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トランプ政権の通商政策が日本に及ぼす影響

2019米中貿易協議(3)トランプ流保護主義と日本への影響

高島修
シティグループ証券 チーフFXストラテジスト
情報・テキスト
トランプ政権が現在中国に対して行っている矢継ぎ早の関税政策の実効性が低い場合は基本的にドル安に、高い場合はドル高に作用するといえる。しかし、その関税政策は今までの経験則では読めないため、日本にとっても注視していく必要がある。シリーズ最終話では、トランプ流通商政策が日本に及ぼす影響について考える。(全3話中第3話)
≪全文≫

●大きく動いているアメリカの通商政策


 本日は、米中の通商交渉についてお話ししていますが、今回はアメリカの保護主義化の動きが日本に与える影響について、考えてみたいと思います。

 基本的には今、アメリカの通商政策は大きく動いていて、対日政策は少々出遅れている状況です。そもそもトランプ政権が関税措置を矢継ぎ早に打ち出してきたということもありますし、また、メキシコ、カナダとのNAFTAの再交渉をした結果、USMCA(the United States-Mexico-Canada Agreement、米国・メキシコ・カナダ協定)、すなわちアメリカとメキシコ、カナダとのNAFTAに替わる新しい北米通商協定のようなものが成立するはこびになっています。これをアメリカ政府としては議会で成立させなければいけないわけです。


●日米の物品貿易協定TAGと日本の思惑


 さらに、中国との交渉が結構難航しているということもあり、日本に関していうと、比較的さまざまなものが先送りになっていますが、ドナルド・トランプ大統領と安倍晋三首相の間では、2018年に日米財貿易協定、略して「TAG(United States-Japan Trade Agreement on Goods、物品貿易協定)」と呼ばれるものを今後、検討していく方向が打ちだされています。

 日本政府はこれは基本的にFTA(Free Trade Agreement)、自由貿易協定ではないということを訴えているのですが、英語の報道を見ているとほとんど「FTA」といわれています。素直に見れば、これもFTAの一種だと考えるべきなのですが、基本としては財に限った貿易協定を結んでいきましょうという流れになっているわけです。

 このような流れができてきた一つの理由に、アメリカの関税政策の影響回避ということが考えられます。トランプ政権は中国に対してもタカ派の政策を取っているのですが、例えば自動車関税を発動するといった話が出ていて、こうしたアメリカの関税政策が自動車関税をはじめとして日本に波及してくることを回避するために、TAGのような新たな貿易協定を結んでいく必要があるというわけなのです。これはTPPが、トランプ政権において一端却下された格好になっているので、TPPに替わる新しい貿易の枠組みを二ヵ国間協定で結んでいくという流れができているのです。


●アメリカが為替操作禁止条項を求める理由


 この中で、為替マーケットにとっても重要になってくると思われるのが、トランプ政権が為替操作禁止条項を、さまざまな貿易協定に組み入れるのを求めているということです。それが非常に特徴的に現われたのが、先ほどお話ししたUSMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)です。この通商協定の中、具体的には第33章に、今お話ししたような為替操作を回避するという条項が組み入れられています。

 また、韓国との二ヵ国間FTAの見直しもトランプ政権の下で行いました。これは通商協定の中には入っていないのですが、一応アメリカ当局としては、「韓国との間に為替操作を行わないという紳士協定を確認した」、ということがいわれています。

 なぜ、このような為替操作禁止条項が問題になっているのかというと、そもそもの原因はTPPなのです。このTPPを成立させるに当たって、アメリカは通商権限を議会が持っているため、議会が一つ一つの条項に口を挟んでくると通商交渉が非常に難しくなってくるのです。そこで、議会が持っている通商権限を大統領に委譲するということがよく行われます。その際に、TPA(Trade Promotion Authority、貿易促進権限)を議会が大統領に付与するのです。

 2015年にTPP交渉を行っていた時のTPAの中で、為替問題を交渉の中で検討することを求めているのです。ですから、トランプ政権であろうが、他の政権であろうが、日本や韓国、カナダ、メキシコといった他国との通商協定を見直したり、新たに締結したりするときには、やはりこの為替問題が避けられないということになります。

 こういった為替操作を禁止するという条項を組み入れるかもしれないということになるわけですから、マーケットはこの話に対してやはり円高で反応しやすい、というのが基本的な見方となります。


●為替操作禁止条項は今に始まった話ではない


 ただ、この為替操作禁止条項で注意すべきなのは、もともとこのオリジナルは何かというと、まさにTPPだったのです。TPPは2015年にアトランタで妥結したのですが、その直後にアメリカの財務省をはじめとする交渉に参加したTPPマクロ経済政策当局から共同宣言が出されているのです。その中で、為替操作をすることを基本的には手控えるという方向性が打ち出されていました。しかし、これも「実質為替レートがファンダメンタルズから乖離しないように」というようなこと、もしくは「お互いに情報共有をしよう」などということがうたわれ...
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