テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
テンミニッツTVは、有識者の生の声を10分間で伝える新しい教養動画メディアです。
すでにご登録済みの方は
このエントリーをはてなブックマークに追加

カエルとヒトは同じ共通原理を持っている

生命科学の現状と課題~生物研究と再生医療(2)カエルとヒトの共通原理

浅島誠
東京大学名誉教授/帝京大学先端総合研究機構副機構長
情報・テキスト
「カエルとヒトは共通の原理で動いている」と浅島誠氏は語る。浅島氏は生まれ育った佐渡の自然に触れる中で、カエルの卵の発生に興味を持った。カエルに起こることは人間にも起こり得るということで、カエルの研究が大きな意味を持つようになったという。(全6話中第2話)
時間:07:08
収録日:2018/07/30
追加日:2019/01/06
≪全文≫

●佐渡の自然に触れたことが研究の原点となった


 次に、再生科学というものを、私の研究を通して考えたいと思います。私がこのテーマに興味を持ったのは、最初に再生科学について知りたいと思ったからではありません。

 私は、佐渡という田舎で生まれ育ちました。そこは自然が非常に豊かなところで、生き物など自然がごく身近にありました。春になれば、カエルが池に来て卵を生み、その卵がうまく孵化していくわけです。それを見た時、どうしてこんなにうまく卵が親になっていくのか、あるいはオタマジャクシになっていくのか、非常に不思議に思ったのです。

 あるいは、佐渡にはトキという鳥がいます。トキは、日本からだんだん減っていき、最後には石川県能登半島と佐渡だけになりました。そして、トキが佐渡からいなくなってしまったら、こんなに美しい鳥が世界からいなくなってしまうのかと感じました。そして、トキを救いたいという思いがありました。当時は、今のように中国にトキがいることは分かりませんでしたので、その時、トキが何羽いれば種(species)として保存することができるのか、あるいは種として残るためにはどのくらいの数が必要になるのか、といったことを考えていたのです。

 このように、私は佐渡で過ごしたわけですが、興味があったのは卵がどのように親になるのかということです。卵から親への形作りという点で見た場合、マウスやヒトの研究に興味を持つ人も多いと思いますが、私はカエルの卵から親への形作りについて興味を持ったのです。


●カエルとヒトは同じ共通原理を持っている


 よく調べてみると、ヒトやマウスも、イモリやカエルも、基本的には同じ共通原理を持っています。もともとは1個の卵から、オタマジャクシになったり、胎児になったりします。胎児とオタマジャクシを比べると、形は違うかもしれませんが、横に引っ張ってみるとほとんど同じ形になってしまいます。さらには、成体になると、カエルにあってヒトにないものはほとんどありません。逆に、ヒトにあってカエルにないものは、例えば乳腺などです。ですから、人間を「哺乳動物(mammal)」と呼ぶのは、まさに乳腺などを持っているからです。

 この観点からカエルを使った研究を世界的に見たとき、それは歴史的に非常に重要なものだということが分かりました。それは、カエルを使って見つかった現象が、実はその後、ヒトやマウスでも見つかってくるからです。

 1つの例として、「人為単為発生」があります。通常は卵と精子が受精して個体が発生しますが、精子なくして卵だけで個体が発生することを、「人為単為発生」と呼びます。例えば、未受精卵を針で突きます。そこには精子はありませんが、そうしたときでも、未受精卵から卵割を起こして、そしてオタマジャクシになり、やがてその一部はカエルになります。つまり、大人になったカエルは、卵だけから発生してきたものです。そういうものを「人為単為発生」といいます。この現象は、後にマウスでも証明されます。


●クローンカエルとクローン羊の誕生でクローン人間も可能に


 また、クローンカエルというものがあります。これは、1953年、トーマス・キングとロバート・ブリッグスたちが最初に行ったことですが、カエルの体細胞から新たにカエルをつくりました。その後、クローンに関して多くの研究者たちはなかなかうまくいかなかったのですが、クローン羊のドリーができた時、大騒ぎになりました。これは1996年にキース・キャンベルとイアン・ウィルマットたちが行ったのですが、クローン羊ができたとなると、クローン人間ができるということもすぐに推測されます。そこで、クローン人間を作ることを世界中でいち早く禁止したわけです。

 このように、カエルでいろいろな原理原則が見つかると、その原理は実際にはヒトやマウスでも当てはまるということが後に証明されます。つまり、カエルでできることは、ヒトやマウスでも全部できるということです。よって、脊椎動物は共通の原理原則で動いていることが分かります。

 (先述しましたが、)キャンベルとウィルマットたちによってクローン羊のドリーが誕生した時には、クローン人間がなぜできるのかということが分かりました。それは、細胞には周期があるのですが、その周期の中のG1というブロックのところを止めてしまい、その核を移植すればクローン生物ができる、ということです。

 このように、生物は同じ原理原則で動いているため、いろいろな生物で起こる事柄が実は私たちヒトでも起こるということを、ここで深く認識しておくべきです。
テキスト全文を読む
(1カ月無料で登録)
会員登録すると資料をご覧いただくことができます。