●信頼できる人脈からいろいろ教えていただいた
新浪 実は、その背景には、私の友人のロサンゼルスの日系3世や、いわゆるジャパニーズアメリカンの人たちと大変親しくさせていただいていて、そこをサントリーが少し応援しているということがありました。そこのトップクラスの人たちが、今回の件を非常に心配してくれたのです。私には、日本ではサントリーのスタッフがいて、日本のことは分かるし、教えてくれる人もいます。しかし、アメリカやヨーロッパのお酒の事情は、私たちも分かっていません。とりわけアメリカ市場は重要で、どうやっていけばいいのか、お願いして、アドバイザーを紹介してもらったのです。この人たちから学ぶところが、非常に多くありました。ビーム社のことも研究していて、先ほど申し上げたようなことは、もう全て言い当てて、「あのままやっていたら、ただ短期的に収益を得て、皆、売買するだろうなと見ていた」と言われました。
神藏 全部、利益に変えてしまう。
新浪 いろいろなサジェスチョンをもらい、マットCEOにぶつけてみると、「なぜそんなことも知っているんだ?」と大変驚いていました。「こういうレポートもあって、分析もやって」と言うと、彼は「それを見せてくれ」言うので、「それは私のネットワークで内々にもらっているものだから、駄目だ」と答えました。やはりこちらも理論武装をしていかないと勝てないのです。ですから、私のネットワークで信頼のできる人たちを紹介してもらって、そういう方々が支援してくれたということがあったのです。
神藏 でも、この成功は、やはり新浪さんがこれまでに培われてきた人脈地図があったからですよね。
新浪 そうですね。大変ありがたいことです。
神藏 もしその地図がなくて対処されることになっていたら、ものすごく大変でしたよね。
新浪 そうですね。以前、三菱商事で給食会社(ソデックスコーポレーション、現LEOC)の社長を任された際も、相手はフランスの会社でした。7年間社長をやり、結果的に非常にうまくいきました。もちろん、資金を出したのは三菱商事でしたが、向こうのソデックスの社長を紹介してくれたのも、ハーバードの時の親友でした。
あとはダボス会議など、そういったところのネットワークは、今々は生きないにしても、将来、何かあったときは、友人関係になっているがゆえに、フィーベースではなくて、本当にいろいろ教えてくれて大変助かっています。
●時々で状況は変わり、歴史は繰り返す――リベラルアーツの重要性
神藏 そのような意味でも、新浪さん常々言われているリベラルアーツが大事だということですね。解答のない時代に、How toだけを学んでいてもしょうがないですよね。
新浪 おっしゃる通りです。その場、その場で状況が変わりますから、そのときに胆力が必要であったり、人間は歴史上、何度も同じミステイクをしてきているわけですから、歴史は繰り返すものです。私も一時、マットCEOに対してエモーショナルにはなりましたけども、これでは駄目だなと思いました。だから、1対1で怒るときには、こちらが本気であることをあえて演出しないと駄目だと痛感しました。このままいくと自分の首が取られると思わせなければいけないわけで、そのリスクを取ってでも、この人、そこまで本気でやろうとしているという、そのようなことは過去に学んだことです。また一方で、惻隠の情も出さなければいけません。
神藏 この使い分けは大変ですよね。
新浪 彼と彼の奥さまを呼んで、私の妻を連れてシカゴまで行って食事をした時は、彼の奥さまを一番に立てました。そうすると、彼も大変うれしいのです。本体の社長が来て、こんなに頑張ってくれていると。責めるだけではなくて、あなたを大切にしているという気持ちを伝えました。実際、彼にやってもらわなければ困るので、本当に大切に思っているので、家族付き合いもしました。ですから、すごく時間がかかりました。
神藏 それには人情の機微も絡めなければいけないし、人も集めてこないといけません。そういう意味では、新浪さんが社長になられてから、見えない部分のコントロールのために費やした最初の2~3年は、本当に大変だったのですね。
新浪 ですから、頻繁に現場も見て歩かなければいけませんでした。例えば、先ほどシカゴの本社の移転のケースもそうですけれど、ニューヨークの事務所も郊外にあったので、マンハッタンのど真ん中に移転したり、サンフランシスコも事務所を探したりして、本体と一緒にして、都市の中心に移したのです、それまでは、ディストリビューターとだけ話せばよかったので、都市の中心でなくてもよかったのです。こうして、お客さまの息づかいといったことを理解する会社に少しずつ変わっていったのです。これを今、加速させなければ...