●経済的圧力の掛け合いはG20における合意で小休止を迎えた
米中の交渉はその後どうなったのでしょうか。5月の大転回とエンティティリストの発表の後、米中の間では大阪でG20の会合が開かれた6月の末まで、まさにチキンゲームという応酬がありました。
2019年5月13日、中国は、6月1日に25パーセントに引き上げられる600億ドル規模の関税に対して、報復関税を発表しました。これに対してアメリカ側は、第4弾として残りの3000億ドル規模の中国製品全てに関税をかけると言明しました。
また、同年5月28日には中国の国家発展改革委員会は、レアアースを対抗手段として用いると公言しました。この頃の中国メディアは、すでにアメリカと貿易戦争に入っているので、「奉陪到底」、つまり「最後まで付き合ってやろうじゃないか」という論調であふれたそうです。
その後、6月の末に大阪で行われるG20に、習近平主席が来ないかもしれないという噂が流れました。ドナルド・トランプ大統領は6月10日に、習近平主席が来なければ、中国からの全輸入品に追加課税するとツイッターに書いています。北京は、トランプ大統領の行動から、習近平主席に大阪でぜひ会いたいと望んでいるのではないかと読んだようです。そこで6月18日に両者の間で電話会談が行われ、大阪で会うことになりました。
G20の会議が行われた6月29日11時半から、両者は80分間の首脳会談を行いました。そこで、以下の3つの合意がなされました。まずは、さらなる追加関税は見送ることになりました。次に、期限付きでない貿易交渉の再開に合意しました。最後に、ファーウェイに対する締め付けに関してで、緩和しても良いとトランプ大統領が発言したということです。
その数日後に、ファーウェイの創業者である任正非氏は、トランプ大統領の緩和という発言は、大きな影響はないとコメントしています。おそらく、アメリカの対応をほとんど信じていないのでしょう。
●大統領選再選のためなら何でもするトランプと中国の持久戦
中国側がトランプ政権をどう見ているか、朱建栄氏がその分析をしていますが、トランプ政権は明らかに一枚岩でないと中国側は考えているようです。例えば、米国国務長官のマイク・ポンペイオ氏はゴリゴリの反中保守派です。米国通商代表のロバート・ライトハイザー氏は中国締め付け派。しかし、トランプ大統領は意外にも反中ではなく、ディールを重視します。自分の選挙の役に立つなら何でもするという姿勢のようです。
逆に中国政府はむしろ一貫していて、トランプ大統領が相手のほうが良いと考えているようです。トランプ大統領は経済に徹していて、民主化や人権といった点はほとんど問いません。また、大統領選に再選することが最優先ということで、ディールの余地があると中国は読んでいます。
そのため、中国の対応が少し変化してきています。劉鶴副首相の訪米と、5月の反転の際に、中国首脳部内の認識に変化があったと見られるのです。
習近平主席は貿易戦争の初期段階の2018年3月に、これを「遭遇戦」、つまり予期せぬ戦いと表現しました。最初は、トランプ大統領が攻めてきたので受け身になっていました。しかし、冷静に分析をすると、トランプ大統領という人は大統領選の再選が第一目標だと分かりました。また、貿易戦争を始めた結果、アメリカにも相当な影響が出てきていることも分かってきました。中国からの輸入に大関税をかけると、アメリカは短期的には代替案がありません。したがって、中国の政治局の会議では、長い交渉に持ち込んで、アメリカと我慢比べ、つまり持久戦に持ち込むのが妥当ではないかということで、「持久戦略」の決定がなされたといわれています。
持久戦は、実は毛沢東が日中戦争における対日戦略として何度も議論したことなのです。毛沢東が書いた『持久戦を論ず(持久戦論)』という有名な本がありますが、これが2018年の末頃から北京で広く読まれているそうです。持久戦には3段階があり、1段階目は防御です。これは「遭遇戦」ともいわれます。2段階目は互角の対決で、これは「陣地戦」といわれます。3段階目には逆転の可能性があるといわれています。中国はこのような戦略に転じたという観測があります。
●2019年夏以降の展開と大統領選挙のためのパフォーマンス
その後の顛末は、8月にアメリカは中国を25年ぶりに、為替操作国として指定しました。輸出が減っているので、元安になっていたのです。中国はこれを意図的にやっているわけではないと反発しています。為替操作国に認定すると、アメリカの国内法でいろいろな方策が取れます。
今度は8月20日に、WTOがアメリカの中国に対する関税の算定の誤りを指摘したので、これまで過重に取られた関税を相殺するための報復関税をWTOに申請しました。
8月...