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新冷戦の始まりではないかといわれる対中強硬派の演説とは

米中ハイテク覇権戦争(4)対中強硬派の存在

島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授/テンミニッツTV副座長
情報・テキスト
トランプ大統領は再選を第一の目標としているために、中国にとって交渉の余地がある相手であることを前回の講義で解説したが、アメリカには強力な対中強硬派の地盤がある。習近平体制が、経済覇権を目指す動きを鮮明にすると、アメリカ国内の対中強硬派は、中国がアメリカの経済や安全保障における覇権を脅かす存在になるとして、国内の警戒感を煽っている。今回は、アメリカ国内における対中強硬派の言説を紹介し、その影響力について解説する。(全9話中第4話)
時間:09:04
収録日:2019/11/20
追加日:2020/02/01
カテゴリー:
キーワード:
≪全文≫

●対中強硬派の存在感が増大


 繰り返しになりますが、トランプ大統領の最大の関心は2020年の大統領選挙での再選です。全ての政策を、そのために実行してきました。米中貿易戦争は、トランプ氏の2016年大統領選における公約の結果です。高い関税をかけて、中国からの輸入を減らすことで、国内産業を活発にして雇用を増やすということです。これは、200年前の重商主義と酷似しています。その公約を達成していることを、示したいのです。

 ハイテク戦争では、アメリカは第1位で、世界最強の覇権でなければならない。そのためには中国の覇権の尖兵となっているファーウェイの牙城を切り崩す必要がある。こうした公約を実現して、選挙民の支持を固めることが最優先であり、そのために部分合意などのディールはあるのだという立場です。

 これに対して、アメリカには対中強硬派の地盤があります。1980年代以降の中国のめざましい経済発展を見て、中産階級の勃興によって欧米と価値観を共有する可能性が出てきたと、アメリカの人々は考えました。それならば、中国をWTO(世界貿易機関)などに迎えて、世界の仲間に入れようと、十数年前からアメリカは中国に比較的穏健な態度をとってきたのです。

 ところが、2012年に発足した習近平体制、さらに2017年に発足した第2次習近平体制によって、そうした期待は完全に裏切られたとアメリカの強硬派は自覚したわけですね。中国は欧米と価値観を共有するどころか、習近平政権下で大国意識をむき出して敵対的になり、国家主導の経済、軍事強化に邁進し始めたと見られ、アメリカにとってこれは非常に危険だと考えられました。アメリカの覇権への脅威と見る政治家、軍部、諜報部門、実業人が増えたのです。

 しかし、バラク・オバマ大統領は中国の行動に対して、「戦略的忍耐」といって、特に何かするということがありませんでした。したがって、こうした対中強硬派の意見は前面に出てきませんでした。ところがトランプ政権が誕生して、派手なことを始めたので、何でもありということで、この対中強硬派の存在感が非常に増大してきました。


●アメリカの対中強硬派のさまざまな言説


 対中強硬派は、民主党も含む幅広い層を持っています。その中でも注目されたのが、トランプ政権で副大統領を務めるマイケル・リチャード・ペンス氏です。彼は、2018年の10月2日に非常に右寄りのシンクタンクであるハドソン研究所で、対中強硬派を象徴する演説を行いました。これは頻繁に引用されますが、以下のような内容です。

 「1980年代以降の鄧小平主導の「改革開放」戦略による中国のめざましい発展を踏まえて、米欧は中国の発展による自由化を期待して、中国をエンゲージ、つまり取り込むためにWTOの加盟も支持し、手を差し伸べてきたが、完全に裏切られた。習近平政権は経済的に攻撃的であり、そして軍事力の強化に注力している。アメリカは、中国が不公正な貿易で米国に被らせた赤字は絶対に容認しない。中国共産党は『中国製造2025』を通じ、世界の先端産業の9割支配をめざしている。とくに中国はここ数年、自国民への統制と抑圧や少数民族への迫害を強化し、途上国には借金漬け外交を強要し、さらには台湾の孤立化を画策している。中国はトランプ政権の打倒を狙って、アメリカ国内政策と政治への干渉までしているではないか」

 このペンス氏の演説は大変注目されて、これが新冷戦の開始ではないかともいわれています。

 それだけではありません。実はアメリカ議会の超党派諮問機関、米中経済安全保障再考委員会(USCC)が、ペンス氏の演説の1カ月後の2018年の11月に、中国のハイテク技術が米国の安全保障上のリスクになると警告する報告書を公表しています。

 経済に関しては、多国間枠組みでは中国の不正な商慣行は是正できない。外資企業は中国の報復を恐れて、知的財産権保護を主張しにくい。中国がハイテク分野の国際標準で主導権を握れば、安全保障の重大なリスクになる。また安全保障に関しては、一帯一路を名目に整備した港湾は中国の軍事拠点にもなると、書かれています。

 さらに、アメリカは時折、「Committee on the Present Danger(CPD)」(日本語では「現在の危険に関する委員会」)を組織して、世論に向けたキャンペーンを行います。歴史上最初に組織されたのは1950年トルーマン政権下で、ソ連は敵対国で危険だと指摘しました。冷戦の終結以降は、民族紛争やテロなど新しい問題を危機として認めて、委員会を組織しました。今回、中国の脅威から米国を守ることが使命だとしてこのCPDが新たに組織され、CIA、国務省、国防省など政治、軍事、宗教、人権分野の専門家が結集して、世論に訴え始めました。

 ペンス副大統領はもう一度、決定的な演説を行いました。もっと早く行いたかったようですが、2...
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