●イスラムに関する理解度が低い日本
橋爪大三郎です。今日は、イスラム教についてお話ししましょう。
イスラム教はキリスト教に比べて、日本人にはなじみが薄いかもしれません。周りにイスラム教徒があまりいないからです。ですから、日本人はイスラム教になじみがなくても当たり前と思っていますが、でも、これは世界の常識と違うので注意してください。イスラム教徒は全部で15億人ほど、主にミドルイースト(中東)という場所にいますが、中央アジアやアフリカ、インドの両側や東南アジア、インドネシアに至るまで、世界中にいます。
ヨーロッパは、イスラム世界と境を接していますから、ヨーロッパ人はいつもイスラムを意識しています。もう1000年以上意識しています。インドはイスラム世界と混じり合っています。ヒンドゥー教とイスラム教は、実はあまり仲が良くない面があるのですが、いつもイスラムを意識しています。
中国は新疆ウイグルというところを清朝が占領して、中国の一部にしました。そこはウイグル族やカザフ族がいて、人口の大部分がイスラム教徒です。そこから中国中にいろいろな人が入り込んできていて、3,000万人ほどいると思うのですが、中国の都市だったら、必ずイスラムレストランがあったり、イスラムのコミュニティーがあったりします。ですから、中国の人たちはイスラム教をいつも意識しています。
このように考えていくと、ロシアももちろんイスラムと境を接していますので、世界中でイスラムについてあまり興味と関心がなく、イスラム教徒もほとんどいないというのは、日本だけなのです。日本はそういう意味でイスラムの理解度が非常に低いので、基礎的なことをしっかり学ぶ必要があります。
●イスラムを考えていく順番とアッラーの意味
さて、イスラムのことを考えていく順番についてお話しします。アッラーという神がいるのですが、アッラーとは何か。それから、預言者ムハンマドという人がいますが、ムハンマドとは何か。また、ムハンマドの聞いたアッラーの言葉、アッラーの啓示をまとめたコーラン(クルアーン)という本がありますが、コーランとは何か。さらに、イスラムの人々はどのように宗教生活を送り、日常生活を送る人々なのか。こういう順番で理解していくのがいいかと思います。
最初にアッラーについてです。アッラーを神の名前だと誤解しないようにしてください。アッラーは名前ではありません。アラビア語で神(God)という意味です。キリスト教徒の場合、英語圏の人は神をGodと呼びます。「Oh my God !」など、いろいろ言っていますが、そのGodは普通名詞で、名前ではありません。神様は1人しかいないので、名前は必要なく、名前で呼んではいけないので名前はないのです。そこでGodと呼ぶしかない。これが一神教のルールなのですが、同じ考え方で、アラビア語では神をアッラーと呼ぶのです。
●ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の神は全て同じ神
では、このアッラーは世界のつくり主なのかどうかというと、つくり主です。そのように自分で、コーランの最初に述べていますから間違いありません。そこで、皆さんは「あれ?」と思うかもしれません。「キリスト教、ユダヤ教のときにはヤーウェ(ヤハウェ)が世界をつくったとは言ってなかったですか。ヤーウェとアッラーの関係はどうなっていますか」と。答えは、ヤーウェとはアッラーのことなのです。アッラーがヤーウェのことです。一神教では実は1人の神様しかいません。ユダヤ教の神様と、キリスト教の神様と、イスラム教の神様は、同じ神様なのです。
これはコーランにはっきり書いてあります。コーランでは、アッラーが自分のことをこう言っています。「私は世界をつくった。最初につくった人間はアダム(アーダム)である。彼は最初のムスリムである。それから人間はみんなムスリムになっていって、ノアの洪水のノアもムスリムだ」と。
それからユダヤ人の始祖ということになっているアブラハム(イブラヒーム)もムスリムである。アブラハムの子どもに一人っ子ということになっているイサク(イスハーク)がいるが、実は腹違いのお兄さんにイシュマエルがいる。イスマイールともいうが、この人はお父さんの元を離れて砂漠に出ていき、アラビア人の祖先になった。イサクの方はユダヤ人の祖先になった。こうしてイスラム教からユダヤ教が分かれたのだ。これがイスラムの考え方です。
●最大の預言者ムハンマド、一神教の最上格イスラム教
アラビア半島にいたイシュマエルの子孫は、その後、堕落してアッラーのことを忘れ、多神教徒になってしまった。そこでアッラーは困ったなと思って、ムハンマドに「お前が行ってアラブの人たちに一神教を教えなさい。そして、世界に一神教であるイスラムを広めなさい」と、この...