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なぜ人はハチ公の物語に感動するのか?

東大ハチ公物語―人と犬の関係(2)退廃モデルで物語る

一ノ瀬正樹
東京大学名誉教授/武蔵野大学人間科学部人間科学科教授
概要・テキスト
東京大学大学院人文社会系研究科教授・一ノ瀬正樹氏がハチ公の逸話を例に、人と犬の関係を哲学的に考察する。人と犬の関係の物語り方には3つのモデルがあると一ノ瀬氏は言う。今回はそのうちの1つ、「退廃モデル」を取り上げる。退廃モデルを通して人と犬の関係を考えると、人間側のある問題点が浮き彫りになってくる。(全5話中第2話)
時間:14:05
収録日:2017/04/04
追加日:2017/06/14
タグ:
≪全文≫

●「なぜハチ公の物語に感動するのか」を哲学的に考える


 私が今日お話しするのは、なぜ人々は、犬が人を慕い続けるというこの種の物語に無条件で感動してしまうのか、ということです。犬という動物の全部にあてはまることではないのですが、実はハチだけではなく、一部にはこういう行動をとる犬がいるといういくつかの例で報告されているのです。

 なぜ、このように感動してしまうのか。これはもちろん、いろいろなアプローチの仕方があると思います。生物学的、犬学的にアプローチするということもあると思うのですが、私は今日は、少し哲学的に考えてみようかと思います。全部の犬についてではありません。私の犬などはそういうことは全然できないような犬だったので、ハチは素晴らしいなと思ってしまうのですが。でも、そういうできない犬もかわいいと思うところが、犬の魅力なのかもしれません。


●人と犬の関係の根底には「本質的な何か」がある


 1つには、ハチの持つ忠誠心のようなものをその理由としているということもありますし、あるいは犬という動物の無垢(むく)な在り方ですね。それから、死者を思い続ける切なさに人々は打たれてしまうのだろうとか、あるいは上野博士との深い絆に打たれてしまうなど、いろいろなことが感動する理由として考えられます。

 このパネルにもあるようにスコットランドにボビーという、ハチと同様にご主人が亡くなった後、ご主人の墓の周りに常にいた、10年ぐらいいたという犬がいて、やはり銅像になっています。ボビーの話は、確か19世紀のことなのでハチよりもずっと前の話なのですが、これと似たような例は実は世界のいろいろなところにあるのです。一部にはこういう行動をとる犬がいるということです。

 私は、ここには人と犬、犬と人との関係の根底にある「本質的な何か」が顕在化しているからではないか、だから人々は大いに感動するのではないかと思っているのです。それを今日はお話ししようと思います。


●基本的前提-犬自身に考え方を聞くことはできない


 こういうことを犬について語るとき、基本的な前提をまず押さえておかなければいけません。これは当たり前のことですが、犬自身に考え方を聞くわけにはいかないのです。

 犬の飼育や気持ちについての見解については、いろいろと巷に出回っていますが、それは蓋然(がいぜん)的なものであっ...
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