●外交戦略と同盟関係の立て直しがサウジの必須課題
アメリカでは今、大統領選挙がたけなわになっており、共和党はドナルド・トランプ氏、民主党はヒラリー・クリントン氏という顔ぶれで大統領選挙が行われるかと思われます。ただ、アメリカの大統領がトランプ氏になろうと、クリントン氏になろうと、サウジアラビアにとって迫られるのは、中東における外交戦略と同盟関係の立て直しに他なりません。
私は、こういう問題関心から、今年8月に中公文庫から『新版イスラームとアメリカ』という書物を出すことになりました。今、お話ししているテーマについて、より具体的にお知りになりたい方は、この書物をお読みいただくことをお願いしておきたいと思います。
●紅海に関する相互利益でイスラエルとサウジが合意か
さて、サウジアラビアとアメリカとの関係について見ていく中で、注目されるのはイスラエルとサウジアラビアの関係です。最近、イスラエルとサウジアラビアが、2014年に軍事訓練、共同演習、あるいは、中東の紛争地域における処理などについて協力するということで、密かに合意したという情報が流れたことがあります。
この情報の漏洩(ろうえい)は、イスラエルの左派自由主義政党にメレツという政党がありますが、そのメレツに近い軍の高官から流れたとされています。もし、この秘密文書のリークを信じるとすれば、サウジアラビアとイスラエルは、両国に共通する重要な水路の紅海を中心に、取り決めを結んだということです。
アフリカとアラビア半島の向かい合った一番狭い部分、その海峡をバーブ・アル・マンディブといいます。「涙の門」という意味ですが、このバーブ・アル・マンディブ、さらにアデン湾、ひいてはスエズ運河、そして紅海からアラビア海、インド洋に抜けていく地域につながる紅海沿岸諸国に関するイスラエルとサウジアラビアの相互の利益を調整し、サウジアラビアをはじめ湾岸産油国とイスラエル両国の軍隊が、紅海からティラン海峡を経てアカバ島に入っていくこのティラン島に、共同運用スタッフを置くことに合意したというわけです。
時あたかも今年(2016年)の4月にエジプトは、このアカバ湾と紅海の結節点にある今話題にしたティラン島、それからサナフィル島という二つの島に対するサウジアラビアの領有権を認めることに合意しました。ティラン島はイス...