●トランプ大統領の手のうちを読み切っているプーチン大統領
皆さん、こんにちは。
ウラジーミル・プーチン大統領はドナルド・トランプ大統領と比べた場合に、なかなか単純な人物ではありません。トランプ大統領はいろいろなことを言っても、その行動や思惑からして何をするか分からないという意外性はありますが、さほど戦略的に練られた方策で動いているわけではありません。何より、プーチン大統領はトランプ大統領の手の内を読み切っているということがあります。ロシアは相当程度にトランプ大統領のさまざまな歴史、あるいは秘密、もろもろの要素を、おそらく押えているのだろうと思いますが、いずれにしてもプーチン大統領はトランプ氏の手のうちはお見通しであるという感があります。
例えば、2018年4月にアメリカによるシリアの空爆がありましたが、その時にたまたまかどうか、シリアの首都ダマスカスを訪れていた人物がいます。それはロシアの政権与党である「統一ロシア」のアンドレイ・トレチャク書記長で、彼がシリアの首都を訪れて滞在していたという事実があります。
実際、アメリカの軍事作戦はシリア問題を解決できず、現在もそのように情勢は進んでいるのですが、この書記長訪問は、トランプ大統領が行うという、その程度のスポットによる、しかも思いつきのような域を出ない作戦ではシリア問題は解決できず、アサド政権の化学兵器の利用も阻止することはできないということを、見越した動きなのです。こうした点について協議とアサド政権に対するテコ入れとして、トレチャク書記長はダマスカスを訪れたと、私は見ています。おおよそ、トレチャク氏はバッシャール・アル・アサド大統領を含めたバアス党関係者との調整、そしてロシアの分析などについて伝えたのだろうと思われます。
●シリアやイラクはもはや統一国家とはいえない状態
中東には誠に悲しいことですが、戦争こそ日常であり平和は非日常であるという現実がありますし、またそのような言葉を使う人もいます。今後、中東の複合危機がますます深まることが予想されますが、アメリカの行動によって新たな構図ができ始めています。
まずまとめておくと、シリアやイラクはもはや統一国家とは言い難いということです。私たちが使う地図にはシリアやイラクは枠組みとしてありますが、この枠組み、もともと第一次世界大戦後の戦争処理としてつくられた地図上の線引きは、もはや意味を持たないのです。むしろその実体は、内部にあるシーア派、スンナ派そしてクルド人という各勢力に分かれていて、さらにシリアにおいては、そこにトルコ軍の占領兵力が領域的に支配している。また、ロシア軍やイランの革命防衛隊などが、アサド政権の領域と称するところに大量に駐屯している。こういう状態の中で、中東のシリアとイラク、特にシリアは分裂割拠状態にある。「統一にして不可分のシリア」と言うことはできないという現実にあるのです。したがって、中東の構図に今後、歴史に残る大変動が起きようとしていると考えても、さほど過言とはいえないでしょう。
●6ヶ国の競合、協調、対立という中東の新たな構図
ところがその中で、アラブ圏内のイラクやシリア、特に今日のシリアの問題において当事者であるはずのアラブ諸国が、エジプトに象徴されるようにまったく影響力を持ち合わせていません。これが最大の悲劇であると同時に最大の喜劇である、つまりアイロニーであるということなのです。
中東世界におけるキー国家、すなわち中東情勢を決定する重要な鍵となる国家としては、アメリカやロシアといった外部勢力のみならず、かつてはトルコが挙げられました。そして、今もトルコは一定程度、その役割を果たしていますが、かつてのトルコとはオスマン帝国のことです。シリアやサウジアラビアを支配していたオスマン帝国は、紛う方なく中東最大の国家でありその決定要因でしたが、今日のトルコはそういったオスマン帝国以来の伝統を受けて、新たにシリアを支配する、占領するという状況の下でキーとしての役割を果たそうとしているということです。
さらに、このオスマン帝国、つまりトルコとチグリス・ユーフラテス川を挟んで対峙していた伝統的なシーア派の大国であるサファヴィ朝、ガージャール朝、パフラヴィー朝という王朝国家としてその伝統を引き継いだイラン・イスラム共和国は、プーチン大統領と同盟を組みながら、かつロシアと多少さや当てもしながら、シリア、ひいては中東において影響力を強めて、キー国家としての役割を強めているのです。
つまり、外の勢力が介在するという意味において、シリア情勢はイランとトルコという中東域内の大国と、アメリカとロシアという域外の大国、この4つがそれぞれ対立し合う、あるいは共存、協力し合うという複雑な...