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かつての米ソ関係と現在の米中関係の違い

平成時代の国際情勢を振り返る~冷戦終結から何を学ぶか~

山内昌之
東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授
概要・テキスト
平成元年は冷戦終結の年だが、その後、ソ連の代わりに台頭してきた中国は、かつての米ソのような敵対しながら分かり合える関係には至っていない。平成から新たな元号に変わる2019年にあたり、平成時代の国際情勢を振り返り、未来に向けた国際秩序の在り方についてメッセージを送る。
≪全文≫

●冷戦終結とともに始まった平成


 皆さん、こんにちは。平成30年がまもなく過ぎようとしております。平成元年というものを考えてみると、これは西暦では1989年、つまり冷戦終結の年にも当たります。冷戦終結から30年を機にして、昭和天皇の後を継いだ今上天皇(今の天皇陛下)がご退位されるということにもなり、日本人としては誠に感慨深いものがあろうかと思います。

 冷戦は、米ソの両超大国による核戦争の危機を常にはらんでいました。第一次世界大戦第二次世界大戦のような熱い戦争ではなく、また、実際に大規模な戦争がグローバルで交わされたわけではありません。しかし、それはまぎれもなく中東やベトナムにおける局地的な戦い、実際の熱い戦争を伴って進行した世界大戦であったのです。いわば形を変えた世界大戦といっても良いでしょう。


●米ソ対立における不均衡の中の均衡


 しかし、米ソはお互いが最大の敵ではありましたが、かつてイスラエルとシリアの関係について私がなぞらえた表現を再び使うとすれば、「最大の敵でありながら、実は分かり合える最愛の敵でもあった」、このように言うことも可能な二国間関係でした。

 二つの国の間には、時に一触即発の状況に直面しながら、ぎりぎりのところではその状況をなんとか抑止し合う、阻止し合うというような論理が働いていたということも、よく知られていることです。キューバ危機はその典型的なものですが、基本的にはソ連の譲歩によって回避しました。二つの国はその後も大きな深刻な危機、脅威というものがありながら、それを世界大戦に発展させる道を取り除いてきたといえます。

 つまり、これはイデオロギーが違っても、超大国として似たような国家理性を持ち、お互いに引き出し合う利益について自覚的であったということを、意味します。米ソ対立にはいわば、「不均衡の中の均衡」があったといえるのです。

 とりわけ日本は、その中でもアメリカの核の傘や日米安保条約に保護され、経済成長に邁進できる客観的な条件を持つことができました。ある意味では、冷戦という名において進行していた世界大戦のわなを巧みに回避しつつ、日本は経済成長に多くの国家予算を投入し、そして、陣営を損なうことなく冷戦から利益を得てきた、いわば「冷戦の受益者」であったともいえます。


●ソ連解体で失われたもの


 ところが、冷戦終結後のソ連...
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