織が、ムスタファー・バドル・アッディーン氏を暗殺したといわれているのです。

 ついでながら、今シリアの北西部で戦争の大きな舞台になっているアレッポの南で、「タクフィール派がシーア派系住民その他を大量虐殺した」として、イランの指導者の一人が厳しく非難していたことが思い出されます。イランが言いたいのは、非常に残虐なシリアのテロ組織を後援しているのはサウジアラビアだということです。

 したがって、タクフィール派による暗殺に激昂したのは、ヒズボラだけでなく、イランでもありました。シリアにおけるイラン革命防衛隊の中で...
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