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本村凌二が語る「競馬」の楽しみ方とおすすめの本

私のおすすめ本~馬と競馬をめぐる意外な側面~

本村凌二
東京大学名誉教授/文学博士
情報・テキスト
『馬の世界史』
(本村凌二著、中央公論新社)
ローマ史の研究者として有名な本村凌二氏には、『馬の世界史』『競馬の世界史』という著書がある。馬と競馬、その歴史と人をめぐる意外な側面を、ご案内いただこう。
時間:12:53
収録日:2018/08/29
追加日:2019/02/12
タグ:
≪全文≫

●半世紀続けている「遊び」が生む「ときめき」


 「遊び」となると、自分のやっている遊びでは競馬が一番好きです。40数年続けていて、あと2~3年もすると50年になる。この半世紀、週末になると競馬一筋に遊んできたことになります。ヨーロッパに行くとアスコットやロンシャンのようにいろいろな競馬場がありますので、やはり週末はそこで遊びます。

 最近の私は、中学や高校時代の同級生を競馬に連れていく機会が多くなりました。定年近くなった皆を競馬場に連れていくと、競馬が老後の趣味として実にいいことに気付く人が多い。一応私の方でちょっといい席で見られるようにお願いもしているので、いい場所で見たせいもあるのでしょうけれどね。

 競馬というと、何万円、あるいは何十万円も使わなければいけないのかと思われがちですが、100円からでもできるのです。100円のお金で、2分かそこらのレースが、ただ見るだけでなく、別の楽しみが得られるようになる。まず、何に賭けるかを決めるのに頭を使います。それに馬券が絡むと、ただ馬が走ってくるのを見るのではなく、自分の買った馬が3着以内に入るかどうかということで、ある種のときめきを持って見ることができます。


●『馬の世界史』で語る、馬が果たした大きな役割


 これは競輪や競艇でもそうなのでしょうが、私はそちらにはあまり手を出しません。競馬といえば馬の血統があったりもするし、300年の伝統を持っています。そして、実は馬そのものが人間の歴史の中で非常に大きな役割を果たしてもきました。

 私は『馬の世界史』(中央公論新社)という著書の中で、「馬がいなかったら、21世紀はまだ古代だった」と言いました。どういうことかというと、人間は馬を乗り回すことにより輸送と速い移動の手段を手に入れた。それによって、人間はスピードという概念を身に付けるようになりましたし、今でも「馬力」という形でエネルギーの単位にも使われています。

 人間の歴史の中で非常に大きな関わりを持ってきた馬があまり重視されなくなったのは、せいぜい19世紀末か20世紀になってからのことです。それ以前は、いい馬を獲得することが輸送の手段としてはもちろん、圧倒的な軍事力の基本を成していました。そういうことがどんどん忘れられ、今は車や飛行機での移動になりましたが、実は100年~150年前まで圧倒的に馬に頼っていたのだということがあります。

 輸送・移動手段として人類が馬離れすると同時に、競馬がはやり出します。馬には、やはり何か人間に熱意を傾けさせるところがあるのではないでしょうか。軍事的な戦力や輸送力、あるいは農作業などの形では確かに使われなくなってきたけれども、やはり馬の姿は非常に洗練されています。サラブレッドなど非常にきれいで、ある人に言わせれば、「人間が生んだ最高の芸術品だ」というほどです。もとはアラブの馬から改良されてきましたが、その中で速度を競うサラブレッド競争が続いてきました。


●競馬の「ときめき」は直線の攻防にあり


 その競争に100円賭けることで、特に最後の直線での攻防にときめきます。競馬の面白さは、直線になって数百メートルの間に激しく順位が入れ替わるところでしょう。

 聞けば、競艇などの場合はスタートでほとんど決まるので、最初だけはドキドキしても、後は大体そのままの順を保っていくらしい。ところが競馬の場合は、4コーナーを回った時は最後方だった馬がごぼう抜きで勝ったりすることもあります。逃げる側となった馬券を買っている皆さんも、「捕まるな、捕まるな」という感じで見ます。

 そういった直線のときめきがあります。私と同年輩の女性を数年前に競馬場へ同伴し、帰りにお酒など飲んでいる時に彼女が漏らしていました。自分はもう生活には何の不自由もない。年金暮らしの生活だけれど、家もあって安定している。でも、競馬場に行って、今の自分に欠けているものに気が付いた。それが、「ときめき」だと言うのです。

 そんなときめきが100円や200円で買える。負けが込んで2,000円、3,000円となってくると、嫌になってくるかもしれませんが、遊びというものは、何かしら必ずお金を使うわけです。競馬で多少の損をするのも遊び方の一つになると、やはり競馬好きの山口瞳さんがかつて言っていました。

 例えば2万円持って競馬場へ行く。何レースかするうちに、1万5千円になってしまった。2万円を使ったのですが、勝ったり負けたりするので、残金は1万5千円。このときに「5千円損をした」と考えるか、「遊びに2万円使ったのだから、1万5千円儲かった」と考えるか。そこの考え方が、ギャンブルを続けていけるかどうかの非常に大きな境目になるということでした。


●『競馬の世界史』を書いた理由


 ギャンブルとい...
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