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中国の大国外交の在り方を3つの側面から解き明かす

「中華民族の偉大な復興」と中国外交(3)大国外交

小原雅博
東京大学名誉教授
情報・テキスト
2008年以降の中国は、「韜光養晦」戦略の下での国際協調路線から、蓄えた力に依拠した大国外交へと、その外交方針を転換した。今回は、中国の大国外交の在り方が、「新型大国関係」、「中国の描くアジア新秩序」、「米中大国関係の展望」という3つの側面から解き明かされる。(全4話中第3話)
時間:13:04
収録日:2019/04/04
追加日:2019/06/04
カテゴリー:
≪全文≫

●「新型大国関係」


 今回は、中国の大国外交、特にその「新型大国関係」を中心に議論をしたいと思います。

 アメリカにおいて、米中間の覇権争いがいずれ戦争に至るとの見解は、決して珍しくはありません。しかし、中国からは、相互依存の深まる米中関係はかつての大国関係や冷戦中の米ソ関係とは異なっている、そういった声が聞こえます。すなわち、新しいタイプの大国関係を確立することによって、新興・既存の大国間で戦争が不可避になるという「トゥキディデスの罠」を回避できるという見解です。

 2013年6月、国家主席として初めて訪米した習近平氏は、バラク・オバマ大統領との首脳会談において、「1.対抗しない、衝突しない、2.相互尊重、3.協力とウィン・ウィン」(中国語で「不対抗、不衝突、相互尊重、合作共贏」)という14文字方針の「新型大国関係」を提案しました。楊潔篪国務委員の解説によれば、「ゼロ・サムゲームの考えを捨て、自国の利益を求める時、相手の利益にも配慮し、自国の発展を求めると同時に、共同発展を推進し、絶え間なく共通利益を実現するための仕組みを模索する」ということです(これは、中華人民共和国中央人民政府ウェブサイトに、2013年6月9日に掲載されたもの)。

 2014年11月に北京で開催された米中首脳会談において、習近平国家主席は、「新型大国関係」について、2013年に提起した3原則を6原則に広げて再提案しました。その中には、次のような新たな諸原則があります。

 1つ目は、「中国とアメリカは国情が異なる二つの大国で、互いの主権と領土保全を尊重し、それぞれが選んだ政治制度と発展の道を尊重し、自らの意志とモデルを相手方に押しつけない」というものです。2つ目は、「相手方の核心利益を損なうことをしない」というものです。3つ目は、「アジア太平洋地域において互いに包容し、協力を進める。広大な太平洋は米中両国を受け入れる十分な大きさがある」というものです。

 1つ目と2つ目は、イデオロギーや価値をめぐる闘争を避け、「核心利益」を尊重することを意味します。それは、アメリカによる干渉やいわゆる「和平演変」すなわち平和的体制転換、これらに対する中国の警戒感や防衛本能の裏返しでもあるといえます。逆に、最後の3つ目には、中国大国外交の自信と本音が垣間見えます。特に、「広大な太平洋は米中両国を受け入れる十分な大きさがある」との中国側の認識は、アメリカとの力関係の変化を踏まえたものであり、アメリカの警戒心を高めるものともなりました。

 2007年に訪中したティモシー・キーティング米太平洋軍総司令官は、中国軍幹部と会談した際に、「中国は空母を開発するから、ハワイから東をアメリカ、西を中国で管理しないか」と提案されたとアメリカ議会で明らかにしています。これは、2008年3月12日における、上院軍事委員会公聴会での発言です。彼はこの「太平洋二分割支配」提案を冗談と捉えたようですが、一方で中国軍の戦略的な考え方を示唆しているという見解も議会で述べています。

 西太平洋には、第一列島線があり、そこには同盟国である日本や韓国の、「台湾関係法」で防衛にコミットする台湾や、連携協力する東南アジア諸国も存在しています。アメリカが驚いたのは当然でしょう。2010年以降の中国公船(中国政府の船)の尖閣諸島周辺への侵入の増加や、南シナ海での領有権主張の高まりと人工島化・軍事化、これらに対しては、周辺国のみならず、アメリカでも懸念が高まりました。アメリカは、尖閣諸島が日米安全保障条約第5条の適用範囲であると明言してきました。また、南シナ海では、「航行の自由」作戦を実施し、中国が度を超えた海洋権益を主張する海域に対して、航空機や艦船の派遣を続けています。中国はこれを受けて、重大な違法行為であり、意図的な挑発だとして強く反発しています。


●中国の描くアジア新秩序


 2014年5月、習近平国家主席は、前回述べたCICA首脳会議で演説し、「アジアの事は結局、アジア人民に依拠して解決し、アジアの問題は結局、アジア人民に依拠して処理し、アジアの安全は結局、アジア人民に依拠して守っていかなければならない」と述べました。
この発言は、「アジア新安全観」として提起されたもので、アジア・太平洋における米軍のプレゼンスを牽制する姿勢を示すものとなりました。

 その上で、「CICAをアジア全体の対話の場にしよう」と呼び掛けて、アジアにおける新たな安全保障協力の枠組みの創設に意欲を示しました。一方、その2カ月後に当たる2014年7月のソウル大学での講演において習近平国家主席は、「アジアはアジア人のためのアジア」であると述べた上で、「アジア人の協力に賛同する域外国の参加を歓迎する」とも述べています。これは、「一帯一路」やAIIBといった、経済イニシアチブへの域外国の参...
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