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リアルエコノミーにICT技術をどう活用するか

デジタルトランスフォーメーション(1)製造業の場合

伊藤元重
東京大学名誉教授
情報・テキスト
技術革新の加速度的スピードを少しでも取りこめれば、社会も企業も大きな変化を起こせる。現に、リアルエコノミーはデジタルトランスフォーメーションによって変化し始めている。今回は、AIやICTの活用により、需要起点のソリューションを発想することで新たなビジネスモデルを獲得した製造業の事例を解説する。(全2話中第1話)
≪全文≫

●リアルエコノミーとAI、ICT技術を考える


 今、日本中で、そして世界中で、AIとかIoT、あるいはビッグデータといった話がいろいろと出ていますが、これまでITをそれほど活用してこなかった経済、いわゆるリアルエコノミーの中にICTの技術が入ってきたときに、どのような視点で見たらいいだろうかということについて、経済学者の目から見て、感じることをいくつかお話ししたいと思います。

 学生にはよく勧めるのですが、世界で最も有名なジャーナリストの一人であるトーマス・フリードマン氏の著書で、アメリカでベストセラーになった『Thank You for Being Late』という本があります。日本語でも翻訳されていて、『遅刻してくれて、ありがとう』というタイトルです。世界で最も注目されているジャーナリストが、いろいろな重要人物、それこそ普通ではなかなか会えないようなキーパーソンとインタビューを重ねてきて、技術革新が世の中にどのような影響を及ぼすのか、ということを書いています。これはぜひ、お読みになることをお勧めしたい本の一つです。


●技術革新は加速度的に進化する


 その中で、もう数年前の話ですが、グーグルのトップエンジニア、研究開発部門のトップの人だと思うのですが、その人が社内に向けて行った講演のことが出てくるのです。そこで彼はグラフを一つ描いたということです。一つは「指数関数」といって、急速に加速度的に増えていくような関数です。これは何かというと、技術革新のスピードは加速度的に増えていきますよ、ということを言っているわけです。

 例えば、有名なところでは「ムーアの法則」があります。確か、2年間に2倍ずつ演算子のスピードが増えていくということで、まさに加速度的に増えていく状態です。演算スピードだけではなく、例えば通信スピードも今度5Gになるなど、どんどん速くなってきています。それからフラッシュメモリとかハードディスクに情報を蓄えるためのコストも、指数関数的に非常に安くなっています。技術革新にはそういう面があります。ある時期に行われた技術の新しいレベルが次の技術のステッピングボードになっていきますから、次から次へ累積的に技術が蓄積されて、非常に増えていくのです。


●技術革新を取りこめば社会や企業も大きく変化する


 こういう指数的なものとは別にもう一つ、グーグルのエンジニアの彼は絵を描いています。それは直線です。直線的に、つまり比例的にしか拡大していかないということです。これは何かというと、例えば社会の仕組みや人々の頭の中にある考え方、あるいはビジネスモデルや企業の行動で、こういうものは人間が関わる部分でなかなか急速には変わっていけません。ですから、技術革新の非常に速いスピードと、企業や社会、人間のスピードのギャップのようなものが、非常に大きな問題だということです。

 しかし、彼はさらに踏み込んで言うのです。よく考えてみたら、技術革新のスピードが速いので、これを少しでも取りこむことができれば、それでも企業や個人は直線の動きしかできないかもしれないけれども、直線の傾きを少し大きくすることができれば、そこに大きな社会や企業の変化が起こるかもしれない、というのです。


●リアルエコノミーとデジタルトランスフォーメーション


 これが今、流行語のように使われている「デジタルトランスフォーメーション」ということのエッセンスだろうと思います。つまり、デジタル技術をてこに使って、企業や社会やビジネスをどう変えていくかということです。

 私は経済学者ですから、モノの生産とか流通とかサービス、金融といったリアルエコノミーをずっと見てきました。では、そのリアルエコノミーがデジタルトランスフォーメーションによって、どう変わっていくのかということを、考えてみたいと思います。


●製造業とDX-キーワードは需要起点のソリューション


 実際にそう考えてみると、多分いろいろなアプローチがあると思うのですが、今特に関心を持っている例を、今日はお話ししたいと思います。例えば、製造業にとってデジタルトランスフォーメーションは、どのような可能性があるだろうかと考えてみます。

 これは前にもお話ししたかもしれませんが、実はマイクロソフトが展開している「アジュール」というクラウドのサービスがあります。これに関連して日経から依頼されて、アジュールのユーザーの企業を4社ほど訪問して、インタビュー記事をネット上に掲載したことがあります。訪問した企業はブリジストンとコマツ、クボタ、セブン銀行の4社でした。

 これは私にとっても非常に貴重な話だったのですが、このブリジストン、コマツ、クボタ、ここに共通しているのは製造業ということです。これらの企業がデジタルトランスフォーメーションをどのように感じている...
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